「逃げる」行為は日本社会では否定的に捉えられがちである。しかし、生きるた
めの大事な選択肢として位置付けることもできるのだ。
学校に行きたくなくて憂鬱(ゆううつ)になっている子どもたちが、たくさんいる
ことだろう。理由はさまざまだ。いじめ、部活の先生が厳し過ぎる、親の期待に沿
えない自分がつらい。しかし「学校に行け」のプレシャーは大きい。切羽詰まったら
取りあえず逃げる。どこに。自分の部屋、図書館、フリースクール、相談機関。そこ
で態勢を立て直し、次にやることを考えればいい。
「逃げたらダメだ」と大人は言うかもしれない。しかし、津波が来たら誰でも逃る。
銃を持った集団が家に押し入ってきたら誰でも逃げる。まず安全を確保して、次に
何をするか考える。それが当然の行動パターンだ。そう考えれば「恥」でもない。
災害時に早めに避難すると、むしろ褒められるではないか。
実は大人になっても「逃げる」ことが必要な場面がある。過酷な労働環境で働か
され、過労死や自殺に追い込まれる人が後を絶たない。真面目で責任感のある人
ほど「逃げる」選択肢を思いつかず、自分を追い込んでしまいがちである。
だからこそ今のうちに「逃げ方」を練習しておきたいのだ。まずは「逃げるは役に
立つ」と、口に出すところから始めればいい。
以上、西日本新聞コラムから抜粋
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「逃げるが勝ち」のことわざがある。逃げるのは一見卑怯なようにも見えるが、
戦うばかりが勝利への道ではなく、時には逃げるほうが得策になるということ。
「逃げるが勝ち」は「撤退する勇気」でもある。