[書籍紹介]
4日前に紹介した「ディズニーキャストざわざわ日記」に続き、
ディズニーものを紹介。
「ざわざわ日記」が実録ものだとしたら、
こちらはフィクション。
東京ディズニーランドの舞台裏を巡る、初の小説だ。
(2005年発刊)
東京ディズニーランドも東京ディズニーシーも実名で登場するが、
オリエンタルランド社はオリエンタルワールド社と変えられている。
どういう法的線引きがあるのかね。
主人公は、後藤大輔、21歳。
準社員として採用されて出勤した3日間の出来事。
先に紹介した「ざわざわ日記」は、
カストーディアルキャストという、掃除係専門の職種だけを描いたので、
全体像は見えなかったが、
大輔の持ち場は美装部といい、
キャラクターたちの着付けを担当する場所なので、
バレード待機の様子などが描写される。
また、ショーの舞台裏や
特別接待スペースの「クラブ33」の様子なども描写される。
また、パークの周囲に張りめぐらされた移動道路や
キャスト用バスの様子なども描かれる。
そういう意味で、興味深い内容だ。
テーマパークは、ゲストたちの目に触れるオンステージと
その裏側のバックステージに分かれるが、
登場人物の一人が、こう言う。
「夢があるのはオンステージ。
バックステージにあるのは現実だけ」
また、正社員、準社員の身分格差が大きく、
準社員は人間扱いされない、などの現実も描かれる。
しかし、こうも言う。
「すべては手作り。
わたしたち準社員は、その底辺を支えている」
大輔は少々キャストとなったことを後悔する。
クルーのあいだの対立。
夢のディズニーキャラクターを演じる者たちの葛藤。
そんなものが存在するなんて、
できることなら知りたくなかった。
夢は夢のまま、
そのほうがどれだけよかったかわからない。
ミッキーマウスの着ぐるみについての記述が興味深い。
東京ディズニーリゾートには、
予備を含め、常時30体のミッキーマウスの着ぐるみがあり、
うち10体がディズニーランドで使用されるもので、
パレード用が3体、
グリーティングとミート・ミッキー用が4体、
ショー用のものが3体。
ショー用ミッキーは、
踊らなければならないので、
他のミッキーに比べて軽く、動きやすく、頑丈な素材で作られている。
瞼の開閉や鼻の振動など、
クルー(中身の人)自ら操作可能で、精巧な作り。
高価な上に製造に手間がかかり、
アメリカのディズニー本社に発注しても納期は1年先。
これらのショー用ミッキー3体はショーにフル稼働しており、
予備がない。
そのショー用ミッキーの着ぐるみが紛失してしまう、
という事件が起こる。
他のミッキーの使い回し、というわけにはいかない。
ミッキーが代わると、その回りのキャラクターも総とっかえしなければならない。
というのは、それぞれのキャラクターの身長はミッキーを基準に定められているからだ。
ミッキーとミニーは同じで、
グーフィーはミッキーよりも約11%高くて、
ドナルドは7%低い、等々。
知らなかった。
パレード用のミッキーをショー用に使えばいいと思うかもしれないが、
そうはいかない。
そうなると、中の演者も一緒にこなければならない。
着ぐるみは、中の演者に合わせてサイズが決められているからだ。
そういうわけで、パレード用のミッキーの演者が
まるごとショーの代役をつとめることになる。
ショーのミッキー演者は心中おだやかではない。
パレード用ミッキーの演者は、久川庸一という中年のいかめしい男性。
女性がやることもあったが、
アメリカの本社の意向で、男性に演じてほしいということになった。
この人が見事なミッキーを演じこなすのだという。
この久川とショーのミッキーの門倉との葛藤と
共感はなかなかいい。
着ぐるみの紛失は大問題になる。
外部に流出したりしたら、
アメリカのディズニーとの契約解除にまで発展する。
アメリカのディズニーは、東京の運営からは手を引いてのスタートだったが、
東京での成功を見て、後悔しており、
直接運営のチャンスを虎視眈々と狙っているというのだ。
紛失の嫌疑をかけられた女性スタッフが
ビッグサンダーマウンテンの線路内に立ち入って自殺未遂したり、
の次の問題も発展する。
大輔が働き始めて、2日間にそれだけの事件が起こる。
更にそれは、着ぐるみの発見と回収へと問題は発展する。
現実的でない展開だが、
まあ、そこはフィクションだから。
大輔の同僚の桜木由美子は、こう言う。
「ゲストのためにディズニーランドは存在するけれど、
それを維持しているのは
会社の偉い人でもなければ、
スポンサーでもない。
わたしたち」
なお、正社員と準社員の対立の軸となるのは、
調査部の人間だが、
オリエンタルランドには「調査部」は存在しない。
それだけでも、フィクションだと分かるだろう。
「ふたたび」は前作の16年後。
主人公は若い女性の永江環奈で、
カストーディアルキャスト。
つまり、清掃係。
なってみて、失望する。
体育会系とスクールカースト、
どちらも嫌になり、ディズニーランドに勤めだした。
いつも笑顔のキャストに、陰険な人間関係などあろうはずがない、
そう思っていた。
けれども本当にここにあったものは、もうはっきりしている。
学校やほかのバイト先とは比較にならない、
確固たる体育会系と、
絶対的なカーストの構図だった。
その現状を打破するために、
環奈はアンバサダーにエントリーする。
アンバサダーとは、キャストから一名だけ任命される「親善大使」のこと。
外部に広報のために出かけ、
いわば、ディズニーランドの顔となる存在だ。
それだけにハードルは高い。
通常、ダンサーなどから選出され、
掃除担当からのエントリーは初めてだ。
物語は環奈のアンバサダーへの道への努力が描かれる。
並行して、居残りゲスト(閉園時、どこかに隠れて留まるゲスト)の捜索と、
カラス駆除の疑いなどが描かれる。
前作から16年経っているから、
前作の主人公、後藤大輔も正社員になって再登場する。
桜木由美子は姓が後藤に変わっているから、二人は結婚したらしい。
パーク内の音楽は37分ごとにリピートする、
などと新知識もあるが、
総じて、フィクション色が強くなり、
ありえない展開が現出する。
環奈がマジックを使ったパフォーマンスをして人気者になったり、
居残りゲストが落としたという結婚指輪の大捜索など、
奇妙な展開。
閉園後の暗い園内で捜索するより、
昼間捜索した方がいいに決まっている。
その上、別な場所で行われているアンバサダー選出イベントの音声が
園内に流れるなど、現実にはあり得ない、
作り物の話であることが、誰にでも分かる。
キャストは半分ゲストという新しい見解も示される。
「会社は無から有を生み出した。
鉄鋼業と海苔養殖しかなかった舞浜に、
大金を投じ、幻想を見られる場所を設けた。
ここでは二段階に夢がつくられる。
まず正社員が準社員に幻想の場を提供する。
準社員たるゲストたちは、
さらに大きな幻想を現出し、
キャストを夢見心地にさせる」
世界じゅうの人々が、
舞浜に夢と魔法の国があると信じ、
いつでも遊びに行ける。
だが正社員らに夢と魔法は見えない。
認識できるのは常に埋立地の運用施設と、
そこに展開するビジネスのみ。
ここ、「準社員たるゲストたちは、
さらに大きな幻想を現出し、
キャストを夢見心地にさせる」というのは、
「準社員たるキャストたちは、
さらに大きな幻想を現出し、
ゲストを夢見心地にさせる」
の間違いではないのか?
総じて、続編にしては、
前より作り物めいた話だった。
ところで、小説の中に登場する「クラブ33」だが、
2度ほど利用させていただいたことがある。
1度目は、カミさんの交通事故でのケガの全快祝い。
その時は、食事の後、
ミッキーが祝ってくれた。
カミさんには内緒のサプライズ企画。
2度目は、私の勤め先の役員会。
シルク・ド・ソレイユの「ZED」を観た後、
会議をし、昼食を取った。
クラブの窓から見るパレードが新鮮だった。
いずれも、ある人脈を通じての設定。
幸福な時代でした。
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