では、2日遅れのアカデミー賞授賞式詳報を。
今年から「レッドカーペット」の色が変わり、
シャンパン色に。
授賞式を昼から夜のイメージに変える、
ということらしい。
この色の方が衣裳が映える、と評判のようです。
でも、「レッドカーペット」という言葉が失われるのは、淋しい、とも。
また、天井が作られ、ロスの陽光の下での
スターたちの歩き、というのではなくなりました。
シャンパンカーペットに、杏さんがいたのは、
主題歌賞にノミネートされた「私たちの声」は短編アンソロジー作品で、
その短編の一篇に出演していたため。
監督さんと一緒にインタビューを受けていました。
さて、オープニングは、
2022年の映画の見せ場集の最後に、
「トップガン マーベリック」の戦闘機に乗った
司会のジミー・キンメルが、
パラシュートで脱出し、
そのまま、ドルビーシアターの舞台の上から降り立つ、
という演出。
ジミー・キンメルは3度目の司会で、
3年続いた司会者なし、
昨年の女性3人の司会から、
5年ぶりに単独司会に戻りました。
やはり安定感があり、
冒頭のトークでは、
昨年の暴力事件に触れ、
「もし誰かが授賞式の途中で暴力をふるったら
その人は主演男優賞を授与され、
19分間の長い演説を許される」
と皮肉を。
ジミーのトークに合わせて、
カメラが話題に乗ったスターを捉え、
このトークが綿密に練られたシナリオによるものであることを
伺わせました。
また、昨年のような事前収録はなく、
全部門が生放送の中で発表されることもあかしました。
「全部門の発表は、映画界の要望だが、
テレビ業界は反対した」
とチクリ。
テレビ界の反対は時間配分の問題だったので、
スピーチが長くなったら、
「RRR」のパフォーマーが踊りながら連れ去る、
と宣言し、実際に連れ去られました。
ジミー・キンメルの司会は安定で、
やはり、アカデミー賞は小細工せずに、この方式がふさわしい。
「イニシェリン島の精霊」の紹介では、ロバを連れて登場、
録音マンとしてマイクを持ったり、
客席でスターにインタビューしたり、
いろいろ工夫していましたが、
ちょっと大人しい印象。
気になったのは、この人。
後ろの席の人の迷惑は考えなかったのでしょうか。
マスクをしているのは、ジェシカ・チャスティン一人だけ。
潔癖症なのでしょうか。
発表は、長編アニメーション賞から始まり、
「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」の受賞に続き、
助演賞の発表。
この時、助演男優賞受賞者の名前を読むアリアナ・デボーズが涙声に。
というのは、助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(51歳)は、
全くの過去の人。
「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984)でデビューし、
ハリソン・フォードと共演した子役で、
「グーニーズ」などで人気者になりましたが、
その後は鳴かず飛ばず。
一時期は俳優をあきらめて、裏方に回った。
その人が「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」で
久しぶりに俳優業に復帰しての快挙。
そのことを会場に集まった人はみんな知っていたから、
涙と感動に包まれたのです。
「僕の84歳の母がこれを家で見ています。
お母さん、オスカーをもらったよ。
僕の旅は船から始まり、(ベトナム難民)
難民キャンプで1年過ごしました。
そして今、ハリウッドの最高峰の舞台に立っている。
まるで映画のようなストーリーが
僕の身に起きています。
これこそがアメリカンドリーム。
皆さん、どうか諦めないで」
とスピーチも感動的。
助演男優賞にアジア系俳優が選ばれたのは、
「キリング・フィールド」 (1984) 以来。
続く助演女優賞は、
同じく「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」から、
ジェイミー・リー・カーティス。
この人、往年の大スター、
トニー・カーティスとジャネット・リーの娘。
「ハロウィン」でデビューし、「ザ・フォッグ」「プロムナイト」などで、
「絶叫クイーン」などと、ホラー映画専門女優のように言われたこともあります。
最近では、出番が少なかったですが、
久々の出演での快挙。
トニーもジャネットも、
ノミネートされたことはあるが、
(トニーは「手錠のままの脱獄」(1959)、
ジャネットは「サイコ」(1961)で)
受章は逃しているので、
スピーチの最後に
両親に向けて、
「私、受章したわ!」と言ったのが印象的でした。
会場は、舞台奥に映像スクリーンが置かれて
必要な映像を流し、
客席は、座席の背中に置かれたライトで
色が変わり、変幻自在の演出。
時々スクリーンが上がり、
他の装置が現れます。
長編ドキュメンタリー賞は、
ロシアの反体制動家で、
プーチンのウクライナ侵略に反対したために
今、独房に監禁されている
エレクセイ・ナワリヌイを追った
「ナワリヌイ」。
奥さんのユリヤのスピーチ。
「夫は真実を口にして刑務所にいます。
民主主義を守ろうとして。
アレクセイ、
あなたと私たちの国が自由になる日を
夢見ています。
心を強く持ってね」
国際長編映画賞は、
予想とおり、
「西部戦線異状なし」。
これ以外に、撮影賞、美術賞、オリジナル音楽賞と、
4部門を制覇。
授賞式の華である、
主題歌賞パフォーマンスは、
「私たちの声」から
『APPLAUSE』を
ダイアン・ローレンとソフィア・カーソンが、
「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」から、
『THIS IS A LIFE』を
サン・ラックス、ステファニー・シュー、デヴィッド・バーンが、
「RRR」から『ナートゥ・ナートゥ』を、
ラーフル・シプリガンジ、カーラ・バイラヴァが、
(背景にあるのは、
撮影地のウクライナ大統領府。
ロシアの侵略前の撮影だったという)
「トップガン マーヴェリック」から、
『HOLD MY HAND』を、
レディ・ガガが、
「ラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」から
『LIFT ME UP』を、
リアーナが歌い、
結局受章したのは、
「RRR」の『ナートゥ・ナートゥ』でした。
インド映画が主題歌賞を取るのは、史上初。
作曲のM・M・キーラヴァーニがスピーチで、
「カーペンターズを聴いて育ちました。
そんな私がアカデミー賞を取りました」と言って、
カーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」のメロディーで、
インド人の誇りとして受賞を願う、
世界のトップに立つことを、
と歌って、喝采を受けました。
受章のステージで替え歌を歌ったのは、多分、史上初。
故人を追悼する場面では、
レニー・クラヴィッツの歌う『CALLING ALL ANGELS』に乗せて、
次々と1年間の物故者の顔が映し出されます。
オリビア・ニモートン・ジョン、ルイーズ・フレッチャー、
レイ・リオッタ、ジャン・リュック・ゴダール、
バート・バカラック、アイリーン・キャラ、
アンジェラ・ランズベリー、ジーナ・ロロブリジーダ、
ヴァンゲリス、ジェームス・カーン、
ラクエル・ウェルチなど、
この式典で初めて訃報に触れた人もいるはず。
監督賞は、「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」の
“ダニエルズ”。
ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート。
脚本賞とダブル受賞。
ボストンの大学で出会い、
MV監督としてキャリアを始めたといいます。
クワンのスピーチ。
「僕たちはみんな、誰かや何かの子孫なんです。
僕の両親は移民でした。
父は現実逃避できる映画を愛し、
僕はそれを受け継いだ。
母はダンサーや女優になりたかったけど、
経済的にかなわず、僕に託してくれた。」
「誰もが偉大さを持っている。
誰もが爆発する才能を秘めている。
きっかけを待っているだけだ。
僕の才能を開花させてくれて、ありがとう」
主演男優賞、主演女優賞プレゼンターは、
ジェシカ・チャスティンとハリー・ベリーの二人。
あれ、前年の受章者がプレゼンターになる慣例は?
と思ったら、昨年の主演男優賞のウィル・スミスは、
出入り禁止だから、こうなったようです。
で、主演男優賞は、大方の予想を裏切って、
「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザー。
「ハムナプトラ」(1999)で一世を風靡した人気スターも、
その後、作品に恵まれず、低迷。
ある映画関係の大物からセクシャルハラスメントを受け、鬱状態になったことも。
「ザ・ホエール」では、体重を増やし、
特殊メイクとはいえ、別人の要望で演技。
見事に復活を遂げました。
「この世界に入って30年。
常に順調というわけではありませんでした。
仕事が減って初めて
この仕事の素晴らしさを実感しました。
僕は海底を進んでいましたが、
海の上ではいつも見守ってくれる人たちがいました。
受章はみなさんのおかげです。
本当にありがとう」
そして、主演女優賞は、
またも「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」の
ミシェル・ヨー。
アジア系女優として、主演女優賞は初めて。
「この授賞式を見ている
私と似た姿の子どもたち
これは、あなたたちの希望や可能性の光よ。
大きな夢を持って下さい。
これは夢がかなうという証しよ。
女性の皆さん。
“旬は過ぎた”なんて言わせないで。
諦めないで!」
(ミシェルは60歳)
「この賞を、私の母と世界中の母親たちに捧げます。
彼女たちこそがスーパーヒーローよ。
彼女たちなしに、私たちは存在しない。
母は84歳です。
これを持って帰ります」
そして、作品賞は、
「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」。
ダニエルズは、本日3回目の登壇。
この人の顔が、登壇するたびに良くなって来る。
壇上で、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」で
子どもの時に共演したキー・ホイ・クァンが、
奇しくもプレゼンターだったハリソン・フォードと再会。
何というドラマでしょうか。
結果は、
10部門11ノミネートの「エブリシング・アブリウェア・オール・アット・ワンス」が
作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、
オリジナル脚本賞、編集賞の7部門受賞で圧勝。
主要6部門制覇は、史上最多。
9部門ノミネートの「西部戦線異状なし」が、
撮影賞、美術賞、オリジナル音楽賞、国際長編映画賞の4部門、
6部門ノミネートの「トップガン マーヴェリック」が音響賞、
4部門ノミネートの「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が視覚効果賞、
2部門ノミネートの「ウーマン・トーキング 私たちの選択」が脚色賞、
2部門ノミネートの「ザ・ホエール」が
主演男優賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞2部門で
それぞれ受賞。
作品賞ノミネート10作品のうち、
8部門9ノミネートの「イニシェリン島の精霊」、
8部門ノミネートの「エルビス」、
7部門ノミネートの「フェイブルマンズ」、
6部門ノミネートの「TARtar/ター」、
3部門ノミネートの「逆転のトライアングル」
の5作品が受賞なし。
何のための10作品か。
作品賞候補を5作品から10作品に増やしたのが2009年度から。
この制度も曲がり角を迎えているのか。
そして、今回判明したのが、
アジア系クリエイター、俳優の活躍と
インディペンデント系製作会社A24の台頭。
演技賞も候補20名のうち、
初ノミネートが16人。
アカデミー賞もいよいよ変化の時を迎えているようです。
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