だれかを好きになるという
こと。
愛するということ。
律はそれが怖かった。
好きな人のまえに、じぶんの
すべてを裸にして、さしだすと
いうこと。心を明け渡すという
こと。
それは律にとって、息が詰まり
そうなほど素晴らしい出来事で
あるとどうじに、いつかまた裏
切られるかもしれない―――
かつて、妻にそうされたように
―――という、恐怖でもあった。
だから律は、心に鍵をかけ、その
鍵を捨てた。これからは、だれに
も気持ちを動かされず、ひとりで
ひっそり生きていく。
どこにもとどまらず、たえず、
歩きつづけながら。
けれど、今夜ひとばんだけ、
じぶんに許そう。
律はふりかえって、鈴愛を見た。
今夜は禁を破って、鈴愛といっ
しょに過ごそう。叶うことなら
からだを寄せ合って、眠りたい。
朝までずっと、ふたりで。ああ、
こんな思いを味わうのは、いった
い何年ぶりのことだろう。
YouToue
メロディー 鈴木雅之 Masayuki Suzuki
https://www.youtube.com/watch?v=J0Q4JAijhO8