徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:横溝正史著、『金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会』(角川文庫)

2018年11月09日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『仮面舞踏会』(1962~1974)は、「構想十余年、精魂を傾けて完成をみた、精緻にして巨大な本格推理」と煽りにあるように長編作品です。作品中の時代は昭和34年、35年で、舞台は軽井沢。金田一耕助の活躍年代としてはかなり後の時期になります。

プロローグは昭和34年8月16日に離山の洞窟で男女の心中を金田一耕助が発見する経緯が描写されており、そこで心中しそこなった男性田代信吉が後にどのような役割を果たすことになるのかはかなり後の方にならないと判明しません。その心中と同じ日に過去に4回の結婚・離婚歴を持つ映画女優鳳千代子の最初の夫笛小路泰久がプールに浮かんで死んでいるのが発見されます。死因は泥酔による錯誤からいきなり冷水に入ったことによる心臓麻痺と判断されますが、それ以前に鳳千代子の2番目の夫阿久津謙三が交通事故か事故に見せかけた他殺なのか分からない形で死亡していたこともあり、他殺を疑う刑事もいたものの、その線での捜査は打ち切られていました。鳳千代子は笛小路泰久との間に美沙という娘があり、離婚後美沙は泰久の養母(泰久は妾腹の息子)である笛小路篤子に引き取られ育てられ、千代子は美沙のために篤子にずっと経済的支援をしており、軽井沢に別荘を建ててあげたため、篤子と美沙は毎年この別荘へ避暑に来ていました。

翌昭和35年8月14日、千代子は飛鳥元忠公爵の次男で、戦後神門財閥を作り上げた財界の大物の飛鳥忠煕と恋愛中で、飛鳥は台風の襲来を迎えていた軽井沢の別荘に、千代子も近くの高原ホテルを訪れていたところ、その軽井沢の一角で千代子の3番目の夫である槇恭吾が彼の別荘のアトリエで殺されているのが発見されます。飛鳥忠熈は千代子の夫であった男が次々に死んだ件について金田一耕助に調査を依頼していたのですが、槇の件についても捜査を依頼します。 地元警察の日比野警部補や近藤刑事が捜査を行っている中、金田一たちが現場に駆けつけると、槇は鍵のかかったアトリエの中で机の上に突っ伏して死んでいるところが発見されます。死因は青酸カリ。槇の死体を移動した机の上には朱色と緑色のマッチ棒が、そのままの形であったり折られたりして、意味ありげに並べられあり、また、死体の尻には蛾の鱗粉が付着していたことなどを手掛かりに捜査が進められ、槇恭吾が千代子の4番目の夫である津村慎二が借りていた別荘で殺されたらしいことが判明します。しかし、津村慎二が予定されていた公演に現れず、行方不明となっていたため、殺人犯の疑いがかけられます。しかし、実は彼も青酸カリに倒れていたのでした。

真犯人と協力者、そしてそもそもの原因を作ったラスボスも自殺および無理心中という形で亡くなってしまうので、この作品の死者はトータル7人。

第二次世界大戦、復員後の人生の難しさ、元華族の戦後の没落、複雑な血縁などが重要な役割を果たすのは他の横溝正史作品に共通しますが、呪いや悪魔的ななにか怪奇的要素が設定の中になく、芸能人や音楽家や考古学者などが登場し、また警察側に金田一耕助にライバル意識を燃やす屈折したエリートが配されているなど、新しいパターンが見られます。

設定としての怪奇色は確かにありませんが、真犯人とラスボスの人物像の醜悪さはそれだけで十分に怪奇的です。実行犯の方にはそれでもラスボスの思惑のために人生を振り回されたという境遇の不幸から同情の余地がないでもないですが、ラスボスの方はなんというか、その凄まじい悪意と浅ましさがどんな呪いより恐ろしい感じがしました。

人の人生とは仮面舞踏会のようなもの。誰もが何かの仮面をかぶり、かりそめの役割を演じているということでしょうか。外面や肩書だけでは人の心の奥底までは分からないもの。時には非常に恐ろしいものを内に秘めている人もあるということですね。怖い怖い


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