今年の一月「未来賞」を受賞された佐藤理江さんから第四歌集をいただきました。『西日が穏やかですね』というタイトルですが、読みながら鋭い作品に圧倒されています.理江さんは授賞」式のとき、白いとっくりのセーターにズボン、ひらひら、ふわふわ装う女たちのなかで「極上のおしゃれ」って感じでした。四十代になられた女ざかりの方ですが、甘さを抑えた、ぶっきらぼうな彼女の作品が私は好きです。 松井多絵子
★佐藤理恵さんの「鋭いするどい十首」
戦場で弾に当たると痛いでせう僕を狙ふとは限らぬ弾に
まちなかで人を刺しても血圧が低くなるのは自分ではない
こちらから床のタイルが変はります国産野菜つて高いですから
日の当たる世界の裏で深々と炭酸ガスを吐く真夜の杉
格助詞を一つ変へれば法律は普通の人を罪人にする
いま二人隣り同士につり革に掴まりながら支へ合はない
「元気です」「よかったですね」「そちらこそ」たがひちがひに嘘を言ひ合ふ
目的はともかくとして敵ばかり増やしてしまふ長い発言
命令の復唱ばかりこだましてコンクリートの町がうるさい
ゆっくりと止まっていつた心臓と花咲く様にひらく瞳孔