[映画紹介]
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。
イラン代表のレイラ・ホセイニは順調に勝ち進み、
金メダル確実と思われていたが、
監督のマルヤム・ガンバリを通して、
イラン政府から棄権することを命じられる。
そのまま勝ち進むと、
敵対国イスラエルとの対戦が必至となっているからだ。
故郷に連絡すると、国に残した家族に危険が及んでいるようだ。
怪我を装って政府に服従するか、
自由と尊厳のために戦い続けるか、
レイラとガンバリは、人生最大の決断を迫られる・・・。
実話がベース。
2019年、日本武道館での世界柔道選手権で実際に起こった事件。
その時は男性選手だったが、
映画では女性選手に置き換えられている。
描写は、選手権会場が大部分で、
本国で応援する親戚たちの映像が挟まる。
トーナメントで勝ち進むレイラと
棄権を勧める監督。
強権を発動する当局と反旗を翻す選手。
監督は板挟みになる。
金メダルを祖国に持ち帰ろうとするレイラの希望を
政治的配慮が打ち砕く。
国家に背いたら、国に居場所がなくなる。
会場には、大使館員が潜入してきて、
圧力をかける。
大会運営側の国際柔道連盟も状況を察知し、
イラン政府の脅迫に対抗しようとする。
絶対絶命のシチュエーョンのスリリングな展開。
白黒、スタンダードの映像が
逆にリアル感を際立たせる。
レイラが柔道を始めるきっかけにもなった先輩が、
監督として参加しているガンバリだというのも微妙に影響しいている。
映画が作られた背景も目を引く。
イスラエル出身監督とイラン出身監督による合作なのだ。
「SKIN短編」(2018)でアカデミー賞短編実写映画賞を受賞した
イスラエル出身のガイ・ナッティヴと、
「聖地には蜘蛛が巣を張る」(2022)で
国際映画祭女優賞を受賞したザーラ・アミール。
イスラエルとイランをルーツに持つ2人が映画で協力した。
ザーラは、監督のガンバリ役を演じている。
撮影は全て秘匿状態で行われ、
映画に参加したイラン出身者は全員亡命。
当然ながら、イランでは、上映不可のまま。
スポーツと政治、個人と権力の関係、
人間の意思と尊厳を巡って、深い。
第80回ベネチア国際映画祭のブライアン賞を受賞し、
第36回東京国際映画祭のコンペティション部門で
審査委員特別賞と最優秀女優賞(ザーラ・アミール)の2部門を受賞。
レイラ・ホセイニ役を演ずるのは、
アリエンヌ・マンディ。
最後の試合では、
頭を覆っているヒジャブを外す。
象徴的な出来事である。
5段階評価の「4」。
新宿ピカデリー他で上映中。