7月1日の各紙夕刊トップに「景況感 2年半ぶり改善」の文字がおどった。「10ポイント上昇」と報じた。日銀短観の記事である。しかし、見出しから受ける印象と実際の記事の内容とは、大きく食い違っていた。
「日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス48と、過去最悪だった3月の前回調査(マイナス58)から10ポイント上向いた。改善は2006年12月以来、2年半ぶり。」(日本経済新聞)
マイナス58から、マイナス48へ、「10ポイント上昇」!!!
「業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値」で、製造業15業種のうち13業種で改善したという。大きく改善したのは自動車と電気機械で、自動車は13ポイント上昇してマイナス79に、電気機械は17ポイント上昇してマイナス52になったという。つまり、前回調査では、それぞれマイナス92とマイナス69だったということだ!!
ウソを書いているわけではないが、何か漫画的である。朝日新聞や読売新聞も含めて天下の大新聞の一面トップである。
しかし、あわせて添えられている見出しでは、「設備投資は大幅減」や「路線価 4年ぶり下落」とある。これらは、景気がそう簡単には回復しそうにない、逆に悪化さえしそうだということを意味するものである。また、前日には「5月 失業率5.2%に悪化 / 求人倍率、最低の0.44倍」という記事も出ていた。それらは厳然たる事実の方である。10ポイント改善したのは景況「感」、つまり企業・経営者の主観の方である。それも大幅マイナスという大枠は変わらない下での「改善」である。
まもなく東京都議選、その後に解散・総選挙かという状況のもとで、経済が「改善」してきたということをこじつけでもなんでもいいから少しでも印象づけよう、そういう意図の記事だと思われる。こっけいさを通り越してあきれるほどの記事である。
翌日7月2日の朝刊では、事実のもつ重みの方が上回って、前日夕刊一面トップの「改善」の印象づけを修正するような記事が目立った。特に、日本経済新聞は主張で取り上げて、次のように論じた。
「企業の景況感が持ち直したのは2年半ぶりだが、設備投資の減少や雇用悪化は続いており、景気の本格回復の展望は開けていない。」「短観での大企業・製造業のDIの改善は、在庫調整の進展で多くの企業が「最悪期は脱した」と判断していることを示しているのだろう。だが、改善したといっても … DIの水準はマイナス48で、日本の金融システム不安が強かった1999年3月と同程度だ。…」
「2009年度の設備投資計画は、大企業・製造業で前年度比24.3%減と6月調査としては過去最大の減少率となった。09年度の新卒採用計画も全産業で前年度比8.2%減と、就職氷河期だった03年度以来のマイナスだ。」「政府は6月の月例経済報告で事実上の「景気底打ち」を宣言したが、景気の先行きにはなお不安材料も多い。…… 所得の減少と雇用情勢の悪化が続くなかで国内消費が底割れする懸念もある。」
主張とあわせて第3面掲載の関連記事は、「企業業況なお水面下 / 先行き不安 投資に慎重」という見出しであった。読売新聞も、第11面ではあるが6月短観についての記事を大きく載せ、「景況感 なお低水準 / 需要増「一時的」の見方」と報じた。こういう見出しこそ、前日夕刊一面トップの見出しにふさわしかったはずのものである。
(H.Y.)
「日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス48と、過去最悪だった3月の前回調査(マイナス58)から10ポイント上向いた。改善は2006年12月以来、2年半ぶり。」(日本経済新聞)
マイナス58から、マイナス48へ、「10ポイント上昇」!!!
「業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値」で、製造業15業種のうち13業種で改善したという。大きく改善したのは自動車と電気機械で、自動車は13ポイント上昇してマイナス79に、電気機械は17ポイント上昇してマイナス52になったという。つまり、前回調査では、それぞれマイナス92とマイナス69だったということだ!!
ウソを書いているわけではないが、何か漫画的である。朝日新聞や読売新聞も含めて天下の大新聞の一面トップである。
しかし、あわせて添えられている見出しでは、「設備投資は大幅減」や「路線価 4年ぶり下落」とある。これらは、景気がそう簡単には回復しそうにない、逆に悪化さえしそうだということを意味するものである。また、前日には「5月 失業率5.2%に悪化 / 求人倍率、最低の0.44倍」という記事も出ていた。それらは厳然たる事実の方である。10ポイント改善したのは景況「感」、つまり企業・経営者の主観の方である。それも大幅マイナスという大枠は変わらない下での「改善」である。
まもなく東京都議選、その後に解散・総選挙かという状況のもとで、経済が「改善」してきたということをこじつけでもなんでもいいから少しでも印象づけよう、そういう意図の記事だと思われる。こっけいさを通り越してあきれるほどの記事である。
翌日7月2日の朝刊では、事実のもつ重みの方が上回って、前日夕刊一面トップの「改善」の印象づけを修正するような記事が目立った。特に、日本経済新聞は主張で取り上げて、次のように論じた。
「企業の景況感が持ち直したのは2年半ぶりだが、設備投資の減少や雇用悪化は続いており、景気の本格回復の展望は開けていない。」「短観での大企業・製造業のDIの改善は、在庫調整の進展で多くの企業が「最悪期は脱した」と判断していることを示しているのだろう。だが、改善したといっても … DIの水準はマイナス48で、日本の金融システム不安が強かった1999年3月と同程度だ。…」
「2009年度の設備投資計画は、大企業・製造業で前年度比24.3%減と6月調査としては過去最大の減少率となった。09年度の新卒採用計画も全産業で前年度比8.2%減と、就職氷河期だった03年度以来のマイナスだ。」「政府は6月の月例経済報告で事実上の「景気底打ち」を宣言したが、景気の先行きにはなお不安材料も多い。…… 所得の減少と雇用情勢の悪化が続くなかで国内消費が底割れする懸念もある。」
主張とあわせて第3面掲載の関連記事は、「企業業況なお水面下 / 先行き不安 投資に慎重」という見出しであった。読売新聞も、第11面ではあるが6月短観についての記事を大きく載せ、「景況感 なお低水準 / 需要増「一時的」の見方」と報じた。こういう見出しこそ、前日夕刊一面トップの見出しにふさわしかったはずのものである。
(H.Y.)