[映画紹介]
史劇の金字塔、「グラディエーター」の続編。
前作は、2000年に公開され、
第73回アカデミー賞で、
12部門にノミネートされ、
作品賞、主演男優賞(ラッセル・クロウ)、
衣裳デザイン賞、録音賞、視覚効果賞
の5部門で受賞した、名作。
24年の歳月を経ての続編製作だが、
監督は前作と同じリドリー・スコットだから、
正統的な続編と言える。
前作の15年後のローマ帝国に設定されている。
北アフリカのヌミディアで、
農民として、平穏な暮らしを送っていたルシアスは、
将軍アカシウス率いるローマ帝国軍の侵攻により、
戦いの中、愛する妻を殺され、捕虜になる。
格闘の才能と内面に燃える怒りを見込まれて、
奴隷商人・マクリヌスに買われ、
剣闘士《グラディエーター》としてローマへ赴き、
円形闘技場<コロセウム>で闘うことになる。
ルシアスの活躍に、
ローマ市民の賞賛を得ていくが、
ルシアスの目的は将軍アカシウスへの復讐だった。
その頃、ローマ帝国は、
ゲタ帝とカラカラ帝という
双子の皇帝の独裁下にあり、
元老院は無力化していた。
それを覆す動きに巻き込まれて・・・
冒頭、タイトルバックに
前作の場面が絵として流れ、
音楽と共にワクワク感が高まる。
そして、火炎球と弓矢が飛び交う圧巻の戦争描写、
ローマの町の再現、コロセウムでの剣闘、疑似海戦と、
目を見張る光景が続く。
今では金がかかるせいか、
あまり作られなくなった歴史劇だが、
「ベン・ハー」「十戒」「スパルタカス」「エル・シド」などを
遥かに凌駕する映像が続出する。
前作でも、コロセウムの描写はCG合成で、
映画の表現に革新をもたらし、
アカデミー賞視覚効果賞受賞も納得の出來だったが、
24年前より進化したCGにより、
更に豊富な映像がスケールアップしており、
特に、コロセウムのアリーナを水で満たした
海戦シーンは(現実にはあり得ないが)新機軸で、
なにしろ、水の中にサメを放って、
落下した戦士を食いちぎるというのだ。
そういう技術的なものはさておき、
どうしても前作と比較されてしまうのは、
続編の宿命。
まず、捕らわれた主人公が
闘争能力を買われてグラディエーターになり、
ローマの競技場で自由を目指す、
というのは、前作の踏襲で新味がない。
敵役が将軍というのも的外れ。
前作の主人公・マキシマス将軍同様、
職務を忠実に果たしただけで、
裏には皇帝の存在がある。
その皇帝も双子の若い皇帝で、
狂気をはらんだ存在。
というか、軽い青年だ。
前作のコモドゥスのような、
歪んだ性格で、父親の信頼を受けられず苦悩する、
人間味のある存在ではない。
(ホアキン・フェニックスの好演によるものでもあるが)
ルシアスの出生にまつわる因縁物語が
ドラマを支えるものとなっているが、
予告編や公式ホームページの相関図で、
それを明かしているのはいかがなものか。
私は知らないで観たので、
途中で、もしかして、あの男は・・・
という驚きがあった。
観客のその楽しみを事前に奪うとは。
そして何より、前作と比べて足りないもの。
それは、ルシアスを演ずるポール・メスカル。
「aftersunアフターサン」で
アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたこともある
実力ある俳優だが、
顔がこの役にふさわしくない。
前作のラッセル・クロウは、
その顔つきとたたずまいで、
悲劇と哀愁を感じさせてくれた。
賢帝アウレリウスから次の皇帝を嘱望されながら、
皇帝の嫡男コモドゥスの裏切りに遭い、
妻子を殺された悲劇の将軍、
「今生か来世で、その復讐を果たす」男の執念。
ラッセル・クロウはその姿かたちそのものが
観客に強く訴えかけていた。
それを継ぐ者の役は、特別な人間にしか演じられないが、
残念ながら、ポール・メスカルはその水準に到達していない。
かといって、誰なら、というのはないのだが。
「スター・ウォ-ズ」の再開三部作で鮮烈なデビューをした
デイジー・リドリーのような
誰が見ても適役、
どこでこの俳優を見つけて来た、と驚かせたような
新人俳優を発掘できなかったのか。
前作から継続出演しているのは、
コモドゥスの姉投のコニー・ニールセン。
(他に元老院の議員)
そして、その夫のアカシウス将軍を演ずる
ペドロ・パスカルが精彩を放つ。
どこかで見た人、と思ったら、
「スター・ウォーズ」のスピン・オフ「マンダロリアン」で、
全編マスクをかぶって演じ、
各エピソードで1度だけ、
仮面を取って素顔をさらす、あの俳優だ。
奴隷商人はデンゼル・ワシントン。
衣装、メイク、美術、照明、音響、
どれをとっても素晴らしい。
技術と金をかけ、その成果をあげている。
「グラディエーター」の続編としては、
そのスケールにおいて、満足した。
5 段階評価の「4」。
拡大公開中。
アメリカ公開より1週間早く、
15日から日本で公開。
ところで、
「Ⅱ」の公開に合わせて、
WOWOWが前作の放送をしたので、
20年ぶりに再見。
歴史劇の頂点をなすストーリー作り、
豪華なセット、衣裳、
俳優の演技、
そしてリドリー・スコットの演出と、
素晴らしさを堪能。
音楽も最高だ。
途中、あれ、この曲は・・・
とひっかかり、
これは、ホルストやワーグナーではないか、
なぜ、この映画で使われたのか、
と思って、後で調べたら、
戦闘シーンの楽曲はホルストの組曲「惑星」の「火星」と酷似しており、
ホルスト財団から著作権侵害で訴訟を起こされた。
コモドゥスの凱旋式シーンに使用された曲は
ワーグナーの「ニーベルングの指環」と酷似している、
と指摘を受けたという。
ハンス・ジマーともしたことが、
盗作したとは思えず、
たまたま似たのだと思うが、
録音時、誰か指摘する人はいなかったのだろうか。
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