徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『本日は大安なり』(角川文庫)

2018年05月14日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『本日は大安なり』はとある地方の県下一の伝統あるホテルの結婚式場での11月22日、大安の一日を描いたもので、その日に式を挙げる4組のカップルの主要人物とブライダルプランナー・山井多香子が代わる代わるそれぞれの事情や心情をモノローグで語り継いでいきます。じわじわと明らかになっていくそれぞれの事情の中には予想外のものもあり、どうなってしまうのかとスリリングな話運びです。双子姉妹のドラマも興味深いですし、花嫁の甥っ子「真空(まそら)」が大好きな叔母「りえちゃん」を心配する健気さもかわいいし、トラブル続きのクレーマーカップルとプランナーのドラマも読み応えありますが、一番スリリングだったのは既婚なのに、なかなか真実が言い出せずにとうとう浮気相手と結婚式を挙げる当日になってしまって、なんとか中止にして逃れられないかと画策する「鈴木陸男」の事情でした。陸男は最初「彼の運命の女」について回想しているので、彼の当日の事情が明らかになるのはずっと後でびっくりしたんですが(ネタばれ、すみません)、事情を知った後は「どうすんのよ?!」とハラハラしながら読み進みました。

事件は起こりましたが、結局収まるところに収まり、結婚話がつぶれてしまった過去を持つブライダルプランナー・山井さんも最後にはハッピーになれてよかったと、ほっとして本を閉じられる小説でした。

それにしても、結婚式に300万円。この作品の舞台になっているホテルは老舗なので、さらに3割増しくらいという設定でしたが、くらくらしちゃいますね。一生に一度のことだからと金銭感覚がマヒしてしまう方々がいる一方で、体面や親のためなどで仕方なくという方々もいるのだと思いますが、正直日本の冠婚葬祭はお金がかかり過ぎると驚き・呆れるばかりです。ドイツでも結婚式はピンからキリまでですが、婚姻届けを出すために絶対に必要な役所婚とホテルまたはレストランで披露宴で数千ユーロ(数十万円)というのが相場かと思います。クリスチャンであれば、役所婚の他に教会で挙式して披露宴という運びになりますが、一番高いのはウエディングドレス等一式と披露宴でしょう。でも日本のように凝った演出とかはないのが普通です。私などは貧乏学生を終えたばかりのタイミングでしたので、婚約指輪や結婚指輪もなく、ドレスも新調せず、避けて通れない役所婚だけをやり、本当に内輪だけのお食事をしておしまいでしたが、別に後悔してませんし、それなりに収入・財産のある今でもやり直そうとも思いません。どんなことに価値を見出してお金を使うのかは全く個人の問題で、人のことはとやかく言うつもりもありませんけど、日本にいなかったおかげで余計な散財をせずに済んだと胸をなでおろしているのが私の正直な気持ちです。300万円の使い道として、私なら確実にマイホーム資金の足しにすることを考えるでしょう。

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