ハンナ・アーレントの悪に関する考察などというお堅い本を何日も読んでいたので、気分転換に何か柔らかいものをと思ってこの『きれいなシワの作り方~淑女の思春期病』というエッセイ集を手に取ってみました。
村田紗耶香の本は今まで『コンビニ人間』しか読んだことありませんでしたが、これから色々読んで行こうと目をつけている作家の一人です。
さて、このエッセイは著者曰く、アラサーの「今」だから書ける言葉を拾い集めたいと思って書き留めたものだそうです。30代になって、体の変化に気付き、戸惑うところは思春期のそれに似ている。だから「淑女の思春期病」。最初は「アラサーあるある」みたいな比較的同世代の女性に共感を得やすいと思われるテーマが中心だったのですが、だんだん作者本人の特殊性を掘り下げ、それをどこかユーモラスに苦笑いしながら描写する感じの日記みたいになっていきます。
著者の人目を気にし過ぎな自意識過剰なところや、自己肯定感の少なさ、周りに変に気を使い過ぎて失敗するところなどは私とはかけ離れたキャラなので「あるある」と共感できる部分は非常に少なく、また「アラサーあるある」的な話題でも、そのアラサーを日本とは全く価値観の違うドイツで過ごした私には本当の意味で共感できるものではありませんでしたが、にもかかわらずかなり楽しんで読み進むことができたのはこの作者の筆力ならではのことだと思います。
「大人」になり切れない自分、達観した「大人」になりたい自分、自分の好きなことをして年齢を重ねたいと思う自分、だけど「年齢にあったいいもの」という謎の価値観に惑わされてしまう自分などなど、本人のモヤモヤ・ふらふらした考えや思いなどが日常的なエピソードの中で描かれています。計算されているのかどうかは不明ですが、それらが滑稽で「なぜ?」と疑問に思いながらも笑ってしまうのです。
アラサーでもう結婚できそうにないから老人ホームでもてたいと考えるってどうよ?!
とか、ネットで「可愛い傘&大人」などとワードを入れて検索し、色々見てるうちに「この6年前に限定発売された傘、どこかに残ってないのか…?」と謎のヒートアップをするとか(笑)。
『「活」の怖さとひりつく痛み』では、婚活、妊活、離活に美活など女性にまつわる「活」の強制力の怖さについて考察していて、その痛みの渦に呑み込まれないように自分を戒めている様子が逆に気の毒に思えてきました。日本ならきっと苦しいだろうと想像に難くありません。
もし、あなたが「大人」になり切れない自分、理想の自分になれてないことに悩んでいるのなら、このエッセイを読んでみてはいかがでしょうか?「悩んでいてもいいんだ」、「ふらふらしててもいいんだ」という謎の肯定感と元気が得られるかもしれません(笑)。