[書籍紹介]
以前、本ブログで
「サーカスから来た執達吏」という作品を紹介したことのある
夕木春央のミステリー小説。
語り手である主人公の柊一は
大学時代の遊び仲間たちと
メンバーの一人・裕哉の父親の所有する長野県の別荘に泊まり、
裕哉の提案で、山奥にある地下建造物に探検に出かける。
犯罪組織のアジトだのカルト宗教団体の施設などと噂がある
地下建造物に泊りがけで潜り込んでみようというのだ。
たまたま山で迷ったという矢崎という親子三人連れの一家も合流し、
総勢十人(男6人、女4人)が一晩を明かすことになる。
発電機を動かして電灯がともり、
缶詰の食料もある。
施設は3層になっており、
各階には18ほどの個室があるが、
地下3階は地下水の浸水を受けており、使えない。
翌朝には出発する予定だったが、
地震が発生したために
出入口が大岩で塞がれてしまう。
巻き上げ機を使えば、大岩をどけることは可能だが、
その操作をする人物が閉じ込められてしまう。
誰か一人が犠牲にならなければ、
脱出は出来ないのだ。
そうこうしているうちに、
裕哉が殺される。
犯人は残りの9人の中にいる。
犯人を突き止め、その人物に
巻き上げ機を操作して犠牲になってもらうことになり、
犯人捜しが始まる。
しかし、第2、第3の殺人が起こり・・・
というわけで、地下の構造物に
閉じ込められた
クローズド・サークルの話。
クローズド・サークル(closed circle )・・・
ミステリ用語で、
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況下で
起こる事件を扱った作品を指す。
過去の代表例から、
「嵐の孤島もの」「吹雪の山荘もの」
「陸の孤島もの」「客船もの」「列車もの」
などに分類される。
本作のクローズド・サークルは、
「方舟」と呼ばれる地下の構造物。
世界からは隔絶され、脱出不可能。
携帯電話の電波は届かない。
発電機の燃料は限度があり、いつかは闇に帰する。
その上、地下3階の水位が上昇してきて、
既に2階の浸水が始まっており、
やがては地下1階も水没する。
時間には限りがある。
残りの7人の中に殺人犯がいるのだが、
一体誰なのか。
探偵役は、柊一の従兄の翔太郎。
それと語り部の柊一を除いて、
容疑者は5人。
翔太郎は様々な証拠を揃えて推論していくが・・・
というわけで、
無理やり作ったクローズド・サークルの中での人間模様。
普通に考えれば、
巻き上げ機を操作する人物を、
くじ引か何かで決めて、
皆で脱出後、消防の救出部隊を送り込んだ方がいいと思うのだが、
犯人に犠牲になってもらうことに固執して、
いたずらに時を過ごす。
その間に追加の殺人事件が起こるなど、
不合理な展開。
それも、犯人が判明して、
その人物による巻き上げ機を操作した後での
どんでん返しをしたかったためのようだが、
うーむ。
犯人の連続殺人の動機も納得性が薄い。
無理やりの状況作りをすると、
こういうことになる。
「本屋大賞」にノミネートされるくらいだから、
卓抜なミステリーと思って読んだが、
残念ながら、及第点はあげられない出來だった。
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