毎日放送のちちんぷいぷいで先週キューバ特集をやっていました。「世界で唯一成功したと言われる社会主義国キューバ」という冒頭の紹介から興味津々。
アナウンサー石田英司氏のキューバ訪問記で、残念ながら最終日の12月17日しか観られませんでしたが、この日のテーマは「社会主義は人々を幸せにしたの?」で、来年4月に開催される第6回共産党大会に向けてキューバが直面している困難とその克服のための格闘の一端を示していてとても興味深いものでした。見逃してしまった日の内容は、リゾート観光地、無料の教育や医療システムなどについて紹介されていたようです。
取材規制なども全くなくて拍子抜けしたというような報告もあり、出演者(お笑いタレントなど)も温かいまなざしがありました。
100万人の余剰労働力の配置転換
以下のような紹介がありました。
・まず、キューバ革命についての概略の説明。米国の半植民地から、カストロ、ゲバラら革命戦士がゲリラ闘争を闘い、自分たちの手に国を取り戻した。
・普通の家庭には、カストロ、ゲバラ、カミーロの写真が飾ってある。額に入れて仰いでいるというのではなく、テーブルに家族の写真のように置かれている。革命闘争を闘った世代がまだ生きている。
・来年4月、14年ぶりに第6回キューバ共産党大会が行われることになり、大々的な準備が行われている。
・ラウル国家評議会議長の発言。「このままではこの国は持たない、競争原理を導入しなければならない」。
08年7月ラウルの発言「平等主義は怠け者が働き者を食い物にする」。働いた人に報いる制度を作らないとこの国はダメになる。
・520万人中100万人の公務員(政府機関の役人など)が余剰労働力となっていて、これを農業部門や工業部門、商業部門に異動させるということが最大の課題。
・石田氏の取材映像には、「働かないキューバ人」が映っていた。
朝の10時頃に新市街地で取材をすると、明らかに就労年齢の大の男たちがぶらぶらしている。通訳は「これがみんな国家公務員なんです」と嘆いている。そのぶらぶらしている男たちは悪びれる様子もなく、カメラにポーズをして、「男前にとってくれた?」というような反応をする。
日本の新聞などでは“ついにキューバも市場経済を導入か”というような報道がなされていますが、計画経済か市場経済かというようなイメージとは違い、「働かない者にも平等に給料を与える余裕はない、自分の頭で考えて仕事をしてくれ、ついては自営業も認めよう、国の農業や工業で働きたいならそれも世話しよう」という感じで、「能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」という本来の社会主義の原則を貫く方向へ持って行こうとしていると思いました。
その意味で、物的刺激(超過報酬)で生産や生産性の向上を目指すというより、もっと道徳的刺激、つまり社会のため、みんなのために働いて報酬を得るという、社会主義の基本精神を改めて強調しているように思いました。
市場経済との関係では、今問題になっているのは、「一儲けをしたいギラギラの市場主義者が、資本主義化を求めている」というのではなく、国家機関にぶら下がっている100万人の余剰労働者に対して、とにかくちゃんと働いてほしい、食料をつくらなければならないので、農業労働者になることが奨励されているということではないかと思いました。
黄色いパンの謎
しかしながら、自営業は自由市場、民営化の拡大をもたらすのは避けられず、社会主義の基礎を掘り崩す危険をはらんでいます。政府はそれをコントロールすることにかなり気を遣っていることもわかりました。それが黄色いパンです。
民営のサンドイッチ屋で売られているパンはすべて黄色をしています。それは、パンを自営店でつくって自由市場で売るのは認められているが、原料である小麦粉は国の指定業者から買わなければならない、そしてその小麦は、パンを焼いたら黄色くなるように着色されていて、それによって闇のパンか政府の公認を受けた自営業で作られたパンかが一目瞭然になるようになっているそうです。
「白いパン食べてたら、君、そのパンどこで買うたんや?ということになる」(石田氏)。
この試みについても「わかり安くていいねえ」「ピンクよりまし」「青いパンはイヤやけど」と、出演者から好意的に受け止められていました。ただおもしろかったのは、政府役人か「秘密警察」が、パン屋がちゃんと黄色いパンを焼いているかどうかを監視しているようにはみられなかったというのがいかにもキューバ的だったという指摘でした。おそらく、市民みんながわかっているので、道徳的にヤミパンをつくりにくいような雰囲気を作り出しているのではないかと思います。
「不安に思っていることはないですか。」「ないです。」
テーマ「社会主義は人々を幸せにしたの?」との絡みで、「今不安に思っていること」をキューバ市民に街で問いかけていました。社会主義の国でこんな質問をするのは無理ではないか、聞けてもホンネを言わないのではないかという懸念をもっていたようですが、それは全くないということでした。
妊婦さんのためのケア施設で、「将来の不安はありますか」という質問をぶつけます。
「健康な赤ちゃんが生まれてくるか不安」(お母さん)
「赤ちゃんの他になにか不安がありますか」(石田)
「不安なんかないわ」(お母さん)
「赤ちゃん以外になにか不安がありますか」(石田)
「不安はない」(別のお母さん)
今度はアイスクリーム屋で、
「不安なんてないよ」(中年の男性)
「唯一の不安は世界の将来です。戦争がおこらないか不安です」(おばあさん)
自転車タクシーの運転手。
「寒くて客がこないことだ」(運転手)
「もう少し先のことでなんかないんですか」(石田)
「経済制裁が無くなったらキューバがどういう国になるかみてみたいね」(運転手)
などと、不安を感じている人は本当にいませんでした。
「キューバは社会主義の孤塁を守れるか」
まとめとして「キューバは社会主義の孤塁を守れるか」ということばが出てきました。
誰も不安を口にしないことについて石田氏は、“最初はみんなそう言わされてるのではないかと思ったがそうではないと気づいた”として、以下のような説明をしました。
日本や米国では国家=国であって、国家はますます市民から乖離したものになっているが、キューバでは国家=家であって、国民は、国への家庭的信頼があり、「お父さん(指導者)がなんとかしてくれる」と考えている。モノは不足しているが政府を信頼して、なんとかなるんじゃないかと考えている。
もちろんそれは国家とキューバ指導部への国民の信頼のあらわれですが、逆にこのような緊張感のなさが現在のキューバの国民をある程度支配していて、それが大きな困難を強いていることを示唆しています。
たしかに、キューバ政府が8月に出した「経済的・社会的発展政策計画」には、“キューバに於ける社会主義の継続を危機にさらすような、国が父権的役割を果たさざるを得なくなる対策を修正することである”という内容があり、「お父さんが何とかしてくれる」という国民の甘えを払拭していくというのが大きな狙いの一つではないかと思います。
ラウル・カストロは、キューバ経済の現実はそう甘くない、米国の厳しい経済制裁下で危機はこのままではやっていくことが出来ないところまで来ていると、国民に緊張と危機感をもつよう提案し改革を打ち出しています。
現在、改革のための議論が街中で、家庭で、職場で、労働組合で、ありとあらゆる場所で、国民を上げてなされている現状にあるようです。こうしてみてみると、キューバがついに市場主義を導入とか、資本主義を復活とか、社会主義を放棄とかいうのとは全く逆で、革命と社会主義を貫いていくために、あらためて社会主義的な自覚と行動を呼びかけていると言えそうです。
冒頭にあった「世界で唯一成功したと言われる社会主義国キューバ」、是非この改革が成功して欲しいと思います。
(ハンマー)
アナウンサー石田英司氏のキューバ訪問記で、残念ながら最終日の12月17日しか観られませんでしたが、この日のテーマは「社会主義は人々を幸せにしたの?」で、来年4月に開催される第6回共産党大会に向けてキューバが直面している困難とその克服のための格闘の一端を示していてとても興味深いものでした。見逃してしまった日の内容は、リゾート観光地、無料の教育や医療システムなどについて紹介されていたようです。
取材規制なども全くなくて拍子抜けしたというような報告もあり、出演者(お笑いタレントなど)も温かいまなざしがありました。
100万人の余剰労働力の配置転換
以下のような紹介がありました。
・まず、キューバ革命についての概略の説明。米国の半植民地から、カストロ、ゲバラら革命戦士がゲリラ闘争を闘い、自分たちの手に国を取り戻した。
・普通の家庭には、カストロ、ゲバラ、カミーロの写真が飾ってある。額に入れて仰いでいるというのではなく、テーブルに家族の写真のように置かれている。革命闘争を闘った世代がまだ生きている。
・来年4月、14年ぶりに第6回キューバ共産党大会が行われることになり、大々的な準備が行われている。
・ラウル国家評議会議長の発言。「このままではこの国は持たない、競争原理を導入しなければならない」。
08年7月ラウルの発言「平等主義は怠け者が働き者を食い物にする」。働いた人に報いる制度を作らないとこの国はダメになる。
・520万人中100万人の公務員(政府機関の役人など)が余剰労働力となっていて、これを農業部門や工業部門、商業部門に異動させるということが最大の課題。
・石田氏の取材映像には、「働かないキューバ人」が映っていた。
朝の10時頃に新市街地で取材をすると、明らかに就労年齢の大の男たちがぶらぶらしている。通訳は「これがみんな国家公務員なんです」と嘆いている。そのぶらぶらしている男たちは悪びれる様子もなく、カメラにポーズをして、「男前にとってくれた?」というような反応をする。
日本の新聞などでは“ついにキューバも市場経済を導入か”というような報道がなされていますが、計画経済か市場経済かというようなイメージとは違い、「働かない者にも平等に給料を与える余裕はない、自分の頭で考えて仕事をしてくれ、ついては自営業も認めよう、国の農業や工業で働きたいならそれも世話しよう」という感じで、「能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」という本来の社会主義の原則を貫く方向へ持って行こうとしていると思いました。
その意味で、物的刺激(超過報酬)で生産や生産性の向上を目指すというより、もっと道徳的刺激、つまり社会のため、みんなのために働いて報酬を得るという、社会主義の基本精神を改めて強調しているように思いました。
市場経済との関係では、今問題になっているのは、「一儲けをしたいギラギラの市場主義者が、資本主義化を求めている」というのではなく、国家機関にぶら下がっている100万人の余剰労働者に対して、とにかくちゃんと働いてほしい、食料をつくらなければならないので、農業労働者になることが奨励されているということではないかと思いました。
黄色いパンの謎
しかしながら、自営業は自由市場、民営化の拡大をもたらすのは避けられず、社会主義の基礎を掘り崩す危険をはらんでいます。政府はそれをコントロールすることにかなり気を遣っていることもわかりました。それが黄色いパンです。
民営のサンドイッチ屋で売られているパンはすべて黄色をしています。それは、パンを自営店でつくって自由市場で売るのは認められているが、原料である小麦粉は国の指定業者から買わなければならない、そしてその小麦は、パンを焼いたら黄色くなるように着色されていて、それによって闇のパンか政府の公認を受けた自営業で作られたパンかが一目瞭然になるようになっているそうです。
「白いパン食べてたら、君、そのパンどこで買うたんや?ということになる」(石田氏)。
この試みについても「わかり安くていいねえ」「ピンクよりまし」「青いパンはイヤやけど」と、出演者から好意的に受け止められていました。ただおもしろかったのは、政府役人か「秘密警察」が、パン屋がちゃんと黄色いパンを焼いているかどうかを監視しているようにはみられなかったというのがいかにもキューバ的だったという指摘でした。おそらく、市民みんながわかっているので、道徳的にヤミパンをつくりにくいような雰囲気を作り出しているのではないかと思います。
「不安に思っていることはないですか。」「ないです。」
テーマ「社会主義は人々を幸せにしたの?」との絡みで、「今不安に思っていること」をキューバ市民に街で問いかけていました。社会主義の国でこんな質問をするのは無理ではないか、聞けてもホンネを言わないのではないかという懸念をもっていたようですが、それは全くないということでした。
妊婦さんのためのケア施設で、「将来の不安はありますか」という質問をぶつけます。
「健康な赤ちゃんが生まれてくるか不安」(お母さん)
「赤ちゃんの他になにか不安がありますか」(石田)
「不安なんかないわ」(お母さん)
「赤ちゃん以外になにか不安がありますか」(石田)
「不安はない」(別のお母さん)
今度はアイスクリーム屋で、
「不安なんてないよ」(中年の男性)
「唯一の不安は世界の将来です。戦争がおこらないか不安です」(おばあさん)
自転車タクシーの運転手。
「寒くて客がこないことだ」(運転手)
「もう少し先のことでなんかないんですか」(石田)
「経済制裁が無くなったらキューバがどういう国になるかみてみたいね」(運転手)
などと、不安を感じている人は本当にいませんでした。
「キューバは社会主義の孤塁を守れるか」
まとめとして「キューバは社会主義の孤塁を守れるか」ということばが出てきました。
誰も不安を口にしないことについて石田氏は、“最初はみんなそう言わされてるのではないかと思ったがそうではないと気づいた”として、以下のような説明をしました。
日本や米国では国家=国であって、国家はますます市民から乖離したものになっているが、キューバでは国家=家であって、国民は、国への家庭的信頼があり、「お父さん(指導者)がなんとかしてくれる」と考えている。モノは不足しているが政府を信頼して、なんとかなるんじゃないかと考えている。
もちろんそれは国家とキューバ指導部への国民の信頼のあらわれですが、逆にこのような緊張感のなさが現在のキューバの国民をある程度支配していて、それが大きな困難を強いていることを示唆しています。
たしかに、キューバ政府が8月に出した「経済的・社会的発展政策計画」には、“キューバに於ける社会主義の継続を危機にさらすような、国が父権的役割を果たさざるを得なくなる対策を修正することである”という内容があり、「お父さんが何とかしてくれる」という国民の甘えを払拭していくというのが大きな狙いの一つではないかと思います。
ラウル・カストロは、キューバ経済の現実はそう甘くない、米国の厳しい経済制裁下で危機はこのままではやっていくことが出来ないところまで来ていると、国民に緊張と危機感をもつよう提案し改革を打ち出しています。
現在、改革のための議論が街中で、家庭で、職場で、労働組合で、ありとあらゆる場所で、国民を上げてなされている現状にあるようです。こうしてみてみると、キューバがついに市場主義を導入とか、資本主義を復活とか、社会主義を放棄とかいうのとは全く逆で、革命と社会主義を貫いていくために、あらためて社会主義的な自覚と行動を呼びかけていると言えそうです。
冒頭にあった「世界で唯一成功したと言われる社会主義国キューバ」、是非この改革が成功して欲しいと思います。
(ハンマー)
http://embacuba.cubaminrex.cu/portals/55/Lineamientos_JAP.pdf
その冒頭に、フィデル・カストロの言葉が掲げられています。
「革命とは歴史的瞬間の意識である。すなわち変革しなければならないものすべてを変革することであり、完璧な平等と自由である。自分が人間として扱われること、そして自分以外の人々を人間として扱うことである。自らが、自らの努力をもって自らを解放することである。革命とは社会と国家の状況の内外にいる強大な支配勢力に挑戦することである。革命はいかなる犠牲もかえりみずに信じるものの価値を守りきることである。革命とは謙虚さ、無私、他者を生かす精神であり、連帯、英雄主義である。勇敢さ、知性、現実主義をもって闘うことである。決してウソをついてはならず、倫理的原則をはずれてはならない。革命は、真実と思想の力を打ちのめすことのできる力は世界に存在しないという深い信念である。革命は団結であり、独立である。キューバと世界のため、正義という夢のために闘うことである。これが私たちの愛国主義、社会主義、国際主義の基本である。」
フィデル・カストロ・ルス
2000年5月1日