まさおレポート

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池田弥三郎著「日本の幽霊」から見た「源氏物語」の霊

2014-07-25 | 小説 音楽

日本に帰国した際に我が本棚で何気なく目に留まった池田弥三郎著「日本の幽霊」、出だしは銀座や日本橋に出るタクシーに乗り込む幽霊話だが読み進めると源氏物語を題材に平安朝の日本人の霊やもののけについて語っている。かねてから源氏物語は日本人の宗教観を光源氏の色恋話に埋め込んだものだとは察しがついていたが、この本で一層深く理解できた。

家に憑く怨霊という民俗信仰を、源氏の作者はたくみに『源氏」の筋の中に結びこめていったのである。池田弥三郎著日本の幽霊p148 ・・・これが池田弥三郎の言いたかった結論になる。

以下、与謝野訳源氏物語の抜粋と池田弥三郎の本の抜粋を並べてみていくことにする。

源氏が六条に恋人を持っていたころ、御所からそこへ通う途中で、だいぶ重い病気をし尼になった大弐の乳母を訪たずねようとして、五条辺のその家へ来た。

八月の十五夜であった。明るい月光が板屋根の隙間すきまだらけの家の中へさし込んで、狭い家の中の物が源氏の目に珍しく見えた。(源氏物語 与謝野訳より)

こう書いておけば、当然、六条河原の院を思い浮かべたであろう。「今昔」その他に伝えられた川原院の怪異は・・・世間にその怪異が取りざたされていたのは、『源氏」が書かれていたときであったとみていい。 池田弥三郎著「日本の幽霊」p105

わざわざ平生の源氏に用のない狩衣かりぎぬなどを着て変装した源氏は顔なども全然見せない。(源氏物語 与謝野訳より)

夜半に顔を隠すことは神になることで、その効果は一番どりの鳴く時刻まで続き、その当時の盆踊りなどにその習慣をみることができると池田氏は書いている。

十時過ぎに少し寝入った源氏は枕まくらの所に美しい女がすわっているのを見た。「私がどんなにあなたを愛しているかしれないのに、私を愛さないで、こんな平凡な人をつれていらっしって愛撫なさるのはあまりにひどい。恨めしい方」 と言って横にいる女に手をかけて起こそうとする。こんな光景を見た。苦しい襲われた気持ちになって、すぐ起きると、その時に灯が消えた。不気味なので、太刀を引き抜いて枕もとに置いて、それから右近を起こした。右近も恐ろしくてならぬというふうで近くへ出て来た。(源氏物語 与謝野訳より)

源氏はせめて夢にでも夕顔を見たいと、長く願っていたが比叡ひえいで法事をした次の晩、ほのかではあったが、やはりその人のいた場所は某院で、源氏が枕もとにすわった姿を見た女もそこに添った夢を見た。このことで、荒廃した家などに住む妖怪が、美しい源氏に恋をしたがために、愛人を取り殺したのであると不思議が解決されたのである。源氏は自身もずいぶん危険だったことを知って恐ろしかった。(源氏物語 与謝野訳より)

これが光源氏の解釈である。・・・頭のいい光源氏が、六条の御息所の生霊だろうかということなど、全然思い及んでいないのである。・・・これは六条の御息所とは見ずに、場所にでる妖怪と見た方が合理的である。 池田弥三郎著「日本の幽霊」p109

「蝋燭ろうそくをつけて参れ。随身に弓の絃打をして絶えず声を出して魔性に備えるように命じてくれ。こんな寂しい所で安心をして寝ていていいわけはない。先刻惟光が来たと言っていたが、どうしたか」(源氏物語 与謝野訳より)

「どうしたのだ。気違いじみたこわがりようだ。こんな荒れた家などというものは、狐などが人をおどしてこわがらせるのだよ。私がおればそんなものにおどかされはしないよ」 と言って、源氏は右近を引き起こした。(源氏物語 与謝野訳より)

「気味悪い家になっている。でも鬼なんかだって私だけはどうともしなかろう」と源氏は言った。

夕顔は息もしていない。動かしてみてもなよなよとして気を失っているふうであったから、若々しい弱い人であったから、何かの物怪もののけにこうされているのであろうと思うと、源氏は歎息たんそくされるばかりであった。(源氏物語 与謝野訳より)

灯を近くへ取って見ると、この閨の枕の近くに源氏が夢で見たとおりの容貌をした女が見えて、そしてすっと消えてしまった。昔の小説などにはこんなことも書いてあるが、実際にあるとはと思うと源氏は恐ろしくてならないが夕顔のからだは冷えはてていて、息はまったく絶えているのである。(源氏物語 与謝野訳より)

 


噂をすれば影がさす」という諺でもわかるとおり、鬼という語を発すれば、その当の鬼が活動を始めるのである。昔の日本人はそう考えていた。 池田弥三郎著日本の幽霊 p105

なぜ自分はあの車に乗って行かなかったのだろう、もし蘇生することがあったらあの人はどう思うだろう、見捨てて行ってしまったと恨めしく思わないだろうか、こんなことを思うと胸がせき上がってくるようで、頭も痛く、からだには発熱も感ぜられて苦しい。(源氏物語 与謝野訳より)

光源氏などでも、夕顔の女が死んで後に、・・・女だけを置いてきたことを後悔している。・・・もしその魂がふたたび戻ってくれば生きかえるものと考えていたと見るべきだ。 池田弥三郎著「日本の幽霊」p223

葵夫人は物怪もののけがついたふうの容体で非常に悩んでいた。

葵の君の容体はますます悪い。六条の御息所の生霊であるとも、その父である故人の大臣の亡霊が憑ついているとも言われる噂うわさの聞こえて来た時、御息所は自分自身の薄命を歎なげくほかに人を咀のろう心などはないが、物思いがつのればからだから離れることのあるという魂はあるいはそんな恨みを告げに源氏の夫人の病床へ出没するかもしれないと、こんなふうに悟られることもあるのであった。

物思いの連続といってよい自分の生涯の中に、いまだ今度ほど苦しく思ったことはなかった。御禊の日の屈辱感から燃え立った恨みは自分でももう抑制のできない火になってしまったと思っている御息所は、ちょっとでも眠ると見る夢は、姫君らしい人が美しい姿ですわっている所へ行って、その人の前では乱暴な自分になって、武者ぶりついたり撲なぐったり、現実の自分がなしうることでない荒々しい力が添う、こんな夢で、幾度となく同じ筋を見る、情けないことである、魂がからだを離れて行ったのであろうかと思われる。失神状態に御息所がなっている時もあった。

源氏が慰めると、「そうじゃありません。私は苦しくてなりませんからしばらく法力をゆるめていただきたいとあなたにお願いしようとしたのです。私はこんなふうにしてこちらへ出て来ようなどとは思わないのですが、物思いをする人の魂というものはほんとうに自分から離れて行くものなのです」なつかしい調子でそう言ったあとで、

歎なげきわび空に乱るるわが魂たまを結びとめてよ下がひの褄つま

という声も様子も夫人ではなかった。まったく変わってしまっているのである。怪しいと思って考えてみると、夫人はすっかり六条の御息所になっていた。(源氏物語 与謝野訳より)

これだけ周到な用意の後に、作者ははじめて生霊を発動させている。夕顔の女程度のものに、そんなに小出しに生霊を発動させては、折角の葵の巻の趣向がマイナスになってしまう。・・・夕顔の巻は、何番目かの作者が、下手な改作の手を入れて、妖怪を御息所めかしたのである。 池田弥三郎著日本の幽霊p138

 中宮の母君の御息所は、高い見識の備わった才女の例には思い出される人だが、恋人としてはきわめて扱いにくい性格でしたよ。怨のが当然だと一通りは思われることでも、その人はそのままそのことを忘れずに思いつめて深く恨むのですから、相手は苦しくてならなかった。自己を高く評価させないではおかないという自尊心が年じゅう付きまつわっているような気がして、そんな場合に自分は気に入らない男になるかもしれないと、あまりに見栄を張り過ぎるような私になって、そして自然に遠のいて縁が絶えたのですよ。私が無二無三に進み寄ってあるまじい名の立つ結果を引き起こしたその人の真価を知っているだけなお捨ててしまったのが済まないことに思われて、せめて中宮にはよくお尽くししたいと、それも前生の約束だったのでしょうが、こうして子にしてお世話を申していることで、あの世からも私を見直しているでしょうよ。今も昔も浮わついた心から人のために気の毒な結果を生むことの多い私ですよ」(源氏物語 与謝野訳より)若菜下

しかしやはりいけなかった。怨霊は、25年ぶりに発動を始めたのである。この話をしたすぐの明方から、紫の上は胸が苦しいと言い出したのである。・・・精霊はその名を呼ばれると、活動をおこすのである。・・・三の宮と柏木の右衛門督との間に、密通事件が起こってしまったのである。・・・もののけはまことにたくみなたくらみをしたのである。 池田弥三郎著日本の幽霊p143

家に憑く怨霊という民俗信仰を、源氏の作者はたくみに『源氏」の筋の中に結びこめていったのである。 池田弥三郎著日本の幽霊p148

 

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