「わが母の記」の劇場内は、中高年の観客で埋まっていた。
やがて来るであろう「老い」、現実に老親の介護に直面して
いる人にとっては、関心のある映画ということがうかがえる。
自分に重ね合わせて観るのだろうか。
1960年から70年頃の昭和の時代を背景にした家族のドラマだ。
認知症で徐々に壊れていく母の八重(樹木希林)を見守る
長男の洪作(役所広司)と妹、そして洪作の三人の娘たちの
葛藤が普遍的な日本の家族愛として描かれている。
崩れていく記憶のなかでも、我が子への愛だけは消えない、
母親の想いが切なく胸にせまる。
ラストで息子が母を背中におんぶして海辺を歩く。母をいつく
しむような洪作の表情、童女のように安心しきった八重の顔、
この場面には涙があふれた。
親子の愛は本質の愛であるということを暗示しているような
シーンだ。
出演している俳優は皆さんいい演技をしている。
役所広司さんは素晴らしい演技で見事なものだ。出色は
樹木希林さん、本当に名優だ。誰が見ても絶賛するはずだ。
キムラ緑子さんも、細かい動作まで上手に演じていた。
若い人にもぜひ観てもらいたい映画だ。