フランス司法の最高機関である憲法会議は29日、年100万ユーロ(約1億4400万円)超の所得に対して、企業側が「75%」の税を納める財政法を承認し、同税制は2年間の時限立法で、正式に成立しました。
憲法会議認める
「75%所得税」はオランド大統領が昨年の選挙時に打ち出した公約。個人に対する課税案は、映画俳優ドパルデュー氏が国外移転するなど反発が強く、憲法会議が違憲判断を出したために廃案となりました。オランド氏は、改めて給与を支払っている企業側に負担させる策をとり、成立にこぎつけました。
政府によると、対象となる給与所得者は約1000人で、470社が納税義務を負うことになります。納税額は2億1000万ユーロ(300億円強)と見積もられています。
同税制に対して、経営が苦しい仏プロサッカーリーグ・アン(第1リーグ)は、スタープレーヤーの放出を余儀なくされると強く反発。ストライキ(試合の中止)も辞さない構えを表明していました。同リーグの増税額は4400万ユーロ(約63億円)にのぼると試算されています。
大企業幹部への庶民の不満反映
先進工業国34カ国で構成する経済協力開発機構(OECD)は5月、財政危機で加盟各国が社会福祉削減を続けた結果、「所得格差の拡大は、2010年末までの3年間にそれ以前の12年間を上回った」と警告する報告書を発表しました。
戦後最大の金融・経済危機のきっかけとなったリーマン・ショックから5年。この間、欧米では失業者が増え、労働者の賃金が抑制され、社会福祉が切り下げられる一方、金融機関や多国籍企業は利潤を積み上げ、その幹部たちは法外な報酬を手にしてきました。
これに対する庶民の怒りと不満は国際政治に一定の変化をもたらしつつあります。
欧州連合(EU)では、金融機関による過度な投機活動を抑制するために、統一的な金融取引税を導入することを11カ国が合意。1月から具体化への作業を開始しました。
正規労働者の最低賃金と最高経営者の報酬の格差を1対12以下に―スイス
2月末~3月初めには、EUが同様の効果を狙って銀行員の賞与に上限を設けることを決定。スイスでは、企業幹部の高額退職金・一時金に株主総会の議決を必要とすることが国民投票で圧倒的な支持を受けました。
投票結果を受けて、同国のある政党代表は「一部の経営陣の利己的な考えに対する有権者の怒りを反映したものだ」と語りました。
スイスは11月にも、同一企業内で正規労働者の最低賃金と最高経営者の報酬の格差を1対12以下に制限することを問う国民投票を実施しました。これは反対多数で否決されましたが、賛成票がほぼ3分の1に達したことも注目されます。
こうした国民投票の実施そのものが、先進国では初めてのこと。国際的に共通した大企業幹部に対する庶民の感情を表した出来事でした。
一方、6月の主要8カ国(G8)首脳会議、9月の主要20カ国(G20)首脳会議は、多国籍企業による租税回避地(タックスヘイブン)を利用した「課税逃れ」対策の強化で合意しました。
それぞれの対策もその効果はまだ明らかではありません。しかし、世界の指導者があれこれ対策を試みること自体、庶民の怒りと不満の奥深さとそれに耳をふさぎ続けることは不可能だということを物語っています