連邦議会選挙を3週間後に控えたドイツですが、世論調査による投票先政党のシェアにほとんど動きはなく、安定のメルケル首相に対して、攻撃のしどころを考えあぐねているシュルツという図式の膠着状態が続いているような印象を受けます。
では、以下に最新の世論調査ポリートバロメーターの結果をご紹介します。まずは内燃エンジンから。
内燃エンジン
化石燃料による内燃エンジン搭載車の新規認可を2030年から停止すると提案しているのは緑の党です。ドイツでは自動車産業の発言力が大きいこともあり、長らく「クリーンなディーゼル」という夢を追い、電気モーターの分野で他国に後れを取っています。昨年からフォルクスワーゲンや今年になってダイムラーもディーゼルの排気量計測ソフトウエアを操作するなどでスキャンダルになっており、ディーゼルに対する風向きが強まってきています。このトレンドを背景に緑の党は電気自動車の推進と、内燃エンジン車の新規認可を2030年で停止することを決議したのですが、バーデン・ヴュルッテンベルク州首相を務めるヴィンフリート・クレッチュマン(緑の党)はこれを公式に批判し、党内に波紋を広げています。
さて、これに関する世論は?
2030年からの内燃エンジン車新規認可停止?
賛成 31%
反対 59%
分からない 10%
支持政党別賛成者割合:
CDU/CSU 23%
SPD 30%
左翼政党 47%
緑の党 63%
FDP 22%
AfD 16%
以上のように、緑の党支持者を除外すると反対が圧倒的多数を占めています。
さて次は連邦議会選挙についてです。
選挙戦
選挙戦に興味ありますか?
はい(とても) 44% (2013年、37%)
いいえ(全く) 55% (2013年、62%)
前回(2013年)の連邦議会選挙前に比べると選挙戦に対して興味を示す人が多くなっていると言えますが、依然として「興味なし」の人が55%もいます。
現在選挙戦は退屈だと思いますか?
はい 56%
いいえ 34%
分からない 10%
選挙戦を退屈ではないと思っている人の割合はたったの34%で、興味を示している人の割合よりもさらに少なくなっています。「分からない」という10%の人たちは退屈かどうかを判断できるほど選挙戦を見ていない・知らないということなのでしょう。全然投票をしない人たちなのかもしれません。
投票先
次の日曜日が連邦議会選挙なら、どの政党に投票しますか?
CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 39%(変化なし)
SPD(ドイツ社会民主党) 22% (変化なし)
Linke(左翼政党) 9%(変化なし)
Grüne(緑の党) 8%(変化なし)
FDP (自由民主党) 10%(+1)
AfD(ドイツのための選択肢) 8%(-1)
その他 4% (変化なし)
CDU/CSU、SPDに次ぐ第三勢力の座を4政党がほぼ横並びで争っている状況が続いていますが、一時期右翼ポピュリズムの台頭として騒がれたAfDの支持率は下火になってきています。トランプ大統領やイギリスのEU離脱など、ポピュリズムの行き着く先を見せつけられて、熱が冷め始めているのかも知れません。
1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:
政権満足度(スケールは+5から-5まで):+1.3
投票意思なし:
投票しない 6%
分からない 22%
誰が連邦選挙で勝つか今日既に明らかですか?
はい 45%
いいえ 53%
分からない 2%
まだ勝負が決まってないと見る人が53%に上るとは少し意外です。世論調査の投票先政党のシェアが膠着状態にあるだけに、どこらへんに不確定要素があるのか興味深い所ですね。
今日から見ると、誰が連邦議会選挙に勝利すると思いますか?
CDU/CSU 78%
SPD 6%
その他 4%
分からない 12%
投票先は確定していますか?
はい 55%
いいえ 45%
投票先が確定していない人が45%というのは確かに不確定要素ですね。この人たちが選挙当日に実際にどこに投票するかによって結果が左右されることになります。
首相候補
どちらが首相として好ましいですか?
メルケル 57%
シュルツ 28%
なんか気の毒なくらい差がついてしまっていますね。
メルケル対シュルツ 評価
信用できる
メルケル 38%
シュルツ 11%
どちらとも変わらない 44%
好感度
メルケル 42%
シュルツ 19%
どちらも変わらない 34%
専門知識
メルケル 49%
シュルツ 7%
どちらも変わらない 33%
シュルツの方が専門知識があると考えている人がたったの7%なんて、なんか気の毒になるくらいですが、実際にヨーロッパ最古参の現職首相の落ち着きを見せるメルケルと比べると、シュルツはなぜか頭が悪そうに見えてしまうという印象を持っていたのは私だけではなかったということでしょうか。
社会的公正の実現
メルケル 22%
シュルツ 33%
どちらも変わらない 36%
国を不安定な時代の中で導いていく
メルケル 60%
シュルツ 8%
どちらも変わらない 24%
「社会的公正」は、シュルツが唯一メルケルをリードするポイントです。そこはやはり社会民主党の候補者ならではと言えます。この点に関して、メルケルは往々にして冷淡に映ります。
しかしながら、世界各地の紛争、危機、トルコとの緊張関係、アメリカとNATOの行方など不透明な時代の指導者としてはやはり首相経験12年のメルケルに軍配が上がるようです。彼女の極端な「待ち」の姿勢は、強い指導力の欠落を表していると多くの有識者が批判するところではありますが、下手に個々の事象に「反応」して慌ただしく何か行動を起こすよりは害が少なさそうな気がするのは私だけではないでしょう。
連邦首相としての任務をアンゲラ・メルケルはどうこなしていると思いますか?
よくやっている 76%
不充分 19%
マルチン・シュルツなら?
もっとよくやれる 16%
さらに悪くなる 29%
変わりない 38%
分からない 17%
TV対決ではどちらが優位になると思いますか?
メルケル 33%
シュルツ 10%
引き分け 46%
政治家評価
政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):
- アンゲラ・メルケル(首相)、2.1(↑)
- ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.9(↑)
- ジーグマー・ガブリエル(新外相)、1.4(→)
- トーマス・ドメジエール(内相)、0.9(↓)
- クリスティアン・リンドナー(FDP党首)、0.9(→)
- チェム・エツデミール(緑の党党首)、0.8(↑)
- マルチン・シュルツ(SPD党首・前欧州議会議長)、0.7(→)
- ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.6(↑)
- ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.3(→)
- サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党党首)、-0.3(→)
イギリスのEU離脱
イギリスのEU離脱交渉が本格的に開始されましたが、イギリス側の条件には不透明な部分が多く、実のところイギリスはどうしたいのか分からないのではないかという不安が弱体化したメイ政権にはあります。そうしたことを背景に、交渉においてEUはイギリスに大きく譲歩すべきかどうかについてのドイツ世論は冷淡で、譲歩すべきと答えたのがわずか11%だったのに対して、譲歩すべきではないと答えたのが84%にも上りました。
長期的に見たイギリスのEU離脱の評価:
EUにとって
いい 20%
悪い 66%
分からない 14%
イギリスにとって
いい 9%
悪い 82%
分からない 9%
イギリスのEU離脱は双方にとって悪い結果が予想されていますが、相対的にイギリスの方がより大きな痛手を被るだろうと予想されているようです。
アフリカで難民申請?
8月28日にパリで開催された難民サミットで、EUはアフリカからヨーロッパへ渡航しようとして地中海を渡る危険を冒す難民が後を絶たない状況を受けて、既にアフリカでヨーロッパにおける難民認定される可能性があるかどうかを審査すべきだという見解を出しました。この制度を導入した場合に、地中海を渡る難民数が減少するかどうかという質問に対して、67%が「減少しない」と答えました。「減少する」と答えたのは29%だけでした。
参照記事:
ZDF Politbarometer, 01.09.2017, "Mehrheit gegen Aus für Verbrennungsmotoren ab 2030"
n-tv, 24.06.2017, "Das Ende des Verbrennungsmotors: So ist 2030 machbar"
Zeit Online, 28.08.2017, "Flüchtlingsgipfel: EU-Länder für Alternativen zur Flucht über das Mittelmeer"