「慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス」
創元推理文庫
2021年12月初版
解説・池上冬樹
290頁
デフ・ヴォイスシリーズ第3弾
連作形式の短編4編
妊娠したろう者の妻と夫の悲劇を見据える「慟哭は聴こえない」
ろう者の俳優の苦悩を捉える「クール・サイレント」
行き倒れたろう者の人生を辿る「静かな男」
会社内での障がい者差別をめぐる裁判劇「法廷のさざめき」
これまでと同様
聴覚障がい者たちの苦悩と葛藤、主人公・荒井が抱える家族の問題が凝縮されています
「静かな男」
刑事・何森が中心の物語
事件性はないもののミステリー色が濃く、地域独特の手話を題材にした内容で物語としては最も印象深かったです
自分は何森刑事のキャラが好きみたいなので、本シリーズ4作を読み終えたら、スピンオフ作品「刑事何森 孤高の相貌」に挑戦しようと思います
本シリーズで、ろう者の皆さんが抱える多くの問題を教わりました
まだまだ知らないことはありますし、頭の中だけでわかったつもりでは全く意味がありません
『寛容と優しさ』ですよね
「わたしのいないテーブルで デフ・ヴォイス」
東京創元社
2021年8月 初版
255頁
デフ・ヴォイスシリーズ第4弾
コロナ禍の2020年春
コーダであり手話通訳士の荒井尚人の家庭も様々な影響を被っていました
刑事である妻・みゆきは感染の危機にさらされながら勤務せざるを得ず、一方の荒井は休校、休園となった二人の娘のため手話通訳の仕事もできません
そんな中、旧知のNPOから、ある事件の被告人の支援チームへの協力依頼がきます
女性ろう者が、口論の末に実母を包丁で刺した傷害事件、聴者である母親と娘の間にいったい何があったのでしょう
コロナ禍による制限や影響、SNSの功罪に割かれた頁が少なくなく、邪魔に感じてしまい、そこは斜め読みしました
また、荒井と家族、親族の関係性、聴こえる人と聴こえない人との間の溝に重きが置かれ、ミステリー色が皆無だったのが小説としては少し残念でしたけれど、シリーズ中で最も、ろう者の苦悩、孤独を深く描いており、それについて自分がほとんど知らないし、知る環境にいないことに改めて気づかされました
どうやら続編がありそうですね
これからも荒井一家には数々の苦難が待ち受けていることでしょう
何年か後には、少なくとも今よりはろう者の立場を慮ることのできる社会に変わっていて欲しいと思います
丸山さんはこのシリーズ以外に『キッズ・アー・オールライト』や『ワンダフル・ライフ』などの作品もあり、それはそれで読ませてくれます
これしかない、って感じ。
それが良くないんですよね。他作品も読んでみますね。