[書籍紹介]
生き物がどんな死に方をするか、を
29の生き物(動物)の例をあげて、
生命の不思議に迫る本。
著者の稲垣栄洋氏は、
静岡大学大学院農学研究科教授。
専門は雑草生態学。
「スイカのタネはなぜ散らばっているのか」
他、著書多数。
29の生き物とは、↓。
1 空が見えない最期──セミ
2 子に身を捧ぐ生涯──ハサミムシ
3 母なる川で循環していく命──サケ
4 子を想い命がけの侵入と脱出──アカイエカ
5 三億年命をつないできたつわもの──カゲロウ
6 メスに食われながらも交尾をやめないオス──カマキリ
7 交尾に明け暮れ、死す──アンテキヌス
8 メスに寄生し、放精後はメスに吸収されるオス──チョウチンアンコウ
9 生涯一度きりの交接と子への愛──タコ
10 無数の卵の死の上に在る生魚──マンボウ
11 生きていることが生きがい──クラゲ
12 海と陸の危険に満ちた一生──ウミガメ
13 深海のメスのカニはなぜ冷たい海に向かったか──イエティクラブ
14 太古より海底に降り注ぐプランクトンの遺骸──マリンスノー
15 餌にたどりつくまでの長く危険な道のり──アリ
16 卵を産めなくなった女王アリの最期──シロアリ
17 戦うために生まれてきた永遠の幼虫──兵隊アブラムシ
18 冬を前に現れ、冬とともに死す“雪虫”──ワタアブラムシ
19 老化しない奇妙な生き物──ハダカデバネズミ
20 花の蜜集めは晩年に課された危険な任務──ミツバチ
21 なぜ危険を顧みず道路を横切るのか──ヒキガエル
22 巣を出ることなく生涯を閉じるメス──ミノムシ( オオミノガ)
23 クモの巣に餌がかかるのをただただ待つ──ジョロウグモ
24 草食動物も肉食動物も最後は肉に──シマウマとライオン
25 出荷までの四、五〇日間──ニワトリ
26 実験室で閉じる生涯──ネズミ
27 ヒトを必要としたオオカミの子孫の今──イヌ
28 かつては神とされた獣たちの終焉──ニホンオオカミ
29 死を悼む動物なのか──ゾウ
普段、動物や虫の死に方など気にしていない人が
大多数だと思うが、
改めて生きること、死ぬことに注目させてくれる。
目についた主な内容を書くと、
○セミの命は短い、と言われているが、
実は地中で7年以上生きて、成虫になった途端、
ひと夏の命で終わる。
セミは必ず上を向いて死ぬ。
昆虫は硬直すると脚が縮まり関節が曲がるので、
体を支えることが出来ずに、ひっくり返ってしまうのだ。
○ハサミムシは卵を守り、子育てする珍しい昆虫。
石を持ち上げると、子どもを守るために威嚇する。
孵った幼虫は、母親の体を食べて成長する。
母親は自分の体を子どもたちに与えて死ぬ。
○サケは生まれた川に戻ってメスは卵を産み、
オスは精子をかける。
サケは繁殖行動を終えると死ぬようにプログラムされている。
そして、その死骸はプランクトンを生み、
孵った子どもたちは、それを食べて育ち、
やがて海を目指し、再び帰って来る。
こうしてサケの命は循環する。
○はかない命の代名詞のように言われるカゲロウは、
セミと同様、幼虫の時代を何年も川の中ですごす。
そして、成虫になると、数時間で命が終わる。
成虫は口もなく、生殖機能しかない。
そして、群れを作り、交尾する。
コウモリがそれを狙って食べに来る。
生き残ったメスは水の中に卵を産んで死に絶える。
あとは魚のエサ。
交尾し、子孫を残すためだけに
数時間の成虫の時を過ごす。
カゲロウが発生したのは3億年前。
○タコのオスは生涯たった一度の交接をした後、死ぬ。
メスは卵を生み、卵を守り続ける。
絶食したまま、何か月もの間、卵を守り、
子どもたちが生まれるのを確認して、死ぬ。
○働きバチの寿命は1か月余り。
巣の中で清掃や子守などの「内勤」をし、
その生涯の後半、2週間が花から蜜を採集する期間。
一匹のミツバチは、働き続けて、スプーン一杯の蜂蜜を集め、
どこかで天敵に襲われて、命を落とす。
○シマウマは「天寿を全うする」という死に方はない。
途中、ライオンに襲われて食べられてしまうから大。
そのライオンも年老いれば、群れを離れ、死ぬ。
その後はハイエナやジャッカルに食われる。
○ブロイラーは効率よく成長できるように改良され、
体重1キロ増やすのに必要な餌の量はわずか2キロ強。
人間に食べられるために、
生後40日から50日で出荷される。
世界で200億羽が飼育されており、
世界人口75億の2.5倍だ。
特に、次の「死」の発明の記述は瞠目した。
○単細胞生物は細胞分裂によって増えるので、
「死」はない。
生命が地球に誕生したのは38億年ほど前、
全てが単細胞生物であった時代に、
生物に「死」は存在しなかった。
しかし、それでは新しいものを作り出すことは出来ない。
そこで、生物はコピーをするのではなく、
一度、壊して、新しく作り出す方法を選んだ。
しかし、全てを壊しては、元に戻すのは大変。
そこで、生命は、元の個体から遺伝情報を持ち寄って、
新しいものを作り出す方法を編み出した。
それがオスとメスという性。
その仕組みを生み出すと同時に、
生物は「死」というシステムを作り出した。
生物は命を永らえさせる方法として、
新しい命を生み出し、
古い命を殺す(死ぬ)という方法を選んだ。
この方法の方が
より種族を存続させることができると考えたからだ。
こうして、生命は、
「死」と「再生」という仕組みを作り出した。
「死」は、38億年に及ぶ生命の歴史の中で、
10億年前に、生物自身が生み出した偉大な発明なのだ。
セミやカゲロウやサケの生涯を通じて分かるのは、
生き物の使命とは、
子孫を残すこと。
自分のDNAを次世代に継承させることである。
それには、二つの方法があり、
沢山の卵を生んで、
他の生物の餌食になりながら、
生存する確率を高める方法。
もう一つは、数少ない個体を大きく生んで、
餌食になる機会を減らす方法。
いずれにせよ、
子孫を増やすための方法論である。
単細胞生物から、
性が分離して、
死が生まれ、
遺伝子を継承していく仕組み。
その中で、
多様な生き物が誕生し、
様々な生態が生まれた。
まさに、地球は生命に満ちた惑星である。
その不思議さを思わせる本だった。