徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:澤村御影著、『准教授・高槻彰良の推察』1~7巻+EX (角川文庫)

2022年06月01日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『准教授・高槻彰良の推察』全7巻(未完結)と番外編のEXの計8冊を一気に読みました。このため、各巻個別の書評を書くのが困難なので、7巻までの全体的な書評を書きたいと思います。

主人公は大学1年生(途中進学して2年)の深町尚哉。彼は10歳のときに祖父母の住む田舎でお盆祭りに熱を出したために行けなかったのですが、夜中にふと目が覚め、太鼓の音を聞きつけて、まだ盆踊りをしているのかと思って外に出て行くと、そこでは死者たちが面をかぶって踊っていたのです。尚哉も従兄からお土産にもらったお面を付けていたので最初は気づかれなかったものの、昨年死んだはずの尚哉の祖父に見咎められ、帰ろうとしたものの、他の死者たちにも見つかってしまったので、代償を払うことになります。その時彼は「孤独になる」というべっこう飴を選んでその場で食べます。
気が付いたら朝で、(祖父母宅の)自分の部屋で寝ていたのですが、間もなく人が嘘をつくとその声が歪んで聞こえることに気づきます。
人は頻繁に嘘をつくので、人の多いところではたくさんの声が歪んだ音として聞こえてきて、尚哉は時に気持ち悪くなって倒れてしまうこともあります。
このため、人ごみを避け、人付き合いを当たり障りのない程度に抑えざるを得なくなります。これが「孤独になる」という代償だったのです。

尚哉の通う青和大学の文学部民俗学の準教授・高槻彰良は30代半ばの超イケメンで、好みの怪異に出会うとついテンションが上がってしまう変人です。この人は子どもの頃に1か月間ほど行方不明となり、遠く離れたところで意識を失くして発見されたという経験を持ち、当時の記憶を失くしてしまっています。誘拐か神隠しの怪異か明らかではありませんが、発見された時に背中に羽根をもがれたかのように皮膚を引き裂かれた傷があり、また異常に記憶力が良くなったり、極度の鳥恐怖症になったり、目の色が時に藍色に変わるようになったため、高槻彰良の母親は彼が天狗にさらわれたのだと思い込み、一時期「天狗の子」として彰良を崇拝の対象とします。
しかし、彰良はしばらくして母の思い通りに「天狗の子」であることを止めると、母親はそれに耐えられず、自分の子はまだ行方不明のままであり、目の前にいる彰良は別人と考え、その存在すら見えなくなってしまいます。
母親との同居が困難となったため、彰良は叔父のいるロンドンに預けられ、そこで高校時代を過ごしますが、日本の怪異を研究するために大学は日本に戻ってきます。こうしてありとあらゆる怪異・怪談・都市伝説などを研究し、青和大学民俗学准教授となります。
高槻彰良は<隣のハナシ>というサイトを運営し、「あなたの隣で話されていた不思議なハナシを、教えてください」と一般からハナシを公募しているので、そこから怪異現象に関する相談を持ち掛けられることもあります。

深町尚哉はなんとなく取った〈民俗学II〉で高槻彰良と出会います。レポート課題の提出の際、不思議なハナシがあれば書くように言われたので、そこに死者の盆踊り体験を書いたことがきっかけで気に入られ、彰良の受けた怪異現象に関する相談の聞き取り調査を手伝うことになります。尚哉の役割は、怪異の話を聞くと理性が吹っ飛んでしまう彰良を抑える「常識担当」と、初めて行くところでは方向音痴で迷子になってしまう彰良の「ナビ担当」です。

また、彰良の幼馴染・佐々倉健司こと「健ちゃん」は刑事で、可能な限り彰良の調査に車の運転などで協力します。彰良が鳥に遭遇して倒れたときの運び役も担っています。


ストーリーは主に尚哉と彰良と佐々倉の3人による怪異(事件)調査によって展開していきます。さまざまな怪異事件が彰良の元に持ち込まれますが、大抵の場合は人為的なもので、時に犯罪も関わっているので、この場合佐々倉が活躍しますが、「探偵役」は彰良です。

1巻は大抵3章立てで、それぞれ独立した短編ミステリーとなっています。
しかし、最大のミステリーは高槻彰良の失われた1か月間に何が起こったのかということです。
尚哉の「死者の盆踊り」は、5巻『生者は語り死者は踊る』で解明されますが、彰良の過去は、何かの約束事によって記憶が戻らないようになっているらしく、解明はかなり厄介なようです。
5巻で尚哉と共に黄泉の国へ降りかけた際、その問題の記憶が戻ったのですが、無事生還した後に彰良の中にいる何者かによって「それは約束違反だ」と記憶を抹消されてしまいます。
それでもなお彰良は諦めずに本物の怪異を求めて探求を続けます。
尚哉と佐々倉もずっと彰良の調査活動に付き合い続けるようですね。

このシリーズは民俗学准教授のフィールドワークがストーリーの核であるため、古事記・日本書紀・日本霊異記を始め、様々な文献が引用されており、それだけでも大変興味深いです。



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