恩田陸の常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』を一気読みしました。
常野(とこの)というのは特殊能力を持った一族の自称で、権力の座に就こうとせずに「常に野に在れ」という一族の戒めを込めた名称らしいです。同族結婚もタブーとされ、できる限り多くの一般家系と血縁を結ぶのが習わしになっているとか。一族の聖地は東北のどこか、「達磨山」と俗に呼ばれるところだそうで、そこでは時々不思議なことが起こるようです。
第1部の『光の帝国』は、いわば序章で、常野にまつわる不思議な話の短編集となっています。収録作品は、
- 大きな引き出し
- 二つの茶碗
- 達磨山への道
- オセロ・ゲーム
- 手紙
- 光の帝国
- 歴史の時間
- 草取り
- 黒い塔
- 国道を降りて…
の10編です。やたらと記憶力のいい、なんでも「しまえる」春田家。「あれ」という正体不明のものと戦い続け、「裏返されない」ために相手を「裏返す」ことを延々と続ける拝島家。一体いつから生きているのか分からない「ツル先生」。普通の人には見えない、建物や人間にまで生える毒々しい色の「草」を取る人。どうやら自分が何者なのか記憶にないらしい「亜希子」。
それぞれのエピソードは一応独立していますが、様々な伏線が相互に干渉し合い、響き合って一つの常野ワールドを形成しているようです。
第2部の『蒲公英(たんぽぽ)草紙』は中島峰子という20世紀初頭に少女時代を送った人の回想という形をとっており、常野の血の入った村の長者・植村家と、特に「遠目」と呼ばれる予知能力のようなものを受け継いだ次女・聡子とのかかわりが語られます。この回想の中でも、異常に記憶力のいい、一族の記録係の役割を負う春田家が登場します。常野一族の在り方、普通の人たちとのかかわり方、世の中との関わり方や生き方が中島峰子という普通の人の目を通して語られています。少し不思議な感じのことも含まれていますが、20世紀初頭という時代フレームの中の物語として興味深く読めます。第1部を知らなくても問題なく読めると思います。
第3部『エンド・ゲーム』は、「裏返す」、「裏返される」の戦いを続けているという第1部の「オセロ・ゲーム」に登場した拝島家の話を1冊の小説に膨らませたもので、好みもあるでしょうが、私にはちょっとファンタジーが過ぎるというか、あまり納得のいかないストーリーでした。結局のところ「あれ」って何?という疑問も残ったままですし、何のためにそういう戦いをするようになったのかとか、記憶をいじる能力があるらしい「洗濯屋」の役割とか、その能力の発現の仕方がよく分からないままで、もやもやとした感じが残ります。一族の者たちが作り上げたらしい共同幻想の世界の中に入るとはどういうことなのか???
なんかもう挙げ出したらきりがないような疑問符の山です。それでも好きな方はこの不思議ワールドを楽しめるのかも知れません。文章自体は惹きつけるものがありますし、先を知りたいと読者の心を掴むだけの力はあります。ただ、私のように理屈をこねるタイプというか、物語に何かしら了解すべき「設定」というものを必要とするタイプには、どれだけ読んでも謎が解決しないまま話が終わってしまうので、納得のいかない話ですし、なんだか騙されたような気分になるかと思います。