[書籍紹介]
「このミステリーがすごい! 大賞」受賞作の
岩木一麻による「がん消滅の罠 完全寛解の謎」の続編。
登場人物は同じで、
日本がんセンターの医師・夏目典明とその妻・紗希、
同僚の羽島悠馬、
友人の大手保険会社の森川雄一と部下の水嶋瑠璃子。
3つの事件が並行して描かれる。
まず、連続医師殺人事件。
犯行の描写から、真栄田邦正という医師の犯行は明らかだが、
現場にわざと自分のDNAを残す。
捜査に当たった二人の刑事の来訪を受け、
その目の前で、口内からDNAを提供するのだが、
現場に残った犯人のDNAとは、一致しない。
次に、保険会社の森川雄一が夏目に持ち込んだ案件。
住宅ローンのがん団体信用保険を利用した保険金詐欺を疑うもの。
がん団信では、がんと診断された時、
未払いの住宅ローンの支払い義務がなくなる。
上限に近い1億円の物件で住宅ローンを組んだ後、
短期の間にがんと診断され、
住宅を低額で取得できた例が5件も連続したというのだ。
しかも、5件全てがメラノーマという皮膚がんで、
黒く発色することから、
内臓のがんと違い、素人が自分でがんと発見しやすい。
既に4件は保険金の支払い済のため、
残る1件の該当女性に当たってみると、
購入した住宅に住んだ形跡がない。
あやしい。
このがんは、人工的に発生させられたものではないのか。
次に、厚生族の国会議員・南雲が脅迫を受ける。
ある事案を成立させるために働かないなら、
がんで死なせるというのだ。
南雲は、細心の注意をして、
がんの移植などさせない体制を整えたのにかかわらず、
脅迫に屈しなかった南雲の体にがんが発生してしまう。
この3つの謎がからみあいながら、
犯人の真栄田の意図が明らかになっていく。
前代未聞の犯罪計画の全貌とは・・・
その背景として、
がんの代替医療や自由診療の闇がある。
通常の手術等で生きながらえることが出来たがん患者が、
あやしげな代替医療に頼ったことによって、
命を落とす事例が沢山ある。
「がんは切らずに治る」とか、
高額な栄養ドリンクを飲ませる行為だ。
がん患者は、藁にもすがる思いで、選択してしまい、
正しい医療を遠ざけてしまう。
厚生労働省の調査では、
がん患者のうち約45%が
一種類以上の代替医療を利用し、
平均して月に5万7千円を出費しているという。
がんを人工的に発生させることなど出来るのか。
初期のがんを切除して、培養した後、
注射すれば、人工的に転移を起こすことが出来るが、
免疫抑制剤を使わないと、拒絶反応を起こす。
どうやってそれをクリアするか。
羽島は、注入されたがん細胞を「暗殺腫瘍」と呼ぶ。
人体は一種の密室だ。
そこにどうやって暗殺腫瘍を注入できるのか。
一種の「密室殺人」。
医師猟奇殺人の2件目の被害者に関わる真相は、
意表をつくものだった。
また、真栄田のDNA採取のトリックも、へえ、と思わせるものだった。
連続殺人の動機、
保険金詐欺の真相、
人体という密室に送り込まれたがん細胞。
前作より手の込んだ、
読みごたえのある医療ミステリーだった。