徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:ジェフリー・アーチャー著(永井淳訳)、『ロスノフスキ家の娘』上・下(新潮文庫)

2017年06月27日 | 書評ー小説:作者ア行

知人にお借りしたジェフリー・アーチャー著(永井淳訳)、『ロスノフスキ家の娘』上・下を一気読みしました。初版が昭和58年ですから、随分年季の入った本です。原作の「The Prodigal Daughter」は1982年の作品。この作品は同著者の「ケインとアベル」の続編という位置づけで、アベルの娘フロレンティナが主人公です。

アベル・ロスノフスキはポーランドの男爵で様々な事情があって(詳しい事情は「ケインとアベル」に掲載)アメリカに移住し、そこでまさに「アメリカンドリーム」を実現して、ホテル王にのし上がります。彼の一人娘フロレンティナは幼少のころから才能に満ち溢れ、11歳の時には「アメリカの大統領になる」と宣言するような利発な子でした。この彼女が最終的には本当にアメリカ大統領になるというストーリーです。

原題の「The Prodigal Daughter(放蕩娘)」はなぜそのタイトルなのか良く分かりませんでしたが、どうやら彼女が父親の反対を押し切って、宿敵ケイン家の息子と駆け落ちしてしまったことから来ているようです。

この小説は一人の女性の大河ドラマであると同時にアメリカ現代史の流れの中のドラマでもあります。第二次世界大戦、ベトナム戦争、冷戦時代をアメリカの中から見たものでもあるので、外から見ているのとはまた違った視点が得られます。また、ポーランド系移民の娘が政治家になる過程が描かれるとなれば、当然差別の問題も取り上げられます。フロレンティナはそうした差別と闘い、自分の会社では人種に関わりなく能力で採用し、同じ給料を払い、父のホテル帝国を継いだ後はその方針をホテルチェーン全般に生き渡させるなど、当時としてはなかなか革新的な経営をしています。政治家に転身してからは、差別問題に取り組んでいくのかと思いきや、防衛問題にのめり込んでいく辺りが、面白いところです。そして下院、上院議員を経て、いよいよ民主党の大統領候補に指名されるか、というところで繰り広げられる政争もハラハラものです。

小説の中では、「アメリカ社会は女性大統領を受け入れるほど熟している」とされていますが、実際には現在まで女性大統領は誕生してませんね。黒人大統領は画期的でしたが、それに次ぐクリントン氏は逆にハンディキャップが少なすぎたのかも知れません。何せ白人で、元ファーストレディーで、政治と財閥の癒着の真っただ中にいるイメージですので。

それはともかく、今度はお父さん(アベル・ロスノフスキ)のほうのドラマを読んでみたいですね。

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