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きょうの潮流

2017-08-31 | コラム

家を支えていくために郵便局に就職した少年は、あの日も配達の最中でした。目のくらむような閃光(せんこう)。後ろから爆風に突き上げられ、自転車ごと数メートルも吹き飛ばされました▼起き上がって手を背中に当てると、シャツはなくなり、拭うとヌルーッとした黒いものがべっとりと。左腕の皮膚は地面につくほど垂れ下がっていました。16歳のときに長崎で被爆した谷口稜曄(すみてる)さんです▼地獄のなかをさまよい、助けられてからの治療もまた耐えがたい苦しみの連続でした。うつぶせのまま1年9カ月。焼けて腐った肉がどぶどぶと流れ落ち、左腕にはうじがわく。あまりの痛みに「殺してくれ」と何度も叫びました▼焼けただれた背中、えぐれた胸、左腕も曲がり、顔にケロイドも残りました。退院してからも偏見や差別にあいますが、同じ思いに悩み苦しむ仲間とともに被爆者運動の先頭に。赤い背中に原爆を背負って国内外を駆け回りました▼戦後70年の平和記念式典。安倍首相の前で谷口さんは政府が推し進める改憲と戦争法を「許すことはできない」と痛烈に批判しました。核兵器禁止条約の熱気に包まれた今夏の原水爆禁止世界大会にも病室から「核兵器がなくなるまで、被爆者はたたかいをやめない」と▼稜曄の名には「光が届かない所も隅々まで照らす」という意味が込められているそうです。核のない平和な光に満ちた世界をめざし、生き証人としてたたかった88年の生涯。その意志と執念は、いま国境をこえて人々に受け継がれています。

 

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