空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

短編集『ぼんぼん彩句』

2023年12月22日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

宮部みゆきによる、俳句を題材にした短編集。

同年代の編集者ら十五人で作る
趣味のカラオケの会「BBK」(「ボケ防止カラオケ」の略)が
句会に発展。
「BKK」が「ボケ防止句会」になった。
三カ月に一度、五句ずつ持ち寄って句会を開催。
会員の作品の中から、
十二句を選び、
宮部みゆきが短編小説を執筆。
雑誌「俳句」に掲載したものを
まとめたのがこの一冊。

1. 枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる

同僚に祝福されて寿退社したのに、
婚約者に手痛く裏切られ、婚約を破棄されたアツコ。
ある時、乗ったことのない路線バスに乗車してみると、
終点には小さな丘と公園が広がり、
そこに向日葵(ひまわり)が
びっしりと植えられ、そして、枯れていた。
アツコはその姿と自分の様を重ねる。

2. 鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす

知花は、夫と夫の実家の人々の異常さに悩まされる。
16歳で亡くなった同級生「みっちゃん」のことをいまだに忘れられず、
執着しているのだ。
離婚を決意した知花は、
「みっちゃん」の実家を訪ね、
夫と実家の人々の執着が、実は妄想だったと知る。
知花は、最後に仕返しとして、
ある行動に出る。

3. プレゼントコートマフラームートンブーツ

ぬいぐるみ作りが大好きなアタル君は、
その日、インフルエンザの学級閉鎖で
一人でマンションに帰ってきていた。
そこに見知らぬ女性が現れて、
婚約者に裏切られたと
アタル君に詰めよってきた。
該当者の「兄」などいないのに・・・

4. 散ることは実るためなり桃の花

娘の光葉(みつは)を心配する母親。
光葉は、夫の優一の司法試験合格のための勉学を支えて、
昼も夜も働き痩せ細っている。
しかし、優一は一向に合格の兆しが見えない。
ある時、母親は優一が女性と一緒にいるのを見かけ、
興信所に調査を依頼するが・・・
ヒモを夫にしてしまった娘を心配する母親の気持ちが哀しい。

5. 異国より訪れし婿墓洗う

娘が国際結婚をして、
外国人の婿の父親となった克典は、
娘夫婦との今後のことを考えて、
開発されたばかりの万能薬・ミラクルシードの使用をあきらめ、
亡くなってしまう。
その墓参の日、
ミラクルシードで生き延びた一家と遭遇し・・・
ips細胞を彷彿させる治療法を巡る、近未SF。
  
6. 月隠るついさっきまで人だった

美人の姉に恋人ができ、
はじめは楽しそうにしていた姉も、
しばらくすると暗い表情を見せるようになった。
ある時、姉と彼氏に偶然街中で出会い、
そこで初めて彼氏を紹介され、
彼氏の異常さに気づく。
ちょっと怖いホラー。

7. 窓際のゴーヤカーテン実は二つ

西日を遮光するために植えたゴーヤが、
真冬になっても実をつけたまま枯れなかった。
ある時、夫の哲司がその実をもいで食べると、
歯痛が治ってしまった。
もしかして不妊治療にも効くのかと
最後の実を食べてみると・・・

8. 山降りる旅駅ごとに花ひらき

一族の中で疎外されていた春恵は、
母や妹からひどい扱いを受けていた。
祖父が亡くなり、その形見分けの会に出席するため、
思い出の旅館に向かうが、
祖父が残した腕時計も妹に取り上げられてしまう。
その夜、春恵のもとを旅館の女将が訪ねてきて、
祖父が残したものがあるという・・・

9. 薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子

夏休みのある日、初めて行った裏山で
蜥蜴に導かれるようにして、
ケンイチは土の中から虫メガネを発見した。
名前が書いてあったその虫メガネを交番に届けたことから、
昔の事件が明るみに出て・・・

10. 薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ

ケイタというワルと付き合ってしまったミエコは、
別れようと連絡を絶っていたが、
ケイタらに待ち伏せされ、
拉致されて廃病院で一晩過ごすことになってしまう。
そこで、亡霊のような不思議な存在が現れ・・・

11. 冬晴れの遠出の先の野辺送り

兄を自殺同然の事故で無くした私は、
その地方の習慣である徒歩での野辺送りの途中、
見知らぬ中学生と出会う。
その中学生は、兄の野辺送りに同行してくれる。
実は、私は、兄の執着の事実が明らかになったことで、
意趣返しを目論んでいたのだが・・・

12. 同じ飯同じ菜を食ふ春日和

美しい菜の花畑が見渡せる展望台。
数年に一度訪れるその場所は、
ある家族のひそやかな楽しみであり、
故郷のような存在でもあった。
しかし、その展望台も年月と共に劣化が進み・・・
展望台とともに歩む家族の歴史を
会話だけで綴る意欲作。

この俳句から、
よくぞこんな物語を編んだ、
と驚かされる、細緻な工夫をされた短編の数々。
改めて宮部みゆきの才能を驚く。
ミステリー、ホラー、ファンタジーと一編ごとに違った味。
一貫しているのは、
宮部の持ち味である暖かさ。
中でも、
意外性を内包した
2、4、6、8、11が私の好み

宮部みゆきは最近長いものが多く、
読み始めるのに勇気がいるが、
久々の短編集、
やっぱり短編もいい。