『隠蔽捜査』にすっかりはまってしまい、3冊を一気読みしてしまいました。
『転迷(隠蔽捜査4)』では、外務省職員の他殺体が近隣署管内で見つかり、担当区域では悪質なひき逃げ事件が発生。さらに覚醒剤捜査をめぐって、厚労省の麻薬取締官が怒鳴り込んでくると、大森署長竜崎伸也の周りは騒がしくなり、さらにプライベートでは娘の彼氏がカザフスタンで起きた航空事故に巻き込まれたかもしれないーという4つのパズルピースが提供され、それらが密接に絡み合っていく展開です。割と早いうちに大筋の見当はついてしまうので推理小説としてはだめかもしれませんが、公安と外務省と厚労省の攻防、竜崎のオーソドックスではない解決・対処法による活躍などが見どころです。父親としても、だんだんいい親父になっているのではないかという印象があります。
『宰領(隠蔽捜査5)』では、元警察庁キャリアで政治家秘書に転身した人から伊丹刑事部長のもとにその衆議院議員・牛丸真造が行方不明になっているので秘密裏に捜索をしてくれるように依頼が入り、羽田空港に到着する筈だったため、所轄の大森署署長竜崎にその話が持ち込まれます。やがて、大森署管内で牛丸の運転手の他殺体が発見され、牛丸を誘拐したと警察に入電があります。発信地が神奈川県内という理由で、警視庁・神奈川県警の合同捜査が決定。伊丹に指揮を命じられたのは(当然ですが)竜崎伸也だった。『転迷(隠蔽捜査4)』では、省庁間の反目・縄張り意識が障害となっていましたが、『宰領(隠蔽捜査5)』では、警視庁対神奈川県警の因縁深い対立が障害となっています。巨大組織には弊害がつきものですが、そういう理不尽なものによって本来の組織の目的達成が阻害されるというのはなんとも歯がゆいことですね。特にそういう環境の中で真っ当な仕事をしようとする者にとっては。そういう逆境にあっても事件解決のために利用できるものは何でも利用し、任せるべき人選を誤らない竜崎署長はやはりただものではない、と言う話です。
『自覚(隠蔽捜査5.5)』は、短編集で、貝沼大森著副所長、野間崎第二方面本部管理官、関本刑事部長、久米地域課長、小松強行犯係長、そして伊丹刑事部長を主人公にしたエピソードが収録されています。それぞれの苦悩と竜崎署長との関りや彼に対する感情が描かれ、魅力的なスピンオフと言えます。