[書籍紹介]
1952年出版の古典的名作。
1950年3月。
マサチューセッツ州ブリストル郡にある
全寮生女子校パーカー・カレッジの一年生、
マリリン・ローウェル・ミッチェル・18歳が失踪した。
歴史の授業の後、
寮の自室に戻ったローウェルは、
気分がすぐれない、と
ルームメイトのペギーの昼食の誘いを断って自室に残った。
やがて昼休みを終えたペギーが
午後の授業のために教科書を取りに戻ってみると、
ローウェルの姿はなかった。
夕食の時刻になっても現れず、
部屋を調べてみると、
スカートに着替え、ハンドバックを持って外出したらしい。
しかし、午前0時の門限を過ぎても帰って来なかった。
通報を受けた警察で調べてみても、
ローウェルの姿を目撃した者はいない。
バスと鉄道を調べても、
ローウェルらしき学生が町を出た痕跡はない。
数日が過ぎても、手がかりはまるでない。
生きているのか、死んでいるのか、
自発的に消えたのか、犯罪に巻き込まれたのか。
物語は、
ブリストル警察のフォード署長と
巡査部長のキャメロンの捜査を一貫して描く。
フォードは言う。
「女子大学の学生が失踪したのは、これが初めてではない。
なぜ姿を消すか。理由は一つではない。
成績がふるわない、級友とうまくいかない、
家庭内にいざこざがある、犯罪に巻き込まれた、
自立したい、そして男。
理由は六つ。
答はこの中にある」
フィラデルフィアから両親がやって来ると、
まともな家庭で、身持ちが固く、
成績も優秀、級友とも良好で、
ローウェルの場合、
最初の3つと自立は当てはまらない。
犯罪と男か。
ローウェルの交友関係が洗われる。
材料はローウェルの日記。
日記の中に登場する男性を書き出し、
当たってみる。
(日記には、グレゴリー・ペックやゲーリー・クーパーの名前まであった。
もちろん除外)
近隣の大学の男子学生、道を尋ねた警官、 切手を買った郵便局の職員、
夜警、歯医者、花屋など。
しかし、怪しい人物はいない。
4日経った時、フォード署長は、
湖の水を抜く決断をする。
しかし、湖の底にローウェルはいなかった。
全国から集まった新聞記者がブリストン署に群がる。
「お嬢さんは近くに住む友人を訪ねているだけ。
数日中には戻る」
と書かれた悪戯手紙も警察に届く。
シカゴ行きのバスに乗っていた、
という間違い情報に翻弄されたりする。
父親の建築家のミッチェル氏は私立探偵を雇うと共に、
懸賞金も発表する。
情報によりローウェルが生きてみつかった場合は5千ドル、
遺体が見つかった場合は2千5百ドル。
ローウェルが姿を消して2週間後、
橋の下の川底からローウェルの髪留めが発見される。
そこで、川を下って捜索すると、
下流の埋立地からローウェルの死体が出て来る。
解剖の結果、ローウェルが妊娠6か月だったことが判明する。
死因は頸椎の骨折。
肺の中に水はなく、即死だった。
地区検事のマクナリーは、
ローウェルの日記の中に、
妊娠を自覚したと思われる記述があったことを指摘する。
地区検事を交えた審問会で、
妊娠を苦にして、橋から身を投げた自殺、
に決まりそうになる。
しかし、フォ-ドの提案した実験で、
その説は覆される。
橋から落ちたのでは、埋立地までは到達しない。
何者かがローウェルを殺し、
埋立地に運び、
捜査錯乱のため、髪留めを川に投げ入れた、と、
審問会の結論は「自殺」ではなく、「殺人」になった。
捜査はローウェルをはらませた男に絞られた。
日記だけでなく、
友人たちからローウェルが口をきいた男を聞いて総ざらえする。
その数の多さのにおののく部下にフォ-ドは言う。
「警察の仕事がどういうものかは、
わかっているだろう?
歩いて、歩いて、歩きまくる。
そして、あらゆる可能性について調べ尽くす。
一トンの砂を篩(ふるい)にかけて、
ひと粒の金をさがすような仕事だ。
百人に話を聞いて何も得られなければ、
また歩きまわって、
もう百人に話を聞く、
そういうものだ」
食堂で話しかけて来て、名刺を渡した
チャールズ・ワトソンという男についても
広範囲に調べる。
そして、フォードはローウェルの日記を再び詳読して、
ある符号を見つける。
男と会った日の符号。
それにより、最初に男と会った日と場所を特定し、
ある人物が該当することを発見する。
そしてフォードは男の周辺を探索して、
わざと痕跡を残し、
じわじわと男の恐怖心に火を付けていく。
あとは立証の方法だ。
男の家の捜索で、ついにその証拠を見つける。
それは、題名のとおり、
ローウェル失踪時の服装にまつわるものだった。
フォード署長がキャメロンに
犯人を連れて来ることを命じる場面で
物語は終わる。
ヒラリー・ウォーによる
本書は「ミステリの歴史を変えた一作」だという。
それは、「警察捜査小説」というジャンルを生んだからだ。
その後のおびただしい警察小説は、
この一冊によって始まった。
とにかく脇道にそれることなく、
徹頭徹尾捜査だけを描いている。
ただ捜査するだけでなく、
フォード署長とキャメロン巡査部長の
人間描写が生きている点がすぐれている。
高校しか出ていない署長と
大学出の巡査部長の
今ならパワハラとなるやりとりが面白い。
捜査方法も容疑者の家を捜査令状もなしに
侵入するなど、
今では考えられないことをしている。
各種ベストでも評価は高く、
「サンデー・タイムズベスト99」や
「海外ミステリ名作100選」に選ばれており、
「英国推理作家協会が選んだミステリベスト100」(1990)では12位に、
「アメリカ探偵作家クラブが選んだミステリBEST100」(1995)では74位、
「ミステリマガジン読者が選ぶ海外ミステリベスト100」(1991)では20位に選ばれている。
ミステリ小説の一大ジャンル、
警察小説の原点を知る上で、
興味深く、かつ面白い小説だった。
映画化されたという情報がないのが不思議。
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