「23議席という数字は誰も想像していなかった」
東京選出の自民党議員や同党関係者、政府関係者から東京都議選(2日)の歴史的惨敗について「想定外」の言葉が深刻に語られます。自民党大敗の深層を考えます。
「投票日1週間前の情勢調査では41ぐらい取れるはずだった」
自民党ベテラン議員の一人はこう語ります。情勢の大激変の中の都議選だったことが浮き彫りです。自民党の土屋正忠衆院議員は自身のブログで「10数年前、県庁所在地の小選挙区の第1区で自民党が相次いで敗北して『1区現象』と言われた。この現象が東京全体を覆い尽くした」と述べます。
「実は強くない」
従来の歴史的最低ラインは38議席。これを15議席も下回る結果はどうして起きたのか。
政府関係者の一人は、「もともと支持基盤が広いわけではない。塊のような消極的支持に支えられてきた。それが一気に離れた。公明党と離れてたたかったのも大きかった」と述べます。自民党関係者の一人は「メッキがはがれた。実はもともとそんなに強くない。それが露呈した」と語ります。
安倍政権の暴走への怒りが噴き出す中で、党の基盤のもろさが露呈したという共通の指摘です。
2014年総選挙で自民党の対有権者総数に対する得票率である絶対得票率は16・99%(比例代表)で、5人に1人の支持も得ていません。その後、内閣支持率は60~50%台と高水準を維持してきましたが、支持の最大の理由は「ほかに適当な人がいないから」という消極的支持が多数でした。
東京大学社会科学研究所の宇野重規教授(政治学)は「直近の政治の動きの中で、森友・加計疑惑、若手議員の暴言や稲田防衛相の失言などが重なったが、根本では自民党の総体的な実質基盤の弱さがもろに現れた」と指摘。「直近の総選挙での小選挙区での絶対得票率も25%程度。後援会組織も弱くなって自民党自体が空洞化している」と語ります。
さらに宇野教授は、「突っ込んで考えるとそれだけではない」として次のように語ります。
「安倍政権のやりたいことは、結局、憲法改正であって、日本社会の真の未来など見ていない。改憲のために支持率を維持する、そのためには株価であり、円安である。少子高齢化に集約される日本社会の持続可能性、国民の日々の生活は放置され、深刻に毀損(きそん)されている。そういう政治に対する不安、前途のみえなさに対する根本的な憤りが噴出した」
急落「赤信号だ」
自民党関係者の一人は、「都議選結果に加えさらに厳しいのが、選挙の1週間後の全国世論調査(10日発表)で、内閣支持率が3割前半まで一気に落ち込んだことだ」と衝撃を隠しません。14日には時事通信の世論調査で「危険水域」と言われる20%台(29・9%)に続落。支持率急落が止まらない状況です。
ベテラン議員は「30%を切ったら危機的状況、赤信号だ」と表情を変えました。「このうえ23日の仙台市長選、30日の横浜市長選で負けたら、もう終わりだ」と危機感を募らせます。
受け皿示した共産党 野党共闘の文化定着しつつある
「安倍首相や菅官房長官は態度が大きいし、上から目線。国会答弁も記者会見も、相手の後ろに国民がいるのを忘れて、人をばかにしたような、高飛車で、頭から反対意見を切り捨て、自分だけが正義だという態度。きちんと説明するのが官房長官の役割なのに『全く問題ない』と傲慢(ごうまん)にくり返す。あんなむちゃくちゃな答弁を毎日やっていたら、国民が怒るのも無理はない」と、前出の自民党ベテラン議員はまくし立てます。
「なんであれほどの失言をした稲田防衛相を切らないのだ。多くの議員より自分の“身内”の方が大事なのか」と安倍首相への不満が充満しています。
政府関係者の一人も「政治の質、安倍政権の体質への肌感覚での反発だ。安倍首相自身の問題だけに、内閣改造では回復できない」と述べます。
自民党議員の一人は「安倍政権の求心力は、支持率が高く選挙で勝てることにある。都議選で惨敗し、支持率が下がれば、人心は一気に離れる」とし、「憲法改正どころではない」と肩を落としました。
筋を通す大切さ
小池百合子都知事率いる「都民ファーストの会」が55議席に躍進する中、日本共産党が現有議席を超えて躍進したことに注目が集まっています。
法政大学名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)は「共産党が前進したのは安倍政治と対峙(たいじ)し、ぶれることなく間違っていることは間違っていると言い続けてきたことが評価された結果だ。安倍政権との対決で筋を通すことがいかに支持を獲得するうえで重要かということだ」と強調。そのうえで五十嵐氏は、共産党が共闘という「受け皿」を示してきたことの重要性を語ります。
「自民党は比例代表では17%程度。その背後には投票に行かない多くの人がいる。これらの、いわば諦めている人たちに希望=受け皿を提示する必要がある。今回の都議選では議員選挙での他党派候補の応援、政党間の連携が生じた。共通政策づくりで一致点を拡大してきたこれまでの取り組みの成果だ。共闘の経験と信頼感が背景にある。そこから新しい政治文化が生まれ、政党間の垣根が低くなり『共闘は当たり前』で、エール交換が行われるようになった」
政治判断が成熟
東大の宇野教授は「特定秘密保護法から安保法制、共謀罪、さらに原発、これらの課題で一貫して極めて強い批判勢力があり、それが日本全体で確固として存在している。この人たちの受け皿になり得たのは、都民ファーストではなく共産党だった。共産党は固有の支持基盤プラス、強い安倍批判勢力にとっての唯一の受け皿になった」と指摘します。
マスメディア関係者の中からも「無党派層の中の政治的に高感度の部分は、ファーストに行かずに共産党に行った。丸々ファーストが非自民・反自民の受け皿になったわけではない」という声が相次ぎます。
宇野氏は、野党共闘の積み上げについて「批判勢力がバラバラにされ各個撃破されてしまうと相対的な強さしかないはずの自民党が『1強』になってしまう。これに対抗するというある種の政治的リテラシー(知見)、戦略的な感覚が一般市民にも広がっている。100%一致できなくても、一人でも多く批判勢力の代表を送り出すにはどうすればいいかと、政治的判断力の成熟が進んでいる。野党共闘の文化は定着しつつある」と述べます。
自民党惨敗の深層では、日本共産党と市民と野党の共闘が表裏の関係で深く関連しています