忙しいところ、睡眠時間をかなり削って、 『夜の底は柔らかな幻』上下 と 『終りなき夜に生れつく』の3冊を読破しました。
『夜の底は柔らかな幻』は2015年発行、『終りなき夜に生れつく』は2017年発行で、割と最近の作品です。
本編の『夜の底は柔らかな幻』は、導入部も何もなく、話がいきなり始まり、「イロ」とか「在色者」とか「闇月」とか謎のキーワードが唐突に使われているため、あまり読者に親切とは言い難い話運びです。
「途鎖国。そこは日本の国家権力の及ばない鎖国状態にある国。そこは、「イロ」と呼ばれる特殊能力を持った者ー「在色者」ーが世界的に見ても特に多いと言われる特殊な場所だ。闇月といわれる時期、途鎖では多くの者がある目的をもって山深くを目指すが、山は禁忌の地であり、途鎖警察も見て見ぬふりをするような無法地帯だ。近年、そこでの麻薬生産が増えているという噂もあり、途鎖の入国管理局は、この闇月に特に神経質になっていた。
在色者である有元実邦は、身分を隠して彼女の生まれ故郷である途鎖に入国しようと列車に揺られていた。」
のような導入部があったら、もっとすんなり話に入っていけるのになあ、と少し残念に思いました。やはり架空の、だけど物語に重要な設定は、先に提示されれば、物語のフレームワークが読者の頭の中でできて、それがたとえどんなに荒唐無稽な、非日常的な設定であろうと、すんなりとその物語ワールドに入れるはず。ファンタジーものは大抵こういう手法をとるものですが…
『夜の底は柔らかな幻』は、どちらかというとミステリー的な語り方なのだと思います。まず最初に誰だかわからない死体が転がっているところから始まって、徐々にそのバックグラウンドが語られるような感じでしょうか。
同時に、これはホラーですね。「在色者」という得体の知れない化け物が、その特殊能力「イロ」を用いて連続殺人事件を起こしてますので。そして、徐々に禁忌の山の謎に迫るわけなのですが、結局のところ何なのか、つかみどころがない感じで終わってます。本物の化け物は山に居た、みたいな?
こうして結論的なものを書いてしまうと、身も蓋もないような感じになってしまいますが、恩田陸の筆力は流石で、読者をハラハラ・ドキドキまたはゾッとさせながら、最後まで退屈させることなく連れて行ってくれます。だから余計に眠れなかったわけです(笑)
『終りなき夜に生れつく』は前作のスピンオフ短編集で、本編で活躍(?)した殺人鬼たちや、本編で有元実邦に協力した医師・元医師の過去の出来事が語られています。収録作品は、「砂の夜」、「夜のふたつの貌」、「夜間飛行」、「終りなき夜に生れつく」の4編です。有元実邦は4編目の表題作に存在を仄めかされている程度で、あくまでも主要脇役たちの物語を描いた短編集となっています。
スピンオフですので、本編の登場人物たちの背景説明色が強く、ホラー的あるいはミステリー的な要素はかなり弱くなっています。本編を読んでから、こちらを読むと、「なるほど、そうだったのか」または「そう始まったのか」と色々納得できることが多いです。