みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0350「光る森」

2018-10-16 18:58:05 | ブログ短編

 森の中を男と女が歩いていた。どうやら道に迷(まよ)ってしまったみたい。女は言った。
「ねえ、ほんとにこっちでいいの? もう、あたし、疲(つか)れた」
「もうすぐだって。たぶん、こっちの方だと思うけど…」男は自信(じしん)なさげに答える。
「何それ。あなたが言ったのよ。こっちの方が近道(ちかみち)だって」
「だから、近道だと思ったんだよ。何となく、こう、引(ひ)かれるもんが…」
「もう、イヤ! あなたっていっつもそう。アバウト過(す)ぎるのよ」
「大丈夫(だいじょうぶ)だって。俺(おれ)について来れば心配(しんぱい)ないさ。さあ、行くぞ」
 いつの間(ま)にか、辺りは薄暗(うすぐら)くなってきた。女はますます不安(ふあん)になる。それに、足が痛(いた)くて動けない。女は弱音(よわね)を吐(は)いた。
「もう歩けない。――あたし、疲れたわ。あなたについて行くの」
「なに言ってんだよ。もうすぐだって。がんばれよ」
「あたし、別れる。あなたに振(ふ)り回されるのはもうたくさんよ。うんざりだわ」
 女はしゃがみ込(こ)んでしまった。森は瞬(またた)く間に暗闇(くらやみ)に包(つつ)まれる。もう何も見えない。その時だ。女は足下(あしもと)にかすかに光るものを見つけた。それは、淡(あわ)い緑色(みどりいろ)の光。落ち葉が光を放っていた。女が目を上げると、そこにはまるで道しるべのように、無数(むすう)の小さな光りの点(てん)がどこまでも続いていた。まるで、おとぎの世界に迷い込んでしまったみたい。神秘的(しんぴてき)でこの世のものとは思えない。女は光に導(みちび)かれるように歩き出した。
<つぶやき>森から抜(ぬ)けられるといいのですが。人生も道しるべを見逃(みのが)さないようにね。
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0349「涙のわけ」

2018-10-15 18:49:43 | ブログ短編

 女性の涙(なみだ)は美しい。誰(だれ)かがそんなことを言っていた。しかし、その裏(うら)にはおぞましい策略(さくりゃく)が隠(かく)されている場合(ばあい)もあるかもしれません。
「あれ、桜井(さくらい)さん? どうしたの、こんな時間まで」
 営業(えいぎょう)から戻った藤本(ふじもと)が驚(おどろ)いたように言った。もう終業(しゅうぎょう)の時間はとっくに過(す)ぎている。
「あの…。藤本さんこそ、どうしたんですか?」香里(かおり)は弱々(よわよわ)しい声を出す。
「僕(ぼく)は、ちょっとトラブっちゃってね。それで…。桜井さんは?」
「あたしは…。明日の会議(かいぎ)の資料(しりょう)を――。もう、あたしって、仕事(しごと)が遅(おそ)いから…」
「そうなんだ。だったら、誰かに手伝(てつだ)ってもらえばよかったのに」
「そんなこと頼(たの)めません。みなさん、お忙(いそが)しいのに…」
 香里は顔を伏(ふ)せる。頬(ほお)にひとすじの涙。「ごめんなさい。あたし、どうしちゃったんだろ」
「あっ…、大丈夫(だいじょうぶ)だよ。僕、手伝うから。どうせ、家に帰って寝(ね)るだけだし」
 ここで彼女をひとり残(のこ)して帰ったら、男としてどうなんだ? と、藤本は思ったのかもしれない。香里はホッとしたように微笑(ほほえ)むと、「ありがとうございます」と頭を下げる。
「いや、いいんだよ。気にしないで」藤本も何となくウキウキとした気分(きぶん)。
 そこで香里が言った。「あの、この後、お礼(れい)に、お食事(しょくじ)でも…。ダメですか?」
<つぶやき>恋愛(れんあい)とは、だまし合いなのかも。相手(あいて)の心をギュッと鷲(わし)づかみにするために。
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0348「いいもん、わるもん?」

2018-10-14 18:52:59 | ブログ短編

「ねえ。ママは、いいもん? わるもん? どっちなの?」
 幼稚園(ようちえん)に通(かよ)い始めた男の子が、迎(むか)えに来たママに訊(き)いた。ママは笑(わら)いながら答(こた)える。
「そうねえ、ママは、いいもんかな。ヨシ君(くん)は、どっち?」
「ボクも、いいもんだよ。じゃあ、わるもんはパパだね」
「えっ? パパがわるもんなんて、かわいそうだよ。パパも、いいもんにしてあげないと」
「でも、いいもんだけじゃつまんないよ。ぜんぜんおもしろくない」
 二人は家に帰るまでこの話で盛(も)り上がった。家の前まで来ると、叔父(おじ)さんが待っていた。
 男の子は叔父さんにも訊いた。「ねえ、おじさんは、いいもん? わるもん?」
 叔父さんはしばらく考えていたが、「君は、何をもっていいもんとわるもんを区別(くべつ)しようとしているのか? 具体的(ぐたいてき)に基準(きじゅん)をハッキリさせてくれ」
 男の子はキョトンと首(くび)を傾(かし)げる。ママは見かねて、
「ちょっと、なに真剣(しんけん)になってるのよ。相手(あいて)は子供(こども)なんだから」
「姉(ねえ)さん、彼はもう立派(りっぱ)な子供だ。適当(てきとう)なことは言えないよ」
 叔父さんは男の子に向き直(なお)ると、「しばらく熟慮(じゅくりょ)が必要(ひつよう)だ。次まで待ってくれないか?」
 ママは呆(あき)れて、「次に来るころには、そんなこと忘(わす)れてるわよ」
<つぶやき>子供にとって、関心事(かんしんごと)は目まぐるしく変わるものです。だから面白(おもしろ)いです。
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0347「場末の酒場」

2018-10-13 18:42:31 | ブログ短編

 若者(わかもの)が一人、場末(ばすえ)の酒場(さかば)の暖簾(のれん)をくぐった。店の中にはタチの悪(わる)そうな客(きゃく)と、一癖(ひとくせ)も二癖(ふたくせ)もあるような女が、喧騒(けんそう)の中たわむれていた。若者は明らかに場違(ばちが)いな存在(そんざい)だ。
 若者は、カウンターで一人、つまらなそうに呑(の)んでいる女に声をかけた。
「あの、人を捜(さが)してるんですが…。近藤幸恵(こんどうゆきえ)と言います。ご存(ぞん)じありませんか?」
 女は若者の顔をうつろな眼差(まなざ)しで見つめると、「ふん。こんなとこで、本名(ほんみょう)を名乗(なの)るヤツなんていやしないよ。それより、あたしと遊(あそ)んでいかないかい? 安(やす)くしとくよ」
 若者は困(こま)った顔をして、「いや、僕(ぼく)は…。あの、この辺(あた)りで見かけた人がいるんです」
「そんなに良い女なのかい? まったく、やけるねぇ」
「どうしても会いたいんです。会って、連(つ)れ戻(もど)したいんです」
「やめときなよ。どういう事情(じじょう)か知らないけど、こんな所まで流れて来たんだ。もう、汚(よご)れちまってるよ。その女だって、アンタのことなんか忘(わす)れてるさ」
「それでも…、それでも会わなきゃいけないんです。彼女を助(たす)けたいんです」
「アンタもバカだね。良い女は他にいるだろうに…。でも、嫌(きら)いじゃないよ。そういう男」
 女は若者の話を聞いて、「知らないね。右目の下にホクロ…。まあ、気にかけておくよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「よしてよ。そんなこと言われると、何だかこそばゆいよ」
<つぶやき>一人の人のことを、そんなに真剣(しんけん)に思えるなんて。何だかうらやましいです。
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0346「姉の弱点」

2018-10-12 18:59:21 | ブログ短編

 横暴(おうぼう)な姉(あね)に悩(なや)まされていた弟(おとうと)。いつも顎(あご)で使われていた。でも、姉に彼氏(かれし)ができたことで、その立場(たちば)が逆転(ぎゃくてん)しそうな雰囲気(ふんいき)。それは、姉のいろんな秘密(ひみつ)を弟がにぎっているからだ。もし彼氏に知られたら、どういうことになるのか――。姉は気が気でない。
 例(たと)えば、小学生の頃(ころ)の恥(は)ずかしい話とか、いろいろ上げれば切りがない。弟はちゃっかりとその彼氏と携帯(けいたい)番号を交換(こうかん)し、ホットラインを確保(かくほ)している。もう姉も手を出すことができない。しかし、姉もこのまま手をこまねいてはいなかった。
「そんなこと言ってもいいのかな?」弟は、姉の要求(ようきゅう)に弱腰(よわごし)ではなかった。
 だが、姉は余裕(よゆう)の表情(ひょうじょう)を見せていた。弟の顔に不安(ふあん)がよぎる。姉は笑(え)みさえ浮(う)かべて、
「いいわよ。彼にはすべてを打ち明けたから。もう知られて困(こま)ることはないの」
 だが、弟もここで引き下がるわけにはいかない。最後(さいご)の手を打った。
「じゃあ、高校の時の告白(こくはく)話とか。あれって、かなり笑(わら)えると思うんだけど」
 姉は顔面蒼白(がんめんそうはく)。声を引きつらせ、「な、何で知ってるの? そんなはずないわ」
 弟の作戦(さくせん)は見事(みごと)に功(こう)を奏(そう)した。「やっぱり、これは話してないんだ。そうだよね。いちばん恥(は)ずかしい話だから。僕(ぼく)も、初めて聞いたとき――」
「嘘(うそ)よ! あんた、私が卒業(そつぎょう)してから入学(にゅうがく)したんじゃない。知ってるはず…」
「学校では有名(ゆうめい)な話だよ。いろいろと情報(じょうほう)は入ってきてたんだ」
<つぶやき>情報を制(せい)する者が人を制する。でも姉弟(きょうだい)なんだから、程(ほど)ほどにしときましょ。
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