〈第三項〉論で読む近代小説  ◆田中実の文学講座◆

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「近代小説の未来」について その2

2023-04-20 11:06:42 | 日記
昨日のブログ記事を読まれた方から、ご質問を頂きましたので、続きを書きます。
 
木野は意識では強く火傷の女を拒絶していながら、何故それに魅かれ、誘惑に従うのか、
そのメカニズムが読者として納得できにくい、とのご質問でした。
なるほど、と思いながら、お聞きしました。
肝心の所ですね。

木野は意識では彼女を斥け、無意識では魅かれ、これを自覚できずにいます。
木野はツクリネアカ、相手に迎合してしか自分を出せず、内部に空虚を抱え、
引き裂かれています。
そこに賢い蛇が自分の心臓を隠しています。

表面的な付き合いならツクリネアカが通用しますが、
関係が深くなると、相手との「ボタンの掛け違い」が浮上してきます。
つまり、離婚した元妻も火傷の女もその意味では木野にとって、
同様の問題を浮上させていたのです。
妻と離婚の正式の処理をするために再会した際、
木野が彼女の青いワンピースの下の身体に、火傷の女の身体を重ねて
想像するのはそのためです。

木野は意識では常に相手に心地よさを感じさせるタイプですが、
そのツクリネアカは彼の内奥を裏切って、引き裂かれた空虚、これを読み取りましょう。
カミタはこれを木野に見せるために旅に発たせ、木野を限界・境界に追い込みます。
物語の結末、私ならざる私が心の扉を叩く、反「私」に至るのです。
鍵は内側にあって、外から開く不条理の問題、遠くまで、繋がっていきます。

三匹目の蛇の問題、結末のことは次回にしましょう。

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