詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

二階

2023年03月04日 | 
病院のあと
自宅の最寄り駅まで戻ってから
すぐ家に帰らず
ビル二階にある喫茶店に入った
窓に向かって置かれたソファ席に沈み
本を開く
『いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ』
本を開くと
同時にいろんなページが開いてしまって
信号で停まる車や横断歩道を渡る人々を
その向こうの建物やその向こうの曇っている空を
泳ぎながら
いろんな思いつきや考えごとを渡り歩いた
金本位制、利子率、株価の暴落
手綱を離した意識は暴れ馬のように
あっちの柵こっちの柵を
踏み倒し乗り越えて
驚くほど取り留めがなかった
我に返ると
心持ち斜めにした膝を折って
ソファに座っているだけだった

たるみたかったのかもしれない
若い頃はたるみが許されると計算していた
あちこちが物理的にたるみ始める40代ともなると
こころのたるみをさらけだすことははばかられた

遊びに行くでもなく
おいしいものを食べるでもなく
計画から外れて
ふいに手綱のようにたるませてみる
そういう時間が何よりのぜいたく
若い頃のように年齢を忘れて
わたしがわたしに追いつく
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からだの展開

2023年03月02日 | 
前半分を切り取った建物の構造図
開かれた階層になって
それぞれの階のあちらこちらに
いくつもの診療科が棲みついている
今年のからだ
これは物理だ
形骸化したからだとは何か
X線にアピールされて戸惑っている
わたしとは
歳を取らないこころだと思っていたのに

アイデンティティは植物の根のように
さまざまな栄養を抱き込んでモザイクみたいになっている
からだの不調さえ符牒のように
わたしを印づけるように思われてくる
こころの流れた跡と同じくらいに

診断された原因や病名
名付けられた異物が
新しい栄養素として
さっそくわたしの根に取り込まれていく

今朝、まだ明るくなったばかりの
青空に沁みながら
わたしは地上を歩いていた
はだかになった木々の挑戦的な成長の先
まだ白い光を宿している月
跡を残しながら
きっと変わらぬこの光景
そう思う間に何十年を駆け抜けて
わたしの符牒も馴染み
飛沫のように
地球になっている
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