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絲山秋子著『イッツ・オンリー・トーク』感想

2022-09-02 23:29:00 | 日記
新刊の順番を待ってる間にもう一冊。

このお話、ぶっ飛んでる。そしてサクサク読める。さらにスルーっと物語に馴染んで、やっぱり癒される…

絲山さんって、懐深いなあといつも感心してしまう。

さて、一応、あらすじ。

引っ越しの朝、男にふられた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候ーー遠い点と点とが形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キングクリムゾンに乗せて「ムダ話しさ」と歌い飛ばすデビュー作。(文庫本背表紙より)

新聞社に勤めていた優子だったが、ローマ支局に赴任したり、精神病院で暮らしたらしてるうちに、ほとんどの友だちとの音信が途絶えた。今は、絵を描いて暮らしている。

さっぱりした性格の優子は、3日で引っ越しが終わると男のことも忘れた。次の朝、本間という同級生に出会うと彼を軽く飲みに誘う。
そして、家に連れ込む。

ところで、この本の解説は絲山秋子ファンの書店員村上祐子さんが書いている。(それも肩の力抜けてて良いなあ。)
絲山さん自身からいつもお世話になっているから、と解説を依頼されたそうである。スゴイ栄冠です。

「これから絲山秋子さんの「イッツ・オンリー・トーク」の解説を書きます。」って作文みたいな出だしがまた初々しくて面白い。この作品にピッタリな気がする。

その村上さんが一番好きな部分が

「私は誰とでも寝てしまうのだ、好き嫌いはあまり関係ない。淋しいとかじゃない。迷わない。お互いの距離を計りあって苦しいコミュニケーションをするより寝てしまった方が自然だし、楽なのだ。(略)だが、(略)男友だちが一人ずつ消えていくのだった。それはパンをトーストするのと同じぐらい単純なことで、(略)食べてしまえば実にあっけらかんと何も残らないのだ。」

セックス好きですけど、何か?って感じの優子。どこか欠けてるんだろうか、とも思ったけど、違うみたい。

優子は思う。

優子は同級生でEDの議員本間とのセックスで、やはり最後までできないのだが、それなりの満足感を得て、
「庭付き一戸建ての本間が欲しいわけではない。眠れるスペースとしての男が欲しいだけだった。(…略…)
やがて私が終わると本間は気が遠くなるほど長い間私の髪を撫でていた。(略)
性的なものでなく、とろりとした幸福感があった。そういうことがどんなに女にとってたいせつなのか本間が知っているとは思えなかった。」

優子にとって大切なのは、身体的快楽だけではないのだ。癒されることを望んでる。相手も誰でも良い訳ではない。ちゃんと選んでて、一番相性が良いのが「痴漢」なのだ。


痴漢とのセックスに耽ったあと、優子はお風呂で頭の先から足の先まで痴漢にあらってもらう。その時、ずっと私はそうして欲しかったのだと判った、と思う。


これは快楽を超えて癒しを彼女が求めている証拠だと思う。でも、癒しはずっとは続かない。痴漢は恋人でもないし。

生きづらさを抱えながら、アッケラカンと癒しとの出会いを求める優子の不思議な存在感。たくましくも哀しい優子の日常に、もう少し付き合っていたいような気がした。






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