徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

2017年05月22日 | 書評ー小説:作者ア行

恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)は今年3月に発売された、直木賞受賞後最初の長編です。一応SFに入るのでしょうか?私には近未来予想図のようにしか思えません。政府や政治家に対する痛烈な批判を含んでいる一方、過激な環境保護団体への皮肉も効いています。

時代設定は今から100年ちょっと後位と思われます。「最後の事故」で、人間が立ち入れなくなった地域をパトロールしているロボット「ウルトラ・エイト」。彼らの居住区に、ある日、国税庁から来たという20代の女性・財護徳子が現れます。彼女の意図は話が進行するうちに徐々に明らかになっていくことなので、最初は取りあえず「謎」です。「マルピー」と呼ばれるゾンビを調査しに来たので協力を願います。「ボス」というロボットたちを統括するロボットはひとまず彼女の要請に従い、「しぶしぶ」協力します。ロボットが「しぶしぶ」というのはおかしな感じがしますが、このロボットたちはおよそ100年分の学習ヒストリーを蓄積したAIを持っているので、状況判断が比較的柔軟になっているようで、個性もあり、かなり人間臭いです。彼らは、モラル三原則:

  1. ロボットは、暴力および生命を脅かすもの(疾病、有毒物質を含む)から人間を守らなければならない。
  2. ロボットは、M1.に反しない限り、人間に損害を与えてはならず、その命令に従わなければならない。
  3. ロボットは、M1およびM2に反しない限り、自分を守らなければならない。

に従い、それを運用する際に、「人間の三前提」と呼ばれる項目を考慮することになっています。

  1. 人間は、物理的にも精神的にも不安定な生き物である。
  2. 人間は、利己的であり、しばしば過ちを犯す。
  3. 人間の取る行動は、必ずしも合理的ではない。
そして、さらに「ロボットの大前提」として「ロボットの最終目的は、人類の利益に奉仕することである」ということが定められています。
これらのことに一々照らし合わせながら状況判断をすることになっているロボットたちは、100年も経つと実に高度な議論も可能な人間臭いものになるらしい。。。

また、作成者の趣味がかなり影響したと思われる設定があり、妙に笑いを誘います。彼らはベットの形をしたメンテナンス装置でパジャマを着て(!)布団をかけて休み、朝は目覚まし時計を止める作業からスタート。神棚にお参りをし、作業着に着替え、ラジオ体操までするんです( ´∀` )

そして、始業の掛け声は「安全第一!火の用心!整理整頓!大魔神!今日も元気で行ってらっしゃい!」

え?なぜ、「大魔神」

他にも笑える設定がいくつかあり、ロボットとゾンビしかいない汚染地域で、何やら危機的な事態が進行中だというのに、かなり脱力してしまうのですが、危機に対処しているのはあくまでもロボットなので、そのくらいのシュールな距離感がむしろぴったりと嵌っているのかも知れません。

唯一の人間である財護徳子の言動も相当場違いで、ロボットの方がむしろ常識的に見えることも、ある意味皮肉なのかな、と思います。

そして進行中の危機は、目の前のお金のことしか考えない政治家や官僚たちによって極秘裏にもたらされます。それを知るきっかけはシュールですが、ロボットたちが導き出した結論と対策は少々「奇策」だけれども、実に筋の通ったものでした。その結論が導かれる過程も非常に読みごたえがあって、面白かったです。

すっかり恩田陸のファンになってしまいました。

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スペイン・アンダルシア旅行記(5):グアディックス(グラナダ県)

2017年05月22日 | 旅行

スペイン・アンダルシア旅行記もいよいよ最終章となりました。最後を飾るのはグラナダから東へ約60㎞の高原にあるグアディックス(Guadix)です。旅行記の最後を飾りはしますけど、ここが旅行の最終ポイントだったわけではありません。旅行記(1)でも述べましたが、最初にセビリアに1泊してからグラナダに向かい、そこに3泊してまたセビリアに戻って3泊という旅程でしたので。

グアディックスはグラナダからの「遠足」みたいなものです。同じグラナダ県ですし。ただ、60㎞も離れていれば天気も違うかもと期待して、雨の降るグラナダ市を離れて遠出したのですが…

天気はもっと悪かったというか、高原なだけあって、気温が低く(9℃くらい)、いきなりドイツに引き戻されたようで、凍える羽目になりました。

それで、ここは何が見所なのかというと、「Cueva(英語のCaveに当たります)」と呼ばれる洞窟住居です。

さて、グアディックスの街に北側のAvenida de Buenos Airesから入るとすぐに目につくのが少し小高い所に建つ教会です。16世紀から18世紀に建てられたため、例によってゴシック、ルネサンス、バロック様式がミックスされています。

下の写真が教会の東側。北側に見える鐘楼とのスタイルの違いがはっきりと分かります。

天気が悪く、教会も閉まっていたので、これ以上詳しくは見ませんでした。主目的は洞窟住居でしたしね。

この教会前にツーリストインフォがあり、観光トレインもここから出ています。一人5€で、Cueva Museo(洞窟住居博物館)と展望台のある所に連れて行ってくれます。その目的地で降ろされた後、30分後にまた来るので、その時に一緒に下りるか、さもなければ歩きで下りることになると言われたので、取りあえず展望台とそのすぐ下の洞窟住居を見学しました。

この家の屋根に当たる部分が展望台になっています。

そこからの風景。分かりにくいかもしれませんが、ところどころ地中からにょっきり生えている白いまたは白っぽい穴の開いた小さい塔みたいなのが洞窟住居の煙突です。なんだかムーミンみたいに見えるのは私だけでしょうか。

 

ダンナが雨の中頑張って、ビデオにも撮ったので、カメラワークとかはあれですが、それを見れば、地形とかはもうちょっと良く分かるのではないかと思います。

洞窟住居と言っても、家全体が洞窟の中にすっぽり収まっているわけではなく、地面から出ている部分(大抵は玄関と台所)は普通の家のように屋根も窓もあり、その他の部屋が地中に掘られた穴に作られているので、遠景でちょっと見ただけでは分かりにくいかと思います。

グアディックスのこの住居形態には約2000年の歴史があります。ここには鉄、銅、そして銀山もあったそうで、その貴重な金属を求めて、古代からここに人が集まり、ローマ時代も、イスラム時代も、レコンキスタ以降も結構栄えていたようです。18世紀になって衰退し始め、洞窟住居からどんどん住民が居なくなったらしいですが、それでもまだ2000件以上人が住んでいて、ヨーロッパ最大の洞窟住居集落だそうです。

住居を改造してレストランにしたり、別荘として貸し出したりしているところもあるようです。

展望台を頭上に頂く住居、ホセの家(Cueva de Jose)は、一般公開されています。ホセさんご本人が「入ってて。ただだよ。」と招き入れてくれるのです。玄関の間は小さなショップになっていて、絵葉書やちょっとした小物、飲み物も置いてありました。その玄関の間を除けば、本当に住んでいたころのままの調度品が置かれていて、外から見ただけでは想像できない中の生活を垣間見ることができます。

  

台所。

 

ダイニング。天井部が丸いのがこの部屋でははっきりと分かります。

寝室。

 

意外と広々として、驚きました。もちろん、台所と玄関の間以外は自然光が一切入らないので、常に電気をつけていなければならないし、窓のない閉塞感というのもあるかもしれませんし、部屋と部屋がきっちりドアで仕切られているわけではないので、プライベートがないという欠点もあるでしょうけど。プライベートの問題はともかく、閉塞感に関しては、「天気がいい日が多いから、外に出れば済むこと」なんだそうです。そこらへんはやっぱりスペインだな、と思いましたね。

ポルトガルへ行った時もそうでしたが、家の中に対するこだわりがドイツ人に比べてかなり弱く、みんな外に出てるんですね。それで外には人が集まって座るところがたくさんあって。ドイツでは、お金を払わずに外で座れるところを探そうとすると結構苦労しますが、イベリア半島では違う。そういうところに気候の違いが出るのだな、となんか感心してしまいました。

展望台の上でビュービューと吹き付けて来る雨風の中で凍え、ホセさんの家でちょっとほっこりしながら見学を終えたころに観光トレインが来たので、私たちは一度下山して、遅い昼食を食べた後に、今度は車で戻ってきて、博物館の方へ行きました。

博物館は洞窟住居を改造拡張したもので、住居の構造や暮らしぶり、歴史などが分かるように展示されています。まずは玄関。スペインのどこでも見かける玄関ドアの前のカーテン。ドアを開けて風通しを良くし、カーテンでプライベートを守っている、という感じでしょうか。

玄関ドアは二つに分かれていて、上部だけ開けることもできます。こうして空気の循環をしたり、自然光を入れるのだそうです。

玄関の間にはテーブルと椅子があって、自然光の入る居間の役割を果たしていたことが分かります。

この博物館になっている洞窟住居の構造。水色で緑色の丸が書いてある部分が玄関の間。右側のオレンジや薄緑の部分と左側の紫や青の部分やその先にあるWCが拡張した部分です。

洞窟住居にはトイレはなかったので、増設せざるを得なかったそうで。確かにないと困りますものね。中世の住居ではトイレがないのが普通でしたが。今は寝たきり患者くらいにしか使用しない持ち運びのできる便器が当時は普通にベットの下に置かれていたんですよね。ドイツ語ではBettpfanne(ベットプファンネ)と言い、その名Pfanne(フライパン)の通り、丸い金属製の蓋つき便器。そういうものがスペインでも普通に使われていたようです。洞窟住居では結構長いこと(19世紀まで)それだったそうで…

台所は玄関の間のすぐ左で、窓があります。この玄関と台所で空気の流れを作り、換気するのだそうです。これは洞窟住居の基本です。その後ろをどれだけ深く掘って、何部屋作るかはそれぞれですが。

台所。

この台所のかまどの使用済みの灰を専用のお皿に取り分け、隣の玄関の間のテーブルの下に置いて、暖房したんだそうです。

 

寝室に至る中間の部屋。色んな道具が展示されてます。

その奥の寝室。

キッチンの奥の貯蔵庫と元家畜部屋(今は道具類を展示)。

 

家畜を中で飼っていたというのには、少なからず衝撃を受けました。毎朝一番に家畜の寝藁を外に出して取り替えていたから、臭いはそれほどでもなかったはずだとのことです。

色んな資料があって、結構じっくりと読んでたら、同時に入館した人たちが誰も居なくなってました。( ̄∇ ̄;)

博物館の近所でなかなかしゃれた家を見つけました。改装したばかりのように見えました。

 

一見その後ろに家が続くのかのように見えましたが、単なる飾り壁で、その後ろには何もありませんでした。( ´∀` )

 

余談ですが、グアディックスは田舎のためか、商店街は午後1時半くらいから17時までクローズでした。レストラン以外は本当にどこも開いてなくて、祭日かと思ったくらいでしたが、単に昼休み中とのことで、17時からまた開店する、と聞いてびっくりでした。

スペインでは生活時間帯がドイツとはずれていることは既に学習済みでしたが、セビリアやグラナダではお店が閉まっているのを見たわけではなかったので、「昼ごはんが遅くまで食べられる」程度の認識だったのですが、それはつまり「遅くまで昼休み」ということを意味しているのだとここではっきりと認識したわけです。

色々と勉強になりました。グラナダ地方ではずっと天気が悪くて、とても残念でしたけど。

 


スペイン・アンダルシア旅行記(1)

スペイン・アンダルシア旅行記(2):セビリア

スペイン・アンダルシア旅行記(3):モンテフリオ(グラナダ県)

スペイン・アンダルシア旅行記(4):グラナダ