[書籍紹介]
賄い屋の高田屋の七兵衛は、
念願の料理屋の出店を
弟子の太一郎に託す。
深川の良い場所に
貸し店舗を見つけ、
「ふね屋」の名前で店を出す。
初の客として迎えた雑穀問屋の宴席で
とんでもない事態が起こる。
抜き身の刀が現れて人々に切りつけて来たのだ。
宴席は阿鼻叫喚の場となり、
ふね屋の将来に黒雲が立ち込める。
その騒動の背景を知っている人物がいた。
太一郎と多恵の一人娘・12歳のおりんだ。
おりんには、この建物に住み着いている
5人の幽霊が見えていたのだ。
抜き身の刀を振り回すおどろ髪、
それを叱りつける美形の剣士・玄之介、
美しく艶っぽい姐さんのおみつ、
腕利きの按摩である笑い坊、
おりんの姿を見るたび「あかんべえ」をしてくる女の子・お梅。
おりんは大病で生死を彷徨い、
三途の川まで行ったことがあり、
その結果、お化けが見えるようになってしまったのだ。
次第に真相が見えて来た。
そのあたりは、昔、寺が建っていたところで、
料理屋の場所は元は墓場。
30年前にある事件が寺で起こり、
その時に成仏できなかった5人の幽霊が住み着いていたのだ。
5人全員の姿はおりんにしか見えないが、
いろいろわけがある人物には、
ある特定の幽霊が見える。
こうして、おりんによって、
30年前の惨劇と
5人が幽霊になって留まっているわけが次第に明らかになってくる・・・
という話が、実にていねいに、
手を抜かずに、
しかも、宮部みゆき独特の
暖かいまなざしで描かれる。
お化けが見える人は、お化けと同じ心のしこりを持っており、
ふね屋に集った人々の心のしこりが様々な形で現れ、
思いがけない出来事が襲ってくる展開も見事。
人間の心に巣食う闇が人間関係を狂わせる。
最後に成仏した5人の幽霊の
去り際も情感たっぷり。
それにしても長い。
文庫本上下2巻で、計700ページ弱。
これだけの長さを読み続けられる、
宮部みゆきの筆力がすごい。
この長大な話、
2023年、劇団前進座で上演された。
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