徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『転迷(隠蔽捜査4)』、『宰領(隠蔽捜査5)』、『自覚(隠蔽捜査5.5)』(新潮文庫)

2018年09月15日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』にすっかりはまってしまい、3冊を一気読みしてしまいました。

『転迷(隠蔽捜査4)』では、外務省職員の他殺体が近隣署管内で見つかり、担当区域では悪質なひき逃げ事件が発生。さらに覚醒剤捜査をめぐって、厚労省の麻薬取締官が怒鳴り込んでくると、大森署長竜崎伸也の周りは騒がしくなり、さらにプライベートでは娘の彼氏がカザフスタンで起きた航空事故に巻き込まれたかもしれないーという4つのパズルピースが提供され、それらが密接に絡み合っていく展開です。割と早いうちに大筋の見当はついてしまうので推理小説としてはだめかもしれませんが、公安と外務省と厚労省の攻防、竜崎のオーソドックスではない解決・対処法による活躍などが見どころです。父親としても、だんだんいい親父になっているのではないかという印象があります。

『宰領(隠蔽捜査5)』では、元警察庁キャリアで政治家秘書に転身した人から伊丹刑事部長のもとにその衆議院議員・牛丸真造が行方不明になっているので秘密裏に捜索をしてくれるように依頼が入り、羽田空港に到着する筈だったため、所轄の大森署署長竜崎にその話が持ち込まれます。やがて、大森署管内で牛丸の運転手の他殺体が発見され、牛丸を誘拐したと警察に入電があります。発信地が神奈川県内という理由で、警視庁・神奈川県警の合同捜査が決定。伊丹に指揮を命じられたのは(当然ですが)竜崎伸也だった。『転迷(隠蔽捜査4)』では、省庁間の反目・縄張り意識が障害となっていましたが、『宰領(隠蔽捜査5)』では、警視庁対神奈川県警の因縁深い対立が障害となっています。巨大組織には弊害がつきものですが、そういう理不尽なものによって本来の組織の目的達成が阻害されるというのはなんとも歯がゆいことですね。特にそういう環境の中で真っ当な仕事をしようとする者にとっては。そういう逆境にあっても事件解決のために利用できるものは何でも利用し、任せるべき人選を誤らない竜崎署長はやはりただものではない、と言う話です。

『自覚(隠蔽捜査5.5)』は、短編集で、貝沼大森著副所長、野間崎第二方面本部管理官、関本刑事部長、久米地域課長、小松強行犯係長、そして伊丹刑事部長を主人公にしたエピソードが収録されています。それぞれの苦悩と竜崎署長との関りや彼に対する感情が描かれ、魅力的なスピンオフと言えます。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)



書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『初陣』は『隠蔽捜査』シリーズのスピンオフ短編集で、主人公は本編主人公の竜崎の同期で幼馴染の伊丹刑事部長。伊丹がどう竜崎に世話になっているのかが描かれたエピソードで、二人の関係は伊丹の片思いっぽい感じですが、竜崎の方も言葉では「つれない」としか言いようのない態度ですが、なんだかんだと伊丹が持ちかけた相談に明快な解答を出して、手助けをしている当たりは結構面倒見がいいのではないかと思えるくらいです。

短編の中には『疑心』の裏話も収録されていて、女警秘書官の派遣には本当に「ウラ」があったことが語られます。「陰謀」と言うには悪意が介在していないので適切な表現ではないですが、「人が悪いな」と思うくらいには意地悪ですねwww

伊丹と言うキャラが想像以上に心配症で悩み多き人で、かなり外面を作り込んでおり、そしてそうしないと生き残れない私大出身のキャリアの立場に開き直り切れない人なのだということがにじみ出るようなエピソード集でした。私には出身大学がいつまでもいつまでもキャリアに影響を及ぼす世界は想像もつきませんけど、そういうことが当たり前の環境に身を置いている人にとっては重大事なんだろうな、とは思いました。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)


書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』シリーズ第3弾『疑心』は、米大統領の来日に当たって方面警備本部長を元はどうあれ現在は高々所轄の一署長である竜崎が拝命し、その異様な人事に何かきな臭い裏があるのではないかと疑心暗鬼になることから始まります。何か警察内部の陰謀の話なのかと思えば、そうではなくて、妻には「唐変木」と罵られている竜崎がなんと警備部から秘書官として派遣された女警にいかんともしがたい恋心を抱いてしまって仕事に集中するのに難儀する話でしたwww

いかんともしがたくてついに本人は絶対に「親友」とは認めない幼馴染にして同僚の伊丹に悩みを打ち明けるというまったく彼らしくない行動をとってしまうところが人間・竜崎のドラマを一層魅力的なものにしていると感じました。

一方米大統領訪日に当たって日本人が関与するテロ計画が進行中だというので、先遣隊に先立って来日した米シークレットサービスとひと悶着あり、どう決着するのかハラハラします。また2名が死亡した交通事故で行方不明になっていた運転手を独自に追う捜査官としては優秀だが組織人としては問題児の戸高がまたいい味を出しています。戸高の追う者が重要人物であろうことは予想できてしまうので、推理小説的な期待をしていると面白くないかもしれませんが、竜崎と戸高の人間関係の方は味わい深いと思います。竜崎自身が自分と戸高が意外と似ているのではないかと気づくあたりが、冷静な自己分析のできる竜崎の魅力と言えます。恋愛方面ではやっぱり「唐変木」でしょうけど(笑)


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞



書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

2018年09月14日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』シリーズ第2弾の『果断』は第61回日本推理作家協会賞と第21回山本周五郎賞受賞作品。

主人公は引き続き竜崎伸也(46)。今回は大森署署長として銀行強盗犯逃走から立て籠もり事件で活躍します。容疑者は拳銃を所持。事態の打開策をめぐり、現場に派遣されたSITとSATが対立し、異例ながらも前線本部の最高責任者として具体的な指揮はプロに任せつつも、意思決定が必要な時に判断を下し、ちゃんとそのことに対して責任を取る姿勢に心が洗われるようなすがすがしさを感じずにはいられません。「正しいことを正しいと言える珍しいキャリア官僚」と噂のある竜崎という設定ですが、そういう人が変人扱いされるような官僚機構は腐敗しかしないので、現実の官僚によるスキャンダルなんかに嫌気がさしている一般国民にとって、一種のカタルシスが味わえるストーリーです。架空の物語であることが本当に残念なんですけど。

今回は内助の功の奥さんが胃潰瘍で入院してしまい、竜崎の日常生活のダメっぷりが露呈してしまいますが、ちゃんと奥さんを気にかけているし、できることは自分でしようと就職活動で忙しい娘に任せきりにしないあたりが健気で好感が持てます。男女の役割分担に関して非常に封建的な考え方の持ち主ではありますが、それを周りに押し付けようとしないところが評価できます。また息子が目指したいアニメの世界にも、見てくれと言われたDVDを見て、やや認識を改めるところも、なかなか柔軟性のある親父っぷりで拍手したいくらいですね。

ストーリー展開は第1弾よりも緊迫感があり、また責任を取らされて降格されそうになったりしますが、部下の「ひっかかり」を無視せずに事件の洗い直しをすることで一転事件が全く違う様相を示し、SATが突入して犯人を殺したという厳しい批判をひっくり返すことになるのがまた痛快です。きっとこれで部下の心もがっちりゲットできたことでしょう。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作



書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

2018年09月13日 | 書評ー小説:作者カ行

『隠蔽捜査』は第27回吉川英治文学新人賞受賞作かつ第2回吉川英治文庫賞受賞作と言うだけあって読み応えある警察小説です。2005年の作品で、文庫化は2008年。シリーズの第1弾で、現場の刑事の活躍ではなく警察庁のキャリア官僚を描くところが普通の警察小説とは一味違っています。

主人公は警察庁長官官房総務課長の竜崎伸也(46)。連続殺人事件のマスコミ対応に追われながら、事件の真相(現職警察官が犯人)に気づき、隠蔽という愚によって警察機構の威信が地に落ちるのを防ぐために奔走します。一方、浪人中の息子がヘロインを吸っている現場を発見してしまい、対応に悩みます。エリート意識は強いものの、建前や原則を守る一本気な姿勢によってかなりの変人扱いを受けていますが、こういう官僚ばかりならばさぞや日本という国もましな国になるであろうと思えるような好人物です。同僚の伊丹刑事部長に小学校の時にいじめられていた恨みを抱き続けているなど大人気ない所もご愛敬ですかね。

庁内の勢力争いや様々な人間関係の縺れなど、現実にどれほど即しているのかは分かりかねますが、臨場感とドラマがあり、中間管理職としての葛藤などがひしひしと伝わってくる素晴らしい筆致です。

竜崎夫人は専業主婦で、最初はなんというか世間体とかそういうのに囚われているタイプの人なのかと思いましたが、なかなか肝の坐った味わい深いキャラで感心してしまいました。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫


 


書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

2018年09月13日 | 書評ー小説:作者カ行

『イコン』は「安積班シリーズ」第2期「神南署」の第2作で、1990年代の作品。パソコン通信の中で生まれた新しいタイプの「アイドル」有森恵美のライブで乱闘の中17歳の少年が殺されてしまう事件に始まり、次にその少年の友人で中学時代のクラスメートが殺されてしまうという連続殺人のストーリー。手がかりは彼らの中学時代の過去にあるということで捜査が進んでいきますが、割と早いうちに誰が犯人かが分かってしまうため、推理小説としてはいまいち。また、当時の技術的環境がかなり詳細に描写されているため、今読むと「風俗・技術の歴史」としては興味深いものの、やはり設定の古臭さは否めないのが残念ですね。

安積警部補と同期の生活安全課から協力することになった宇津木警部補の家庭の事情が描写され、彼のダメ父からの脱皮の過程などはホームドラマとして微笑ましい感じです。

少年犯罪の残虐化を考えさせられるお話しでもありますね。この点に関しては現在も大して変化してないのではないでしょうか。パソコン通信をツイッターまたはLINEに変えれば今風の少年犯罪の話になりそうです。アングラの「アイドル」事情もそう変わってないような気がします(よくは知りませんけど)。

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書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)



書評:スコット・ギャロウェイ著、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)

2018年09月12日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

「GAFA」とは現在世界を支配していると言える4大企業「Google」、「Apple」、「Facebook」、「Amazon」のことで、この4社をヨハネ黙示録の四騎士になぞらえて、軽快な筆致でユーモアたっぷりに分析します。

本書の大きなテーマは、「GAFAはなぜ、これほどの力を得たのか」、「GAFAは世界をどう支配し、どう創り変えたのか」、「GAFAが創り変えた世界で、僕たちはどう生きるか」の3つ。

目次

第1章 GAFA――世界を創り変えた四騎士

第2章 アマゾン――1兆ドルに最も近い巨人

第3章 アップル――ジョブズという教祖を崇める宗教

第4章 フェイスブック――人類の1/4をつなげた怪物

第5章 グーグル――全知全能で無慈悲な神

第6章 四騎士は「ペテン師」から成り上がった

第7章 脳・心・性器を標的にする四騎士

第8章 四騎士が共有する「覇権の8遺伝子」

第9章 NEXT GAFA――第五の騎士は誰なのか

第10章 GAFA「以後」の世界で生き残るための武器

第11章 少数の支配者と多数の農奴が生きる世界

謝辞

図表出所


本書を読んで納得がいくのは、やはり大きなお金を稼ぐようになるにはきれいごとでは済まされないということです。今や世界中の数十億という人々の日常生活に無くてはならない製品やサービスを提供している4社は、どれも脱税企業であり、前世紀に大量の雇用を生み出した製造業と比べるとごくわずかな従業員しか雇用せず、これまでになかったような利益を生み出し、その利益は税金として国に還元されることなく、新たなイノベーションまたは事業拡大に回るか、株主に配当される。また成長する前はどの会社も「ペテン」とも言うべき盗みを働いているーという指摘は目から鱗が落ちる感じですね。

また、Appleの成功の秘訣が高級品戦略にあり、iPhoneがスマホ市場の13・4%のシェアしかないのにもかかわらず業界利益の70%以上を占めるという実に美味しい商売をしている実態には呆れるばかりです。つまり、iPhoneは下手をすると他社のスマホよりも低コストで製造されているにもかかわらずAppleのクールなブランド力で法外な値段で売られ、またそれを買う「クールに見られたい」消費者がいるということです。今度からiPhone使用者を見たら「ぼったくられていることに気づかないおバカさん」と思うことにしようかと思います。(笑)

第11章で今後の展望として、「多数の農奴が生きる世界」が提示されており、早いうちに政治介入をしないと本当に中産階級が崩壊し、貧困層が拡大するのを止められないようです。解決策は示されていませんが、少なくとも問題が指摘され、この4社の動向を注視する必要があるという警鐘を鳴らしたことは高く評価されるべきでしょう。不信感を持ちつつうまく付き合っていくことが重要。



書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 4 良禽、茘枝を択んで棲む』(ビーズログ文庫)

2018年09月05日 | 書評ー小説:作者ア行

茉莉花官吏伝』4巻も面白かったです。ちょっと短すぎたような気もしますが。

赤奏国に借り出された白楼国の文官・茉莉花は、皇帝・暁月の無理難題に応えたことにより、“宰相候補の海成との結婚”という引き抜き計画に巻き込まれますが、白羽の矢を立てられた舒海成は茉莉花だけは嫌だと拒否!皇帝命令なので一応茉莉花を食事に誘ったりして形ばかりの努力をするところが可笑しいです。

また、そういう勧誘を見越していた白楼国皇帝側近の子星が、まっすぐで嘘の付けない皇帝側近の武官・天河に、茉莉花に近づく赤奏国の男を嘘の設定で牽制するように課題を出します。この場合、ウソがばれても「茉莉花さんを好きすぎる痛い男」ということにしかならないから、いい訓練になるとか、なんというか見も蓋もない感じでやっぱり笑えます。

茉莉花が戦いが避けられないところに来ていた内乱を別の作戦で戦なしで内乱を終結させるのは想定内でしたが、諦めずに頑張るところが健気でいいですね。

皇帝・柏陽がまたしても茉莉花の部屋を唐突に訪れて、茉莉花がお土産に持ってきた茘枝酒を一緒に飲むシーンが微笑ましい。二人は両想いなんだけどどちらもそれに気づいてなくて絶妙にすれ違っているところがwww

そして次回は州牧の不正と州牧補佐の自殺について御史台が調査に入るという州に新州牧補佐として乗り込んで、御史台の手柄を奪う(?)ことになるようです。

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書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『The Mirror Crack'd From Side To Side(鏡は横にひび割れて)』(HarperCollins)

2018年09月03日 | 書評ー小説:作者カ行

『The Mirror Crack'd From Side To Side(鏡は横にひび割れて)』は1962年に刊行されたMiss Marple(マープル)シリーズの第8作目。原題は、Alfred Lord Tennysonの詩『The Lady of Shalott(シャロット姫)』に由来します。題辞として引用されているのは以下の4行です。

Out flew the web and floated wide; (織っていた布が窓から飛び出て風に舞い)
The mirror crack'd from side to side;(鏡は横にひび割れて)
'The curse is come upon me,' cried(「呪いがかけられた」と叫ぶ)
The Lady of Shalott(シャロット姫。)

老婦人探偵Jane Marple(ジェーン・マープル)の住むSt Mary Mead(セイント・メリー・ミード村)にあるお屋敷Gossington Hall(ゴシントン・ホール)にアメリカ女優Marina Gregg(マリーナ・グレッグ)が映画監督の夫Jason Rudd(ジェイソン・ラッド)と共に引っ越してきます。とある福祉団体のためにゴシントン・ホールで開かれたチャリティーパーティーで、福祉団体関係者の女性Heather Badcock(ヘザー・バドコック)がマリーナ・グレッグに挨拶して間もなく変死してしまいます。彼女の飲んだグラスには精神安定剤Calmoが通常容量の六倍混入していました。しかし彼女が飲んだグラスはマリーナ・グレッグのものだったため、ヘザーはマリーナの代わりに死んだということになります。屋敷内の階段室に招き入れられたのはおよそ20人。この中の誰かがCalmoをグラスに入れたのか、あるいは給仕をしていた家人や臨時雇いの者が誰かに頼まれて入れたのか?

捜査はスコットランドヤードのDermot Craddock(ダーモット・クラドック)警部が担当し、部下と共に関係者の聞き込みをしますが、探偵の叔母ジェーン・マープルと情報を共有して犯人を探ります。

そうこうしているうちに、イタリア人執事Giuseppe(ジュゼッペ)と秘書のElla Zielinsky(エラ・ジリンスキー)が同じ夜に殺されてしまい、そのすぐ後でマリーナも睡眠薬の取り過ぎで亡くなってしまいます(自殺か他殺か?)。

なんだか救いようのない話です。シャロット姫に見立てられているのはマリーナです。彼女がヘザー・バドコックと挨拶して、ヘザーが語りかけている時に呪いでもかけられたような凍り付いた眼をしていたためです。マリーナ自身はそういう目つきをしたことを否定しますが、少々表現は異なるものの何人かの証言があるため、彼女が何に驚いたあるいは恐怖したのかが捜査の焦点となります。

病み上がりのミスマープルが事件のことを考え出した途端に頬を紅潮させ、生き生きとしてくるあたりはなんだか微笑ましいキャラクター描写ですが、ストーリーはそれほど夢中になれるものではありませんでした。残念。


書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)


ポワロシリーズ

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『The ABC Murders(ABC殺人事件)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Murder in Mesopotamia(メソポタミアの殺人)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『After the Funeral(葬儀を終えて)』(HarperCollins)

 

ミス・マープルシリーズ

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『The Mirror Crack'd From Side To Side(鏡は横にひび割れて)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Sleeping Murder』(HarperCollins)