徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』(角川文庫)

2022年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

ecritureシリーズもこれですでに6巻となります。相変わらず松岡圭祐は驚異的な執筆スピードですね。続編が出るまでに間が空きすぎると前回までの話が思い出せなくなることも多々ありますが、この著者に限っては続編をじりじり待つ必要がなく、ほとんど二か月おきに読めるのがすばらしいですね。

さて、今回杉浦李奈が関わる事件は、改造スタンガンによる2件の殺人と犬の殺害プラス雀の負傷です。
事件が起きたのは閑静な住宅街。
殺された被害者の1人は普通の50代のサラリーマン・館野良純でしたが、その死体の上に芥川竜之介短編集から切り抜かれた『桃太郎』が置かれていたので、以前に関わったことのあった警視庁捜査一課の山崎の推薦で品川署の刑事組織犯罪対策課から李奈が文学の専門家として捜査協力を依頼されます。
もう1人の犠牲者の顔が猿に似ていたこと、犬と雀が被害に遭っていたことから、桃太郎のお供である犬・猿・雉に見立てた殺人事件なのではないかということでした。
見立て殺人の動機は何なのか、『桃太郎』は館野良純に当たるのか、復讐を果たそうとしている鬼ヶ島の鬼たちは誰なのか、館野良純が生前近所の自治会を代表して苦情を言いに行ったという愛友心望という宗教団体風の会社との関係はあったのか否か。

こうした謎解きに並行して、李奈は企画が通った新作の執筆に励み、作家としての表現力の成長が編集者から褒められ、ラノベではなく一般ノベルズとして発行することになります。

また、三重県から李奈の母親が上京し、李奈に小説は三重県でも書けるから帰るように説得しようとし、母子の対立が鮮明になります。
様々な事件を通じて人としても作家として成長してきたとはいえ、母親に対してはつい甘えが出て大人げなく感情的になってケンカしてしまうところに23歳の若さが滲み出ています。

作中の文学談義も非常に興味深いですが、私が読んだことない作品の方が多かったので、話についていけずに適当に流して読んでしまいました。
読書趣味が合っている読者ならば、その観点からももっと楽しく読めたのかもしれませんが、文学的蘊蓄を流し読みしたとしても十分に面白いミステリーです。



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