[書籍紹介]
三五館シンシャの職業日記シリーズ、
第17作目(多分)。
著者の須畑寅夫(すばた・とらお、仮名、60歳)は、
大学卒業後、中学教諭、塾講師、高校教諭を経て、
47歳の時、バスドライバーに。
子どもの頃から、運転手になるのが夢だったといい、
心配する妻を説得しての転職だった。
家族は妻と二女。
神奈川の私鉄系会社で路線バス運転士を12年間勤めた。
59歳の時に、病気(一過性脳虚血発作)で
退職を余儀なくされるまでの
バスドライバーとして体験したさまざまなエピソードを、
ユーモアを交えてつづる。
現在はショピングセンターの警備員として働く。
私の住む浦安市内にも、
一つバス会社があり、
運行路線が編み目のように市内を覆っている。
スケジュール通りシフトを組んで、
時間通りに運行するのは、
さぞ大変だと思うが、
いろいろ本書で細部を知って、参考になった。
主な学習点を↓に記す。
○須畑さんの場合、
高校専任講師の立場での年収は450万円ほど。
バスドライバーへの転職1年目の年収は420万円。
国税庁調査による
給与所得者の平均給与は461万円だから、
ほんの少し下回る。
「班長」になると手当てが付くので、
合算すると550万円ほどになる。
○運行する路線は毎回違うので、
研修期間内に、運行路線を全て把握しなければならない。
○路線バス運転士は、
「4勤1休」や「5勤2休」のシフトが一般的。
これに1日3時間ほどの残業が週3回ほど組み込まれる。
連続で乗務出来る日数は12日と法律で決まっている。
○朝の6時から10時ぐらいまで乗務し、
次は夕方4時から8時まで乗務するシフトの場合、
その間の時間は何をするのも自由で、
これを「開放仕業」と呼び、開放手当がつく。
間の空き時間が11時間以上のものを「大開放」と呼び、
一旦家に帰る者もいる。
○路線運行の他に「契約輸送」というのがある。
朝夕の通勤時間に契約した企業の社員を輸送する業務。
○バス停にある時刻表は、電車の時刻表とは違う。
電車では発車時刻を意味するのに対し、
バスの場合は、
「その時刻より早い時間には発車しませんよ」という意味。
つまり、その時間までに停留所にいれば、
ほどなくバスがやって来るということ。
初めて知った。
○今はGPSでバスの位置は会社で把握出来るが、
それ以前にはたまに迷子になるバスがあった。
「何か目印になる建物は見えませんか」
との無線での会社の問いかけに、
「左斜め上空に、月が見えます」
というのがあったそうだ。
○12年間のバスドライバー人生を振り返り、
最もやりがいを感じたのは
乗客から感謝の言葉をもらった時だったいう。
○反対に、威張る人、ひどい言葉をぶつける人もいる。
それも慣れだが、須畑さんの場合、
「運転手の分際で」という言葉に
一番傷つけられたという。
職業に貴賤はないので、
そう言った客はろくな人生を送らないだろう。
○運行上のミス、
たとえば次停止のボタンが押されているのに、
バス停を過ぎてしまったりすると、
報告書と反省文を書かされる。
なお、そういう時、基本的にバックしてはいけない。
須畑さんの場合、ミスの報告を怠ったため、
乗務停止を言い渡され、班長の職を解かれ、
ついには、左遷されて、
他の営業所に移らされたりした。
○昔は、バスは運転手と車掌の2人体制だった。
地方では、車掌は女性の花形職種だった。
車掌が廃止されたのは、1983年8月。
○須畑さんのバス会社の場合、車内全体、運転席(運賃機)
前方、後方、側方を撮影する
ドライブレコーダーが設置されている。
乗客とのやり取りも録音されている。
須畑さんがバス停を10メートルオーバーした時、
乗客の会社へのクレームは
「次のバス停まで連れていかれた」というものだったが、
ドライブレコーダーで、
乗客の言い分が嘘だったことが分かった。
それでも、バス停をオーバーしたことは事実なので、
処分を受けた。
○所長の人柄で営業所の雰囲気が変わる。
まあ、それは、どこの会社でも同じだが。
最後に、私自身の経験。
一度、次停車ボタンが押されているにもかかわらず、
バス停を通過されたことがある。
運転士が「あっ」と気づいて緊急停車した時、
本来のバス停から10メートルほど過ぎていた。
また、路線間違いにも一度遭ったことがある。
浦安駅までいく路線に「2」と「4」があり、
途中まで一緒だが、
橋の手前で「4」は左折して、別なルートを通る。
その日、運転士がうっかりして、
左折するのを忘れてしまった。
橋の上で気づいて緊急停車、
なんとかUターンして、本来のルートに戻った。
この2件とも会社には通報しなかった。
しなくても、運転士本人は懲りているだろうし、
へたすれば、人の職業を奪うことになりかねないからだ。
次は、娘の経験。
若い男が定期の見せ方が悪かったらしく、
注意されたので、
その若い男は運転士の眼前すぐに定期券をかざした。
運転士が切れ、若い男に暴言を吐いた。
激しいやり取り。
かなり汚い言葉。
娘はそういう事態を見逃すことが出来ない性格で、
会社に通報したという。
多分ドライブレコーダーの録音で検証され、
その運転士はその後見ないから、
クビになったのだと思うという。
娘の言い分は、
運転士の切れ方が異常で、
今後の運転に危険が感じられたからだという。
クレームが人の職業を奪う結果になってしまった。