詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

届かない場所

2017年12月15日 | 
家と家の間を縫って歩く
わたしたちにはまだ
朝の光は届かず
あざやかな青の底に沈んでいる

鳥の声が八分音符で降ってきて
見上げれば
灰色の木が伸びあがった先のほうは
光の角度に収まり
白と金色に塗りわけられて
ちいさなおなかをふくらませた小鳥が
枝の実のようにとまっている

風景はすべて
気がかりなひとを示唆してしまうけど
低いところで
同じところを回るばかりの
ひとりきりの問答
葉っぱが散るにも何かを思い出して
胸がいたくなってしまう
ふいにやぶって
ずっと上のほうで
ただその瞬間だけを夢見る
その奥に重力を離れて結ばれている
ちいさな世界が咲いている




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走る

2017年12月07日 | 
赤錆びて剥がれそうな空に追いかけられて
鉛色の雲に向かって走る
書き込みページの小ささに圧迫されて
文字数が身を縮こませ
一行がどんどん短くなっていく

四角い場所を目指して走っている
まわりのビルはとうもろこしじみて
一粒ずつ窓という文字が光って浮きあがってくる
毛が黒く乱れてからまってくる

鉛色の雲に向かって走っている
すぐ後ろから呼吸がぴたりとついてきて脅迫する
止まれ!とも
急げ!とも聞こえる
おもわず振り返る
まとわりつくものの正体はわからない
自分の息なのに

ガーゼの肺が引っ張られて破けそう
薄汚れて見えなくなる白いところ
信じて生きてきたのにきれいな心
ああ気付いてしまってかき乱すと
硬くなった金属製の細かな網目になった
もうところどころ破けてしまった
散らばる消しゴムのかす

角を曲がると狭い路地
墓地のまわりを走っている
入り口それとも出口に向かって
二回曲がれば着くはず
路地は街灯に白けて
ひっそり通る者たちが順繰りに青ざめる

不安に駆られ
塀の中へ視線を投げ入れると
大樹が巨大な頭のように
真っ黒な影を落としている
その向こうで
閉じようとしている
わたしたちの大きなまぶた
青緑色の空が鈍い光で抗っている

呪いのような黒文字が踊っている
過ごしてきた時間から
不吉な未来を割り出そうとしている
語尾が結論を産み落とす前に
走って追い抜かなければ

墓地の門は閉まりかけていた
そっと巨大な耳に迷い込んでいく
やわらかい耳朶を踏んでいく
どこにいるだろうか呼吸する者は
大きく耳をすましている
風が吹いて卒塔婆がいっせいに
ガタガタガタと歯を叩く
わたしの祖父わたしの祖父
鱗のような家系図

大樹のひろげた枝の下は
試すようにいっそう暗くなっていて
目的の番地はその道を通り抜けて
右に曲がってしばらく行って
さらに右に曲がって奥

上を行けば大丈夫だとでもいうように
子どものようになぞるように
石の跡をジャンプしながら走る
右右
突き当たって奥

生まれました
この後は……
続きそうにない系譜

ずっと来なくてごめんなさい
仏花から外したラッピングフィルムが
風で飛んでいきそうになる
大樹の陰の墓石の向こうへ行ってしまいそうになる
柄杓を持ちながら
かばんを抑えながら
花を抱えながら
急いでつかまえる
あたりは闇でひたひた

花立の水を捨てて
弁解の水を注ぎ
花を供え
手と声を合わせる
走りながら迷わないように考えてきたこと
一気に伝える
どうかどうかお願いします
どうか安らかにお眠りください
でもどうかお願いします
血に甘えがある
勝手なメッセージ注いで注いで
また来ます
一礼

大樹の下の暗い道を
卒塔婆の意地悪な笑いを
再びくぐり抜けながら
走って門にたどり着く
ほとんど閉まっている
躊躇せずに体を押し出し
抜けたと思った途端
後ろでガシャンと音がした

風の遠い音だけが届く
暖かい部屋でノートを開くと
大樹の影と怪しく光っていた空が呼吸する
私は間に合ったのだろうか
懐かしい歌が聞こえる
心に距離はないから
そろそろまた長い文章が必要になる頃
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空よ水色の空よ

2017年12月02日 | 雑記
子どもの頃、兄二人と私の三人が川の字になって寝ているその足のほうに座って、父がギターを弾いて、母と一緒に歌を歌ってくれました。そのうちの一曲がトワ・エ・モアのこの「空よ」でした。

空よ 水色の空よ
雲の上に夢をのせて
空よ わたしの心よ
思い出すの幼い日を

ふるさとの野山で
はじめて芽生えた
あどけないふたりの小さな愛
空よ教えてほしいの
あの子はいまどこにいるの

ふるさとの野道で
固く手を握った
あの頃のふたりの小さな愛
空よ教えてほしいの
あの子はいまどこにいるの

秋のすーっと晴れた空を見ると、いろんなことをちょこちょこちょこちょこ思い煩って、ハチの巣みたいになっていた心の細かな仕切りが、溶けてなくなり、黄金色の蜜があふれてとろりと垂れる。

大切な人が元気なことが、なにより大切なこと。


すーっと晴れた空ではないけれど、きれいだった空。秋の空はほんとにいい。銀杏並木が黄金色に光って、思い出が光って。歳を重ねるほど美しい季節が切なくなるのもわかるなぁ。




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