徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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フランス・フェッセンアイム原発がヤバい!

2015年09月29日 | 社会


ドイツ国境近くにあるフランスのフェッセンアイム原発は、オランド仏大統領が2012年9月に宣言した通りであれば、2016年末に稼働停止、閉鎖されるはずでした。ところが先日、9月8日にセゴレーヌ・ロワヤル仏環境相が稼働停止は延期され2018年になると発表しました。(注1)理由はフラマンヴィーユ原発完成の遅延とか。しかし、これまでフェッセンアイム原発停止とフラマンヴィーユ原発完成が連動する話にはなっていませんでした。この二つを連動させるととんでもないことになります。なぜなら、フラマンヴィーユに建設中の原発は欧州加圧水型炉と呼ばれる代物で、同様のものが、フィンランドでも建設中ですが、設計上の問題があるため、どちらも建設工事が大幅に遅れ、コストも膨大になっています。両者が果たして本当に完成するのかすら危ぶまれているくらいです。ですから、新原発の完成と老朽化の激しいフェッセンアイム原発停止を連動させるということは、危なっかしい原発がいつまでも稼働し続けることになり、周辺住民を危険にさらし続けることになります。
フェッセンアイム原発がいかに危険か以下にご紹介します。

フェッセンアイム原発とは

フェッセンアイム原子力発電所(フランス語:Centrale nucléaire de Fessenheim)は、フランス共和国オー=ラン県フェッセンアイムに所在する原子力発電所。施設はアルザス大運河(fr:Grand canal d'Alsace)の西岸にあり、ドイツ国境から約1㎞のところに位置しています。国境を接しているのはドイツ、バーデン・ヴュルッテンベルク州です。
計画段階では加圧水型原子炉や天然ウラン黒鉛炉などが候補に挙がっており、1967年には2つの原子炉に建設認可書も出されようとしていたのですが、1969年、EdF(フランス電力公社)がその計画を取り消し、加圧水型軽水炉を建設することに決定しました。その際、ウェスティングハウスのモデルが採用されました。1970年に建設が開始され、総工費は約10億ユーロでした。
この原発用地には当初原子炉4基の建設が計画されていましたが、第3、第4ブロックの建設は1991年になって、最終的に破棄されました。
1977年にフェッセンアイム原発はそれぞれ880メガワットの平均出力を持つ軽水炉2基で商業運転を開始しました。現在稼働中のフランスの原発の中で最古の原発です。事業者発表では毎年約4億ユーロの純利益を上げているとのこと。

フェッセンアイム原発の問題点

まずは通常運転で許容されている放射性ガスの排出量です。フランス電力公社によると、トリチウムの上限は1480テラベクレル(1TBqは1兆ベクレル)、ヨードその他は111ギガベクレル(1GBqは10億ベクレル)空気中に排出されてよいことになっています。また排水には74テラベクレルまでのトリチウム及び926ギガベクレルまでのヨードなどがアルザス大運河に流出してもいいことになっています。2009年には24テラベクレルのトリチウムがライン川に排出されたとのこと。これが本当に許容されていい値なのかもちろん議論の余地が大いにあります。

次に温排水によるライン川への負担です。フェッセンアイム原発には冷却塔が設置されていないため、施設内で排水の再冷却をすることができず、温水(約30度)のまま放出されることになります。

フェッセンアイム原発はまたアルザス大運河の水位よりも低いところに位置しているため、大雨でダムが決壊して洪水になった場合は、施設が簡単に浸水することになります。

また耐震性の問題もあります。オー=ラン県の大部分は第3種の地震活動帯に分類され、特に県南部域は第4種の最も危険な地域に分類されています。事業者発表ではフェッセンアイム原発施設はマグニチュード6.7までの耐震性を想定しているとのこと。これは中世最大の地震と言われる1356年に起きたバーゼル地震がマグニチュード6.7だったと推測されていることに基づいています。
2011年3月11日に地元の情報・監視委員会はマグニチュード7.2の地震発生時にプラントの安全性について、また「冷却システムの冗長性」についての専門家による鑑定を依頼しました。2011年7月4日付の意見書で原子力安全局は福島第一原子力発電所事故の結果を受けて、第三者検討会を通して安全性の見直しを進めた上で、危険性はないと判断し、発電所閉鎖の妥当性は無いとして、10年間の運転継続を認めました。その判断が妥当かどうか明らかになる日が来ないことを祈るしかありません。

プラントの土台は通常4.3mの厚みがあるのに対して、フェッセンアイム原発の土台は1.5mの厚みしかありません。仏原子力安全局はこの土台の強化を求めましたが、それは技術的に難しく費用がかさむため、事業者側は部分的な土台の強化といわゆる「コアキャッチャー」を設置することでお茶を濁しました。(注2)

さらに問題なのは使用済み核燃料棒冷却保存プールです。グリーンピースの報告書(注2)によれば、保存プールは原子炉建屋外にあり、保護カバーがないとのことです。従って例えば飛行機の墜落やテロ攻撃に対する防御措置が不十分なのです。
不十分なのは原子炉格納容器も同様で、通常は2重の壁であるところを1重の壁にしかなっていないので、事故の際の耐性に疑問があり、余分な放射能漏洩に繋がる可能性もあります。
また、ティアンジュ原発同様圧力容器にひび・亀裂がフェッセンアイム1号炉に見つかっています。「安全」って何でしょう?

事故歴

2004年
1月24日、弁から誤って放射性物質が排出され下請け業者7人が被曝し、国際原子力事象評価尺度レベル1に分類される事故。

2005年
9月29日、1号炉で電源障害により燃料を撤去する際、配電盤が容器内のホウ素濃度測定の結果異常を検出し、使用済燃料プールの冷却ポンプが蓄電池放電が原因で停止。この事故は国際原子力事象評価尺度レベル1に分類。

2009年
2009年12月27日、2号炉が植物の残骸が冷却給水システムに見つかったため一時停止。仏原子力安全局はこの事件を国際原子力事象評価尺度でレベル1と評価。メンテナンスのために同年12月26日に一時停止していた原子炉は27日6時に再稼働する筈でしたが、冷却水取水ポンプを起動する際に植物の残骸が入ってしまったとのこと。

2010年
8月24日、50立方メートルの放射性ガスが放出。仏原子力安全局の8月30日の発表では、ガスの放射性崩壊は漏えいの際に計測されなかったという。この事件は国際原子力事象評価尺度でレベル0と評価。
10月20日、換気扇のスイッチを入れた際にショートを起こし、1号炉は念のため一時停止。

2011年
4月3日、1号炉で操作ミスによる自動停止。事業者による検査の後、翌日には再稼働。仏原子力安全局はこの事故を国際原子力事象評価尺度でレベル1と評価。
4月25日、事業者発表によれば、2号炉の機械室でオルタネーターの冷却部分に火災が発生。

2012年
5月8日、2号機に問題発生。停電をシミュレーションするため、通常電力網から切り離してテスト中に自動緊急停止。
9月5日、過酸化水素蒸気が放出され、数人が負傷。

2014年
4月9日、貯水槽への取水ミスでプラントのいくつかの部分が水浸しに。その際1号炉の緊急停止やその他の安全システムの稼働に必要な防護装置の1系統が浸水で故障。予備系統は故障なし。プラントは修理のため即座にシャットダウン。
国際原子力事象評価尺度でレベル1の事故。

2015年
2月28日、機械室で配水管の亀裂から100立方メートル以上の水が漏えい。電気系統が浸水のため緊急停止。亀裂の原因が不明のまま3月5日には再稼働。事故は国際原子力事象評価尺度レベル0。

どれも大事には至らなかったとはいえ、かなり危なっかしい自転車操業であるような印象を受けざるを得ません。正直、即時廃炉にしてほしいです。そのための署名活動が実施中です。
署名サイトはこちら

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注1:ソースはシュピーゲル誌、2015年9月8日の記事です。原文はこちら
注2:グリーンピースの報告書より