Lilac-Garden

写真で綴る日々の記録 & クラギ練習帳

第5回「時代が変わるとき」

2007年06月12日 | 駄菓子屋世代のストーリー



第2回でお話した小さな町の話を覚えているだろうか。ちょうどその頃にできた環七道路と地下鉄駅の誕生で、町は人の流れを変えてしまう。バス停が一つきりの、幼い日々を過ごしたあの小さな界隈は、ずっと、私の知らない遥か昔から賑わい、笑い合って生きてきたのだろう。その最後の一瞬に私は加わっていたのだと感じる。蝋燭の火が消えるようにして掻き消えた、懐かしくて小さな優しい町に私はそんな記憶を持っている。

地下鉄駅が出来ると、周辺は大きく変貌する。それまで足を運ぶ事もなかったその場所は、始終道路工事の騒音がやかましい。建物建設でいつもほこりが舞っていたし、そこへつながる道路は揃ってアスファルト工事を始めた。道を掘り返しては黒いコールタールを流し込み、乾く間の保護のために、まるで継ぎはぎのように大きな鉄板が敷かれていった。

一方、環七ではひっきりなしに車が行き交い、大きな交差点ではクラクションが悲鳴のように鳴り叫んだ。なんだか騒々しくて馴染めない思いがしたのだが、それでも生活の拠点となり、目新しいものが立ち並ぶと、とうとうその違和感も忘れてしまったのだろう。

慌てたように並んだ商店は、小さな通りを「○○銀座商店街」と名づけられた。八百屋、魚屋、肉屋、本屋に金物屋に文房具屋。洒落た雑貨屋や洋服屋もある。新しい本屋の店先で立ち読みすれば、眼鏡おじさんのハタキが飛んでくるのがおもしろかったし、雑貨屋に並んだカップや置物、大きな文房具屋さんの品揃えの楽しさに時を忘れる。新しい町はちょっとすましていた。だが、誰にとっても魅力的だったと思う。

夕方になると、地下鉄の駅階段はたくさんの人を吐き出した。「○○銀座」はお勤め帰りのパパさんたちが足早に家路を急ぐ風景へと変わり、靴音がせわしなくコツコツ響いて一日が終わった。そして、それぞれの家庭でそれぞれの小さな明かりが灯る。

そう、それでもまだ街は規則正しく呼吸をしていた。懐かしい「昔」のお話である。






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