みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0355「最後の晩餐」

2018-10-21 18:38:02 | ブログ短編

 テーブルには豪華(ごうか)な料理(りょうり)が並(なら)んでいた。家族(かぞく)が食卓(しょくたく)につく。普段(ふだん)ならみんなの顔に笑(え)みが浮(う)かぶのだが、今夜は様子(ようす)が違(ちが)っていた。何だが、澱(よど)んだ空気(くうき)がただよっている。
 妻(つま)が呟(つぶや)いた。「これが、最後(さいご)の食事(しょくじ)ね。ごめんなさい。こんなものしかできなくて…」
「いいんだよ。私がいたらないばかりに…。すまない」夫(おっと)は深々(ふかぶか)と頭を下げる。
 そこへ娘(むすめ)が、「あのさ、何で別れるのよ。理由(わけ)を教(おし)えてくれてもいいじゃん」
 夫婦(ふうふ)は娘の顔を黙(だま)って見つめる。娘はそれ以上何も言えなくなってしまった。
 妻に促(うなが)され、家族は食事をはじめた。だが、二口三口で手が止まってしまう。妻は声をつまらせながら、「あなた、身体(からだ)には気をつけてね」
「ああ、お前たちも…」夫は涙(なみだ)を必死(ひっし)でこらえながら言った。「夏休みがとれたら、戻(もど)って来るから。それまで、元気(げんき)でいてくれ」
「えっ! 戻って来んの?」娘は驚(おどろ)いた顔で訊(き)いた。「二人、離婚(りこん)するんじゃ…」
 妻は、「何を言ってるの? パパは転勤(てんきん)で、オナラ何とかってとこへ行くの」
「はぁ、何それ? もう、二人とも大げさすぎよ。で、オナラ何とかってどこにあるの?」
 夫はうつむきながら、「アメリカだそうだ。何でも、とっても良い所だと…」
「でも、パパって英語(えいご)できたっけ? ねえ、そんなとこ行って大丈夫(だいじょうぶ)なの?」
「仕方(しかた)ないだろ。会社(かいしゃ)のくじ引きで決まっちゃったんだから」
<つぶやき>くじ引きで転勤先が決まるなんて、何て斬新(ざんしん)なの。でも、飛ばされる方は…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0354「狩りしない?」

2018-10-20 18:13:29 | ブログ短編

 僕(ぼく)は街中(まちなか)で声をかけられた。後ろを振(ふ)り返ると、そこにはキュートな女の子が…。しかし、彼女の出(い)で立ちは奇妙(きみょう)なものだった。背中(せなか)には弓矢(ゆみや)を背負(せお)い、長い槍(やり)を手にしている。僕は目を疑(うたが)った。こんな格好(かっこう)で逆(ぎゃく)ナンするなんて、どういうつもりだ?
 彼女は僕を見つめて言った。「ねえ、一緒(いっしょ)に狩(か)りしない?」
「かり? かりって…」僕は彼女が何を言っているのか理解(りかい)できなかった。
「だから、一緒にドラゴンを捕(つか)まえるのよ。ねえ、いいでしょ?」
「ああ、ゲームね。何とかハンターとかそういう――」
「ゲームじゃないわよ」彼女は平然(へいぜん)と言うと、「アンタなら、ドラゴンをおびき寄(よ)せる良い餌(えさ)になると思うの。だから、あたしの狩りを手伝(てつだ)って」
「えっ? いや、それは…。何で僕が、餌にならなきゃいけないんだよ」
「心配(しんぱい)しないで。アンタが喰(く)われる前に、あたしがドラゴンを捕まえるから」
 その時だ。急に日差(ひざ)しが一瞬(いっしゅん)さえぎられたかと思うと、風が巻(ま)き上がった。僕は思わず空(そら)を見上げて、あんぐりと口を開けた。ドラゴンが悠然(ゆうぜん)と旋回(せんかい)していたのだ。
「あらぁ、向こうから来てくれたわ。やっぱ、アンタって良い餌なんだ」
 彼女はそう言うと、僕の手をギュッとつかみ走り出した。
<つぶやき>街中での狩りは危険(きけん)です。人のいないことを確認(かくにん)して、注意(ちゅうい)してやりましょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0353「愛のカタチ」

2018-10-19 18:51:10 | ブログ短編

「ねえ、愛(あい)してるって言って」女は男を見つめて言った。
 男は面倒(めんど)くさそうに答える。
「このまえ言っただろ。そんなこと、いちいち――」
「この前は、この前よ。今のあなたの気持ちを訊(き)きたいの」
 女は男の愛を確(たし)かめたかった。でも男は、そんな女を疎(うと)ましく思っていた。別に嫌(きら)いになったわけじゃない。ただ、愛の言葉(ことば)を口にするのが苦手(にがて)なのだ。女は食い下がる。
「どうして言ってくれないの? あたしのこと愛してないの?!」
「そんなこと訊かなくても分かるだろ。お前に、どれだけ金(かね)使ったと思ってんだ」
「ヤマザキ先輩(せんぱい)は言ってくれたわ。あたしが訊かなくても、会うたびに…」
 男は一瞬(いっしゅん)、耳を疑(うたが)った。こいつ、俺(おれ)がいるのに他の男と…。女はスマホを操作(そうさ)して画面(がめん)を男に向ける。そこに映(うつ)っていたのはゲームのキャラだった。女は、
「ほら。ヤマザキ先輩は、いつもあたしのこと思ってくれてるの」
「何だよ。俺は、こんなのと比(くら)べられてるのか? 信じられねえ。じゃあさ、こいつが、お前に何か買ってくれるのか? こいつが――」
「女はね、気持ちが欲(ほ)しいの。ほんとにあたしのこと、真剣(しんけん)に思ってくれてるって」
「そんなに言うんなら、言ってやるよ。その代わり、プレゼントはいらないんだな」
 女の顔が一瞬引(ひ)きつる。「それはダメよ。あたし、そんなこと言ってないでしょ」
<つぶやき>愛されていれば幸せな気持ちになる。でも欲しい物も…。女は欲張(よくば)りかもね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0352「昔の彼」

2018-10-18 18:52:39 | ブログ短編

「えっ! 梶原(かじわら)君? 梶原君なの?」
 彼と会うのは…、10年ぶり、かな? 高二のとき何となく付き合い始めて、卒業(そつぎょう)とともに疎遠(そえん)になってしまった。そもそも、あの頃(ころ)の私たちって、本当(ほんとう)に付き合ってるって言えたのかな? 人を好きになるってことがどういうことなのか、よく分かってなかった気がする。まだまだ子供(こども)だったのよ。
「もう、こんなとこで会えるなんて思ってもいなかったわ」
 私は何だかソワソワして、変な気分(きぶん)だ。だって、ぜんぜん違(ちが)うんだもん。あの頃の彼は、何だがヤボったくって普通(ふつう)の子だったのよ。今、目の前にいる彼とは大違いだわ。
「えっ、私? なに言ってるのよ。私なんか、もうおばさんよ」
 もう、やだ。私の顔をじっと見て…。そんなに見つめられたら…、私、困(こま)るわ。
「でも、それは無理(むり)よ。だって、私…」
 私はさり気なく彼の薬指(くすりゆび)を見る。そこには、何もない。まだ、結婚(けっこん)してないのかも。あーっ、勤務中(きんむちゅう)じゃなかったらよかったのに。
「じゃあ、これ。もう、駐車違反(ちゅうしゃいはん)なんかしちゃダメだよ。罰金(ばっきん)はちゃんと払(はら)ってね」
 彼は、何か言いたげだったけど、そのまま言葉を呑(の)み込んで行ってしまった。私は彼の後ろ姿(すがた)を見つめながら、「また来てね」と呟(つぶや)いた。
<つぶやき>知り合いだからって、特別扱(とくべつあつか)いはしてもらえませんよ。違反(いはん)はしないように。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0351「ヘコんだ日」

2018-10-17 18:35:58 | ブログ短編

 今日は彼とデートの日。明け方近くまでかかって、たまっていた仕事(しごと)も片(かた)づけた。今日一日、仕事のことなんか忘(わす)れて彼と目一杯(めいっぱい)楽しもう。私は、ウキウキしながら家を出た。
 待(ま)ち合わせの場所(ばしょ)で彼を見つけて、私は手を振(ふ)りながら彼に駆(か)け寄る。彼は、私を見るなりつぶやいた。「今日は可愛(かわい)くないよな。お前の顔、何か変(へん)だぞ」
 私は言葉(ことば)を無(な)くした。確(たし)かに、寝不足(ねぶそく)で目の辺(あた)りがちょっと腫(は)れてるかもしれない。それに、お化粧(けしょう)ののりも…。でも、それは今日のために仕事がんばったからで…。そんな言い方しなくてもいいじゃない。好きな人にそんなこと言われたら、私どうすればいいの?
「ごめんなさい。遅(おそ)くまで仕事してたから…。でもね――」
 彼は私の方を見ようともしないで、「ほら、行くぞ。お前さぁ、のろいんだよ」
 私は、彼のひと言で完全(かんぜん)にヘコんでしまった。こんなんじゃ楽しめないじゃない。せっかくのデートなのに。私はため息(いき)をつく。彼は、そんな私のことなんかお構(かま)いなしに、一人でどんどん歩いて行く。私は追(お)いかけながら、「ちょっと、そんなに急(いそ)がなくても――」
 彼は私の腕(うで)をつかむと、「急がないと売り切れるんだよ。限定(げんてい)モデルなんだ」
「はぁ? なにそれ? 今日は、私とデートじゃ…」
「デートなんかいつでもできるだろ。限定モデルは今日じゃないと手に入らないんだ」
 それって、どういうことよ。私のことは、どうでもいいってこと?
<つぶやき>乙女心(おとめごころ)は、ちょっとしたことで傷(きず)ついてしまうのです。分かってください。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする