徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『初陣』は『隠蔽捜査』シリーズのスピンオフ短編集で、主人公は本編主人公の竜崎の同期で幼馴染の伊丹刑事部長。伊丹がどう竜崎に世話になっているのかが描かれたエピソードで、二人の関係は伊丹の片思いっぽい感じですが、竜崎の方も言葉では「つれない」としか言いようのない態度ですが、なんだかんだと伊丹が持ちかけた相談に明快な解答を出して、手助けをしている当たりは結構面倒見がいいのではないかと思えるくらいです。

短編の中には『疑心』の裏話も収録されていて、女警秘書官の派遣には本当に「ウラ」があったことが語られます。「陰謀」と言うには悪意が介在していないので適切な表現ではないですが、「人が悪いな」と思うくらいには意地悪ですねwww

伊丹と言うキャラが想像以上に心配症で悩み多き人で、かなり外面を作り込んでおり、そしてそうしないと生き残れない私大出身のキャリアの立場に開き直り切れない人なのだということがにじみ出るようなエピソード集でした。私には出身大学がいつまでもいつまでもキャリアに影響を及ぼす世界は想像もつきませんけど、そういうことが当たり前の環境に身を置いている人にとっては重大事なんだろうな、とは思いました。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)


書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』シリーズ第3弾『疑心』は、米大統領の来日に当たって方面警備本部長を元はどうあれ現在は高々所轄の一署長である竜崎が拝命し、その異様な人事に何かきな臭い裏があるのではないかと疑心暗鬼になることから始まります。何か警察内部の陰謀の話なのかと思えば、そうではなくて、妻には「唐変木」と罵られている竜崎がなんと警備部から秘書官として派遣された女警にいかんともしがたい恋心を抱いてしまって仕事に集中するのに難儀する話でしたwww

いかんともしがたくてついに本人は絶対に「親友」とは認めない幼馴染にして同僚の伊丹に悩みを打ち明けるというまったく彼らしくない行動をとってしまうところが人間・竜崎のドラマを一層魅力的なものにしていると感じました。

一方米大統領訪日に当たって日本人が関与するテロ計画が進行中だというので、先遣隊に先立って来日した米シークレットサービスとひと悶着あり、どう決着するのかハラハラします。また2名が死亡した交通事故で行方不明になっていた運転手を独自に追う捜査官としては優秀だが組織人としては問題児の戸高がまたいい味を出しています。戸高の追う者が重要人物であろうことは予想できてしまうので、推理小説的な期待をしていると面白くないかもしれませんが、竜崎と戸高の人間関係の方は味わい深いと思います。竜崎自身が自分と戸高が意外と似ているのではないかと気づくあたりが、冷静な自己分析のできる竜崎の魅力と言えます。恋愛方面ではやっぱり「唐変木」でしょうけど(笑)


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞



書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』シリーズ第2弾の『果断』は第61回日本推理作家協会賞と第21回山本周五郎賞受賞作品。

主人公は引き続き竜崎伸也(46)。今回は大森署署長として銀行強盗犯逃走から立て籠もり事件で活躍します。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立し、異例ながらも前線本部の最高責任者として具体的な指揮はプロに任せつつも、意思決定が必要な時に判断を下し、ちゃんとそのことに対して責任を取る姿勢に心が洗われるようなすがすがしさを感じずにはいられません。「正しいことを正しいと言える珍しいキャリア官僚」と噂のある竜崎という設定ですが、そういう人が変人扱いされるような官僚機構は腐敗しかしないので、現実の官僚によるスキャンダルなんかに嫌気がさしている一般国民にとって、一種のカタルシスが味わえるストーリーです。架空の物語であることが本当に残念なんですけど。

今回は内助の功の奥さんが胃潰瘍で入院してしまい、竜崎の日常生活のダメっぷりが露呈してしまいますが、ちゃんと奥さんを気にかけているし、できることは自分でしようと就職活動で忙しい娘に任せきりにしないあたりが健気で好感が持てます。男女の役割分担に関して非常に封建的な考え方の持ち主ではありますが、それを周りに押し付けようとしないところが評価できます。また息子が目指したいアニメの世界にも、見てくれと言われたDVDを見て、やや認識を改めるところも、なかなか柔軟性のある親父っぷりで拍手したいくらいですね。

ストーリー展開は第1弾よりも緊迫感があり、また責任を取らされて降格されそうになったりしますが、部下の「ひっかかり」を無視せずに事件の洗い直しをすることで一転事件が全く違う様相を示し、SATが突入して犯人を殺したという厳しい批判をひっくり返すことになるのがまた痛快です。きっとこれで部下の心もがっちりゲットできたことでしょう。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作