[書籍紹介]
カツセマサヒコの長編第2作。
川谷絵音(かわたにえのん)率いる
ロックバンドindigo la End (インディゴラエンド)のアルバム、
「夜行秘密」(2021年2月)に触発された小説。
14の章からなり、
章の題名は、アルバム収録の14曲から取られている。
(順番は変わっている)
2021年7月に発刊。
宮部あきらという映像作家を巡る群像を描く。
宮部あきらは、ある映画の脚本を担当したことでブレイクし、
それ以降、破竹の勢いで仕事をし、
会社を立ち上げ、ワンマン経営で
様々な映像作品を世に送り出して来た。
その宮部に新進バンドのミュージックビデオの依頼が入る。
その製作の過程で触れ合う人との交流と、
マネージャーからパワハラ、セクハラで
訴えられての凋落と破局を描く。
各章ごとに視点となる人物が変わる。
宮部あきらのファンで一時期恋人となった女性、
ミュージックビデオ制作を依頼したバンドのメンバー
(岡本音色という、川谷絵音を彷彿させる名前)
その恋人で、後に宮部あきらとも同棲する女性、
その女性と駅の待合室で会話して共感した男性、
セクハラ、パワハラを告発した女性マネージャー、
宮部あきらの両親、
そして、宮部あきら本人。
これらの人物が接触する時、
その内面の喪失と苦悩と後悔と絶望が共鳴しあう。
パワハラ、セクハラ、DV、SNS による誹謗中傷、
性的マイノリティ、など
現代の問題が盛り込まれる。
宮部あきらを初めてこの目で見たとき、
私は恐れ多くも、
自分はこの人と似ている、と思いました。
もちろん外見の話ではなく、
思考や思想の話でもありません。
ただ、自分が誰にも必要とされていないことを自覚し、
あらゆるものに嫌気が差した人だけが漂わせる空気。
そのようなものを感じて、
ああ、この人は、私と同じだ、
絶望していたのは、私だけじゃなかったんだと、
そう思えたのです。
最後の一行、
――それは、彼女と僕だけの秘密です。
が重い。
ヘビーな物語で、読後感はすこぶる悪いが
これがカツセマサヒコの世界だろう。
文庫版には、
カツセマサヒコ×川谷絵音の特別対談
が付いている。
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