徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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ドイツ:新民間防衛構想、本日(2016.08.24)閣議決定~【緊急事態】ではありません!

2016年08月24日 | 社会

先日の拙ブログ記事「【ドイツの緊急事態】というデマの真相:新民間防衛構想」がFBでシェアされまくり、ツイッターでRTされまくったことに改めて驚きを感じています。中には「信じ込んでいた友人をそうでない、と説得するのは大変でした。」というコメント付きでRTする人がいて、「世の中にはデマを信じ込んでしまい、その後にどれだけ信憑性の高い事実が出てきても既にバイアスがかかっていて、それを容易に受け入れない人が本当にいるんだ」と一瞬ボー然としてしまいました。

それはともかく、本日(2016.08.24)は予定通り「民間防衛構想(Konzeption Zivile Verteidigung=KZV)」が閣議決定されました。原文はドイツ連邦内務省のサイトからダウンロードできます。英語版は用意されていませんので、ドイツ語が分かる方しか参考にならないと思いますが。

以下に「民間防衛構想」の概要を紹介します。

目次:

      略語一覧

  1. Anlass und Zielsetzung 理由と目的
  2. Gegenstand 対象
  3. Rahmenbedingungen 枠組環境
  4. Gemeinsame Prinzipien 共通原則
  5. Aufrechterhaltung der Staats- und Regierungsfunktionen 国家及び政府機能の維持
  6. Zivilschutz 民間人保護
  7. Versorgung 供給
  8. Unterstützung der Streitkräfte 軍隊支援
  9. Weiterentwicklung 今後の発展
  10. Zusammenfassung まとめ

第1章では、省庁を超えた民間防衛構想の更新は1995年が最後であり、冷戦終了による緊張緩和が特徴的であり、民間防衛のためのシステムや施設は解体あるいは各州の災害対策用に転用されたことが述べられています。今回の新構想は変化した状況に適応させるためのものであり、「連邦軍構想(Konzeption der Bundeswehr)」と共に全体的防衛原則の刷新のための基礎となる文書だと位置づけられています。詳細な取り決めに関しては各分野ごとに別文書が作成されるとのことです。

第2章は3部に分かれており、「民間防衛の機能と使命」、「連邦の緊急事態準備における使命」、「連邦の補助的使命」の見出しがついてます。ドイツにおける「連邦」は日本における「国」に相当すると考えれば分かりやすいかと思います。ドイツでは地方分権が広範にわたっているため、何が連邦の管轄で、何が各州政府の管轄なのか、その役割分担がドイツの憲法である基本法に比較的詳細に定められていますが、やはり原則レベルのことですので、具体的な政策施行の際に一々連邦か州かの区別を明確にする必要が生じてきます。「連邦(Der Bund)」は現代ドイツ政治においては連邦政府、連邦議会、連邦省庁の総称です。政治的文脈の中で「連邦が…」と来れば、「これは連邦の管轄です」と明言し、管轄責任の所在を明らかにしているわけなのですが、「州政府は黙っとけ」のような意味合いもなくはないです。

第3章で、どのような脅威、リスク、緊急事態などが想定されているかが扱われています。防衛構想に関してはNATOの枠組みが最重要で、軍事的脅威に関する評価は防衛省の管轄となり、民間防衛構想は防衛省の評価を元に作成される、ということが実に回りくどく、お役所的に述べられてますが、そんな前置きはともかく、ここで想定されているのは以下の脅威です。

  • 従来型の武器による攻撃
  • 化学、生物、放射性物質・核兵器(CBRN)の投入
  • 大量殺戮兵器及びその運搬システムの投入
  • サイバーアタック
  • 重大なインフラの破損あるいは故障
またハイブリッドな脅威の際の注意点として次のものが挙げられています。
  • あからさまな攻撃と隠れた攻撃の多様性
  • 従来型と変則的な能力/機能の混合
  • 軍事的および非軍事的手段の混合
  • 攻撃対象として脆弱な構造への集中
  • 可能な損害シナリオの複雑性
  • 認識と分類の難しさ
  • 警戒期間の短さあるいはその欠落

第4章は非常に短いですが、連邦、州・地方自治体、個人の役割分担、特に連邦の役割とその限界については国民的議論を経て社会のコンセンサスを形成することが、有事の際の最善の対応のためには重要であると言ったことが述べられています。行き当たりばったりでも、一方的な押し付けでも行けない、ということですね。

第5章では国家・政府機能とは何か、有事の際に確保・維持されなければならない機能は何かが定義されています。例えば非常用電源の確保やIT・通信機能の維持などです。「待避所」の設置は明言されていません。

第6章「民間人保護」はもっとも広範な章で、民間防衛構想の中心を成す内容と言えます。大まかに次の分野に分かれています:

  • 自己防衛
  • 警報
  • 建築上の保護
  • 火災予防
  • 避難・分配
  • (被災者の)ケア
  • 健康保護(救急、病院警報計画、薬剤・医療機器の備蓄)
  • CBRN防御(防毒マスクなどの分配や避難指針など)
  • 技術的支援(救援・救出活動、非常時ライフラインの確保・供給など)
  • 標的物保護
  • 文化財保護
第7章では主にライフラインに関わる民間企業の役割が大まかに述べられています。飲料水、食料、医薬品・医療処置、郵便、電信、データ処理、エネルギー供給、現金供給、廃棄物処理、汚水処理などについての基本方針が述べられ、この章でここ何日か話題になっている「各家庭での食料・飲料水・現金の備蓄」も言及されています。
 
第8章で、軍隊支援の在り方が大まかに述べられていますが、「徴兵制」に関しては明言はされていません。与党内でも徴兵制再導入には反対派も多いためでしょう。「軍隊を支援するための現存するあらゆる構造、システム、手段を必要に応じて利用する」と書かれているので、徴兵制という基本法第12a条に定められているシステムもこの中に含まれると解釈しようと思えばできる感じです。
 
第9章では、「民間防衛構想」の位置づけと関連文書が列挙され、防御目的と現状の分析を定期的に行い、構想をアップデートしていくという展望が述べられています。
 
第10章では各章の要点がまとめられてます。
 
以上が今日閣議決定した「民間防衛構想」の概要です。
いい加減【ドイツの緊急事態】というデマを信じ込んでいる人がいなくなっていることを期待しつつ、今日はここで終わりにします。

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)

2016年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

松岡圭祐の『催眠・カウンセラー』シリーズ第3作となるらしいこの『後催眠 完全版』は、『催眠』でお馴染の嵯峨敏也が「木村恵美子に深崎透のことは忘れるように伝えろ」と言う一方的な電話を謎の女性から受け取ることに始まります。データベースを調べてみると木村恵美子が神経症の患者で精神科医兼カウンセラー・深崎透は彼女の担当医だったことが判明し、かつ食道癌で手術後失踪?!

一方、当の恵美子は何かの事件をきっかけにまた神経症を悪化させてしまったらしい。彼女は治療中の時からプライベートで深崎と付き合いがあり(とは言っても男女関係ではない)、彼が失踪したらしいその後も彼と電話で話したりしていて、今度は彼が訪ねて来るという。。。

私は嵯峨敏也のラインと木村恵美子のラインが話が進行していくにつれてもっと積極的に絡み合って来るのかと思っていたのですが、嵯峨はその後ほとんど登場せず、もっぱら恵美子の「事件」に関して警察と対峙し解決していくことと神経症の治癒に話が終始しているので、途中ちょっとイラッとしてしまいました。そしてラストは全く予想外の方向でのオチでびっくり。( ´゚д゚`)エー

これは、松岡氏の他シリーズのように主人公がどの巻でも活躍することを期待している読者にはかなりがっかりなストーリーだと思いますが、カウンセリングや催眠療法に興味のある人には、なかなか興味深い話なのではないかと考えられます。

私自身の感想は、「どちらかと言うと面白い」あたりでしょうか。エンタメ性も中から下程度のように思えるほどテンションが低いです。

同シリーズの『カウンセラー』はどんな感じなのか興味があるので、そちらも読んでみようと思います。

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