空飛ぶ自由人・2

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小説『星を編む』

2024年11月19日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

第20回本屋大賞受賞作である
凪良ゆう「汝、星のごとく」続編
というか、スピンオフのような、
アナザーストーリー
2024年本屋大賞にもノミネート。

3つの部分で成っており、
「小説現代」に半年ほどの間を置いて掲載された。

「汝、星のごとく」の簡単なあらすじを紹介する。

瀬戸内の島で、17歳の高校生の男女が出会う。
井上暁海(あきみ)と青埜櫂(あおのかい)。
二人は、家に問題を抱えていたという共通点から接近する。
高校を卒業した櫂は、友人の尚人と組んで、
漫画家を目指して東京へ上京する。
暁海も一緒に行くはずだったが、
母親を捨てられず、島に残る。
櫂の原作、尚人の作画のコンビは、
編集者の植木の目に止まり、
連載開始、単行本も出、
人気漫画家として、
想像もしなかった大金が入って来る。
暁海が東京を訪ねる形で遠距離恋愛は続くが、
次第に二人の間に溝が出来る。
東京へ行き変わってしまった櫂。
島と母に縛られている暁海。
暁海は父親の恋人の瞳子から指導を受け、
刺繍作家として一人立ちできるが、
櫂の方は、
尚人が高校生男子と付き合っていたことが
週刊誌に暴露され、
連載も休止、単行本も廃盤となる。
櫂は酒に溺れ、病気になる・・・

私の2023年2月24日のブログで、
「久しぶりに恋愛小説で心が震えた」と書いた作品。

本書の紹介に戻る。

「春に翔ぶ」は、
櫂と暁海の高校教師であり、
暁海の夫にもなる北原先生の若い頃の話
経済的理由から研究生活を諦めて、
高校教師になった北原が
教え子の明日見菜々の
人生の転換点に関わってしまう。
と同時に
そのカードを切った瞬間、
ぼくはそれまでの人生のレールから外れた。
という、北原の人生の転換点ともなり、
シングルファーザーになった秘密が明らかになる。
お人好しの父母との関係、
研究生活での事件、
等も描かれ、
これだけで、人生の重さを感じさせる
見事な短編となっている。

「星を編む」は、掲載時、読んでいたが、
こうして一冊にまとまると、感慨深いものがある。
櫂の書いた小説を世に送り出するにために
尽力する二階堂絵理と、
櫂と尚人の未完の作品を
完結させるために奔走する植木という
二人の編集者の姿を描く。
特に、植木の場合は、
櫂と尚人が悪意の週刊誌報道で
世間から叩かれた時、
守ってやれなかった
編集者としての自分に対する
悔恨の念で突き進む。
また、二階堂絵理の女性ゆえの
出版業界での風当たりの強さも描かれる。
編集者と作者が二人三脚で
本を世に送り出す姿と
「作家と作家の表現を護るのが
編集者の仕事だ」
という矜持が胸を打つ。

「波を渡る」は、
北原先生と娘・結、暁海の「疑似家庭」のその後を描き、
時系列的に見て、
「汝、星のごとく」の続編と言えるのは、この作品。
北原先生の「浮気」の真相が明かされ、
結の結婚と離婚、
その後の経営者としての成功まで描かれる。
また、北原と暁海が本当の夫婦になるまでの過程が描かれる。
いくつもの人生が織りなす糸が
編まれて、一つの絵柄になり、
繋がる未来と新たな愛の形が描かれ、
感動的だ。

印象的な記述

雨降りではないが、
晴れ渡ってもいない。
年齢を重ねていくほど、
日々はそういうものになっていく。

置かれた場所で咲くことを美徳とするこの国の文化。
身の程をわきまえ、謙虚で辛抱強くあれ。
それが真の美しさというものであるという無形の圧。
けれど置かれた場所で咲ききれない花も
この世にはある。

けれど今の時代、
善であることと弱者であることは、
ときに同じ意味を持つ。
天秤はいつだって不条理に振れ、
与えた情けの分まで
正しく秤られることは稀だ。
父と母が他に分け与えた情けは
返ってこなかった。
盾を持たない善人として
搾取されただけだった。

(母親が)体力もないし、
残り時間も少ないし、
できるだけ身軽にいきたいのだという。
どこへいくのかは訊かなかった。
わたしたちはみな、
そのときのために
荷物を下ろしていく。
軽やかに波間を泳ぎ、
どこか遠い果てにある
約束の島へと辿り着くために。
                                        凪良ゆうは、
やはり只者ではない



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