「にわかに富士山」
この日ごろテレビも新聞も富士山、富士山である。まるで地殻変動で日本に富士山という山が隆起して現れたような騒ぎだ。
★ボクたちの富士山の高さはアバウトで二千、三千、五千メートル
こんな一首を詠んだことがあるが、わたしも正確に答えられない、大勢の登山者の重みで山は何メートル、あるいは、何十、何百メートルも低くなっているのではないか。計り直したほうがいい。富士山の身長は低くなっているような気がする。老人だってみな若い頃より身長は低くなっている。私の場合は1・3センチもマイナス。
★あのビルがなければ見えるかまだ白い帽子を脱がぬ富士の山頂
わたしは富士山とともに育った、というほどでもないが二階から、晴れた日には富士山が見えた。あのころの東京都世田谷区には高層ビルなどはなく、田園めいていた。半世紀以上も前のことではあるが。ついに私は語り部になるのか、東京の。
富士山が世界遺産になったのは浮世絵などの魅力も貢献しているはずだ。
★いくたびも落選せしを知りしより片岡球子の富士の絵たのし
この数日のテレビには富士山へのぼる人々が映され、わたしは21歳の夏に頂上でご来光を見た朝をおもう。あの時が私の絶頂、その後は下り坂、ゆるやかではあるが。
★富士山を見るため48階にきて鯖雲に見られていたり
★わからないときには遠くの富士山をひきよせたまま眺めていたい
旅行社から送られてきた「富士山の旅」を旅している 松井多絵子