空飛ぶ自由人・2

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小説『お探し物は図書室まで』

2022年10月08日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ある図書館(小さいから図書室)を訪れる人々を巡る連作短編集

その図書室とは、コミュニティハウスに併設されたもの。
「レファレンスは司書さんにどうぞ」と案内されると、
狭いデスクの中に体を埋めこみ、
ちまちまと毛糸に針を刺して何かを作っている
大柄の女性司書・小町さゆりがいる。
本の相談をするとさゆりは
すごい勢いでキーを叩き、
該当する本のリストをプリントしてくれる。
そのリストには、関係のないような追加本があり、
更に、引き出しから出した小さな毛糸玉のようなものをくれる。
「本の付録」だという。

そのリストに基づいて本を選び、読むと、
自分が本当に「探している物」に気がついていく、
というパターン。

描かれるのは、何らかの人生の岐路をや挫折を迎えている人ばかり。

一人は、21歳の婦人服販売員
今の仕事内容が好きになれず、
田舎がいやで上京したが、行き詰まり、
悶々とした日々を過ごしている。
紹介された追加本は、「ぐりとぐら」。
仕事への向き合い方を教えられる。

一人は、35歳の家具メーカー経理部員
高校時代に訪れたアンティークショップが忘れられず、
自分のお店を持つことを夢見ている。
でも、現実は冴えないサラリーマン生活。
会社では仕事を押しつけられ、
恋人にも八つ当たりしてしまう。
追加された本は、「植物のふしぎ」。
最後に、自分の店を持つきっかけを掴む。

一人は、40歳の元雑誌編集者の女性。
子どもを生んだ後、職場復帰を果たすが、
会社の配慮で、忙しい編集部から暇な資料部に異動させられてしまう。
編集をしたいのに、という不満がたまり、
育児を押しつける夫にも当たってしまう。
追加書籍は「月のとびら」という占いの本。
やがて、絵本を主に扱う出版社への中途採用を勧められる。

担当した作家の老婦人が、
主人公の悩みを聞いて語る「メリーゴーラウンド」理論が面白い。

「ああ、崎谷さんもメリーゴーラウンドに乗ってるとこか。
よくあることよ。
独身の人が結婚している人をいいなあと思って、
結婚している人が子どものいる人がいいなあって思って、
そして子どものいる人が、独身の人をいいなあって思うの。
ぐるぐる回るメリーゴーラウンド。
おもしろいわよね。
それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、
先頭もビリもないの。
つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ」

一人は、30歳のニート青年
小さい頃から漫画が「友達」で、
絵が大好きになりイラストの専門学校に通ったが、
就職でつまずいてしまった。
バイトも続かず、現在はニートだ。
追加書籍は「ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界」。
そこでダーウィンと同じ進化論をとなえたウォレスという学者がいたと知る。
高校時代のタイムカプセルを開いた時、
過去の自分は「人の心に残るイラストを描く」と記していたと気づく。

一人は、65歳の定年退職者
退職した翌日から、自分が何をしたらよいか分からなくなり、
社会からは認識されていない存在だと、自分を見失ってしまう。
追加書籍は「げんげと蛙」。
本屋で働いている娘の姿に打たれる。

各章の登場人物が他の章で少しだけ関わって来る。
一見、関係のない本や羊毛フェルトが
人生の指針になる面白さ。
生きる希望や意義、勇気を与えてくれるハートウォーミングな小説。
2021年の本屋大賞にノミネートされ、2位になった。
本屋大賞の選考者は、全国の書店の店員だが、
いかにも店員さんたちがが好みそうな、心温まる短編集だ。

 



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