週末で翻訳依頼の打診もお断りして時間を確保し、読書(ダン・ブラウン著、『デジタル要塞』)も読み終わってひと段落したので、次の本を読みだす前に昨日1月27日に発表されたZDFの「ポリートバロメーター」を私見を交えつつご紹介します。
次期首相候補
まずはタイトルにもあるように首相候補の話題から。ドイツでは首相候補問題のことを「K-Frage(カー・フラーゲ)」と省略することが多いです。この場合のKは首相を指すドイツ語「Kanzler(カンツラー)」の頭文字です。ちなみにメルケルさんは女性なので、「Kanzlerin(カンツラリン)」となります。正式名称はこのKの前に「連邦の」という意味の「Bundes(ブンデス)」がつきますが、正式な呼びかけ(Frau Bundeskanzlerin)など以外では普通使われません。
というわけで、カー・フラーゲです。CDU(キリスト教民主連盟)からは現職のメルケル首相が4期目を目指すことは去年の時点で明らかになっていましたが、彼女の対抗馬となるSPD(ドイツ社会民主党)の候補者は先日まで党首だったジグマー・ガブリエルとなるか前欧州議会議長マルチン・シュルツとなるか明らかではありませんでした。それが先日、党員の中ですら驚く人がいたくらい急にガブリエルが党首を辞職し、シュルツがその後継者となり、従ってSPDの首相候補になることが決定しました。前回のポリートバロメーターを見て頂ければお分かりになると思いますが、ガブリエルの人気・人望の無さはある意味群を抜いており、これではSPDが選挙で勝てないと本人も認めざるを得なかったのでしょう。
さて、シュルツが首相候補と決まった後の世論調査の結果は:
メルケル 44%
シュルツ 40%
分からない 16%
逆転が可能かどうかは分かりませんが、メルケルは本当にわずかリードしているのみです。ちなみにメルケル対ガブリエルでは60%対26%の大差をつけていましたので、シュルツがかなり強力なライバルであることは確かです。
マルチン・シュルツが首相候補であることはSPDにとって連邦議会選挙でどんな影響がありますか?:
という質問には61%が「どちらかといえばいいこと」と答えており、「どちらかといえば悪い(6%)」と「影響なし(22%)」と答えた人を圧倒的に上回っています。
大統領選挙
さて、来月には現職のドイツ大統領ヨアヒム・ガウクが任期終了となります。次期大統領候補者は連立政権党CDU/CSUおよびSPD共同推薦の現外相フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーです。左翼政党推薦の候補者などもいますが、まあ、シュタインマイヤーでほぼ決まりと見ていいでしょう。彼は昨日外相職を引き、後をジグマー・ガブリエルが引き継ぎました。ガブリエルはこれまで経済・エネルギー相として外交に関わってきましたが、優れた外交手腕を発揮するどころか、結構顰蹙を買うような問題発言があったので、この引継ぎに不安を覚えている人は少なくないです。
フランク・ヴァルター・シュタインマイヤーが連邦大統領になることをどう思いますか?:
という問いに対して、73%が「いいと思う」と答えています。「悪い」と答えたのは16%、「分からない」が11%でした。
シュタインマイヤーは外相として難しい国際危機を無難に運営してきた実績もあるので、国の顔というかお飾り的な意味合いの強い連邦大統領としてドイツの外交に貢献していくのはいいんじゃないかと私も思います。
ヨアヒム・ガウクはいい連邦大統領でしたか?:
という問いには84%が「はい」と答えています。否定的な答えは11%、「分からない」は5%でした。
まあ、無難な大統領だったと私も思っています。特に歴史に残るような足跡を残したわけでもありませんが、いかにも「国父」という役割に相応しい態度で、何の瑕疵もなく任務を果たしたという印象です。
連邦議会選挙2017
もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:
CDU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 36%(変化なし)
SPD(ドイツ社会民主党) 24% (+3)
Linke(左翼政党) 10%(+1)
Grüne(緑の党) 8%(-2)
FDP (自由民主党) 6%(変化なし)
AfD(ドイツのための選択肢) 11%(-2)
その他 5% (変化なし)
今回の結果で目を惹くのはやはりSPDの伸びと緑の党およびAfDの支持率低下でしょうか。SPDの伸びは「シュルツ・ハイプ」という感じのもののようです。私は頭が変わっただけで政党支持が変わるというのにはちょっとついて行けないものがあると思いますが、まあ、元欧州議会議長は人気があるということです。
AfDの支持落ちは、チューリンゲン州支部長のブヨルン・ヘッケ(Björn Höcke)がドレスデンで行った問題発言「私たちドイツ人は、首都の心臓に恥の記念碑を作った世界で唯一の民族だ」とドイツの回想文化(Erinnerungskultur)あるいは追悼文化(Gedenkkultur)を批判したことが影響していると見られています。
緑の党の支持が下がった理由は不明ですが、もしかしたら大晦日のケルン警察警備方法について襲撃事件を予防したことを認めず、人種差別的な警備だと批判したことや、テロ対策に関してもイデオロギー的な硬さでもって差別防止に焦点を当てるところなどが緑の党離れの一因となっているのかも知れません。選挙後の連立相手などを前以て決めないところも信頼性を失くす原因となっている可能性もあります。
1998年10月以降の連邦議会選挙での投票先回答推移:
政権満足度(スケールは+5から-5まで):1.1(前回比-0.1)
連立政権モデルの評価:
CDU/CSUとSPD(現行の「大きな連立」)
いい 47%
悪い 33%
CDU/CSUと緑の党
いい 35%
悪い 40%
CDU/CSU、緑の党、FDP
いい 24%
悪い 48%
SPD、左翼政党、緑の党(「左派連立」)
いい 24%
悪い 59%
相変わらず「大きな連立」の支持率は高いようです。ただSPDが弱っているので、もう2大国民政党の連立とは言えないという指摘もありますが。
政治家評価
政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで):
- フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.5(↑)
- マルチン・シュルツ(SPD党首・前欧州議会議長)、2.0(初ランクイン)
- ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、1.9(↓)
- アンゲラ・メルケル(首相)、1.8(→)
- ヴォルフガング・ショイブレ(財相)、1.7(→)
- トーマス・ドメジエール(内相)、1.1(↓)
- ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.8(↑)
- ジーグマー・ガブリエル(新外相)、0.7(→)
- ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.5(↓)
- サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党議員)、-0.4(→)
AfDと極右思想
一番最近のはチューリンゲン州支部長のヘッケ氏の問題発言でしたが、こうした問題発言はAfDが複数の州議会入りを果たした後、殆ど定期的と言っていいほど数か月ごとに話題になってます。
AfDでは極右思想がどのくらい支配的だと思いますか?:
非常に支配的 44%
支配的 38%
それほど支配的ではない 11%
全然ない 1%
AfDは極右的見解から十分に距離を取っていますか?:
はい 10%
いいえ 81%
分からない 9%
このAfDを極右的ではないと思っている10%以上の人たちがAfDの票田になっているのでしょうかね。嘆かわしいことです。
トランプ大統領と独米関係&英EU離脱
今国際関係で一番話題になっている人物といえばやはりトランプ新米大統領でしょう。就任早々色んな大統領令で世間を騒がせています。ドイツではドナルド・トランプ大統領の政治はどう捉えられているのでしょうか。
ドナルド・トランプの政策は非常に心配なものですか?:
はい 62%
いいえ 37%
分からない 1%
ま、心配ですよね。
独米関係はどう変わると思いますか?:
改善する 2% (2週間前:2%)
悪化する 72% (55%)
あまり変わらない 22% (39% )
トランプ就任前と比べるとかなり否定的な見方が強くなっているようですね。
次はイギリスのEU離脱についてです。トランプはこのイギリスの決断を絶賛していますが、当のイギリス国民の方は分断されたままです。
EU離脱交渉:EUはイギリスに大きく譲歩すべきですか?
はい 11%
いいえ 83%
分からない 6%
この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン」によって実施されました。インタビューは無作為に選ばれた1,303名の選挙権保有者に対して2017年1月24日から26日までの間に電話で行われました。世論調査はドイツ選挙民のサンプリングです。誤差幅は、40%の割合値において±約3%ポイント、10%の割合値においては±約2%ポイントあります。世論調査方法に関する詳細情報は www.forschungsgruppe.de で閲覧できます。
次のポリートバロメーターは2017年2月10日に発表されます。
参照記事:
ZDF heute, Politbarometer, K-Frage: Merkel knapp vor Schulz, 2017.01.27