安倍晋三政権が開会中の通常国会に提出を狙う「共謀罪」法案の危険性が国会での野党の追及で次々と明らかになっています。安倍首相らは「テロ対策」のためであり、「一般の人が対象になることはない」と繰り返しますが、予算委員会の審議で、政府側は「テロ組織」の定義すらまともに説明できません。こんな状態で、国民の思想や良心の自由、人権にかかわる重大法案を持ち出すこと自体、異常です。安倍政権は法案の国会提出を断念すべきです。
歯止めのなさ浮き彫りに
安倍政権が「テロ対策」の名目で共謀罪を新設するために国会に出そうとしているのは、組織犯罪処罰法改定案です。この法案は2000年代初めから3回にわたり国会に提出されたものの、実際の犯罪行為がなくても、相談や計画しただけで処罰される危険な内容に、“内心を取り締まるのか”と国民の強い反対が広がり、3度とも廃案に追い込まれたものです。
今回、安倍政権は、共謀罪ではなく「テロ等準備罪」にしたとか、対象を絞り込むなどといって過去の共謀罪とは違うとさかんに強調しますが、野党議員の国会質問は、危険な本質に変わりがないことを浮き彫りにしています。
政府は、処罰対象は「組織的犯罪集団」に限ると説明し、その集団は、テロ組織、暴力団、薬物密売組織と例示しています。しかし、日本共産党の藤野保史衆院議員の質問に、金田勝年法相は「それ以外のものも含まれる場合がある」とした上、なにが「共謀」にあたるか判断するのは捜査機関と述べました。安倍首相も組織的犯罪集団の「法定上の定義はない」と認めました。これは事実上、警察などに判断をゆだねるというものです。いくら、労働組合や市民団体、民間企業が対象にならないよう法文上明確にする、といっても歯止めになる保証はありません。
警察はこれまでも、原発反対の幅広い市民運動などを監視対象にして情報収集を繰り返してきました。法相は、他の野党議員の追及に、共謀罪をめぐる捜査の中で、電話やメールなどの盗聴を可能にした「通信傍受法」を使うことを将来的に検討することも認めました。共謀罪の創設で、犯罪に関係のない国民の人権・プライバシーが侵される監視社会への道が一層強まることは否定できません。
「テロ対策」という口実は崩れています。日本はすでにテロ防止のための13の国際条約を締結し、57の重大犯罪について、未遂より前の段階で処罰できる国内法があります。政府が持ち出す国際条約も「テロ対策」が目的ではありません。東京五輪の開催を理由にして国民を欺き、思想・内心を取り締まる違憲の法律を成立させようというのは、極めて悪質です。
「治安維持法」再来を阻み
戦前の日本で、思想・言論弾圧に猛威をふるった治安維持法も、法案提出の際は“労働運動をする人が拘束されるようなことをいうのははなはだしい誤解だ”と政府は説明しました。しかし、実際は労働運動はじめ宗教者、学生、自由主義者など幅広い人たちが弾圧の対象になりました。この痛苦の過ちを繰り返してはなりません。
100人を超す刑法研究者が法案反対声明を出すなど批判は広がっています。この声を無視し暴走することは絶対に許されません。