「物語のなかとそと」
江國香織 著
エッセイとかちょっとの掌編とか
エッセイとか。
少女と女といっしょくたん。
いたりするおとぎの国。
それはおとぎの国の円のなか。
円はもしかしたら重なる部分があって、
物語を与えてくれる。
広大な冬の草原を倒れながら歩いたり、
買った靴を家の中ではいて歩いたり、
わたしがわたしを歩いている。
散歩して言葉を拾う。
胸に抱えたり、抱っこしたり、
いっしょに寝てみたり、物語はわたしを歩む。
ときどき見詰めて。
ぼくもお酒が好きだ。
アルコールに弱いけれど、
とてもお酒が好きだ。
もうちょっと飲めたらなあ。
そしてもうちょっと大食漢だったらなあ。
夕焼けはだれのなかにも存在していた。
見惚れて、佇って、でもすこしだけ淋しくなって。
自覚をし
いまよりも
自覚をし
まっしろな大地に
あしあとのこす
矛盾をはなす
考えをはなし
おもいをはなす
気持ちをはなすまで
本屋さんで
目移りする
いいんです
私に合うの
匂いと肌の
記憶の中のいくつかの断片が
おかしな順序でつながっていく
あるはずのない物語が
拾ってきた思い出をあてはめて
おもわぬところに脚色をつけ
強烈で目の覚める一場面の情景を
生み出していく
思い描けば感動的で息のつまる
手を伸ばせば触れることができて
景色には温度がちゃんとあり
体験していないはずの出来事が
デジャブのように感じられる
曖昧模糊とした憂鬱がそうさせるのか
または色鮮やかな花吹雪がそうさせるのか
眠りの中の夢の世界
体のどこかにある色とりどりの感情や想いは
辿り着いた記憶によって起こされる
喜怒哀楽は揺りかごに揺られ
眠りの中で待っている
呆れるほどの花束を抱きかかえ
周りから見ればおかしなほどの歩き方
恋焦がれた人に会いたい
そんな気持ちにも似た心は
足をおとぎの国に変える
けれども頼りない手は色を摑み損ねる
そして淡い記憶がまた出来上がる
意味深げな記憶を一つ取り出し
今度は自覚の中で落書きする